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074 誤解を解くには

 ザイダル神がブライデン王国に対してあらぬ疑いを抱いている。ブライデン王国が密かにベルドラン王国を侵略しようと狙っているのではないか。そのようにザイダル神が疑っていて、俺をその調査のためにブライデンへ派遣したのだ。


 俺はそのことをブライデンの王城を訪ねて王様とソニア王女に話した。それは完全にザイダル神の誤解であるのだが、困ったことに王様とソニアからザイダル神の誤解を解いてほしいと頼まれてしまった。


「それで、どうやって誤解を解くの?」


 ソニアが俺に尋ねてくるが、それはこっちが聞きたいことだ。


「本当の敵は魔物や魔族を操る人族の国だ。王様、あんたなら何か知ってるんじゃないか?」


「う~む」


 王様は考え込んでしまった。


「お父様。ダイルの話を聞いて思い出したのですけど、以前、マイモン公から同じような話を聞いたことがあります。人族は神族を頼らずに魔族と協力し合って大地の神様に味方するべきだとマイモン公は仰っていました。もしかすると、マイモン公はその敵国と何か関係があったのかもしれません」


 ソニアが王様に言ったことを聞いて、俺はマイモン公爵と話をしたときのことを思い出した。マイモン公爵を捕らえに行ったときに、同じような話を聞いた気がする。


「そう言えば、俺もマイモン公爵からそんな話を聞いたぞ。そのときはマイモン公爵の裏にいるのはザイダル神かと思ったが、ザイダル神は魔族とは関係してない。となると、マイモン公爵の裏に別の国が関係していたのかもしれないな」


「余もマイモン公爵からそのような話は何度も聞いた。魔族たちと仲良くするべきだとな。だが、魔族と手を握って大地の神様の味方になったりすれば、ドワフン王国やエルフン王国がソウルオーブの取引きを止めると言い出す恐れが出てくる。そうなると我が国は破滅だ」


「それはどういうことだ?」


 ドワフン王国はドワーフの国でエルフン王国はエルフの国だ。それぞれがソウルオーブの原材料の産出や加工で重要な役割を果たしている。


「ドワーフもエルフも天の神様がソウルオーブを生み出すために創造された種族だ。天の神様の意志に逆らって大地の神様に味方したら、そのような国にソウルオーブの原材料は売らぬだろう」


「なるほど。だから、王様としてはマイモン公爵の考えを拒絶したわけだな。それで、マイモン公爵はあんたに敵対した。だから、あんたはマイモン公爵を捕らえるしかなかったということか?」


「そうだ。マイモン公爵は王族の一人だが、危険な思想を持って余に反逆しようとしていた。しかも、裏で魔族と取引きをしていたのだ」


「マイモン公爵が裏でどの国と取引きしていたかが分かれば、大きな手掛かりになるな。マイモン公爵の裏のことを知る者はいないのか?」


「ダイル殿、そなたも知っておるだろうが、マイモン公爵は処刑した。腹心たちも同じだ。公爵の私設軍に所属していた魔闘士で死罪を免れて我が国の軍に移った者もいる。その者たちを調べてみよう。全員が下っ端の魔闘士だから、おそらく何も知らないだろうが……」


「マイモン商会のほうはどうなんだ? 裏での取引先を知っている者がいるはずだろ?」


「いや、商会のほうは表の取引きを行っていただけだ。裏の取引きは公爵とその腹心たちがやっていたらしい。マイモン商会で働いていた者は大半が別の商会に移っているはずだ。その者たちも念のために調べさせよう」


「公爵には家族がいたと思うが、そっちは?」


「公爵の家族か? それがだな……」


 王様は言い辛そうだ。何かあったのか?


「ダイル、私から話します。実は、マイモン公の奥様は自害なさいました。お可哀そうですが、公爵が処刑された翌日に後を追われて……。それと、リーナは奴隷の身分に落とされて売られてしまったの……」


「リーナ?」


「マイモン公の一人娘の名前よ。実は私とすごく仲良しだったの。でも、マイモン公が捕らえられてからは、リーナと話すことも会うことも許されなくて……。父上にはリーナを奴隷に落とさないようにとお願いしていたのだけど……」


 ソニアは悲しそうに顔を伏せた。


「余も辛かったのだ……。だが、王が自ら法を曲げるわけにはいかぬ。それで、形の上では奴隷としたが、マイモン公と親しかった商人にリーナの買い取りを依頼して、保護してもらった。今もその商人の手元にいるはずだ」


「お父様! 本当なのですか? 何も仰っていただけなかったので……」


「おまえに本当のことを話すと、すぐにリーナに会いに行くであろう。それでは国民に茶番だと思われてしまうかもしれぬからな」


「でも、マイモン公の事件から4か月が経っています。国民もマイモン公の事件は忘れてしまったでしょう。ですから、私たちのもっと近くに……、そうだわ! ベアル子爵にリーナを預かっていただいてはどうでしょうか?」


「うむ……。ダイル殿、いかがかな?」


 もし、その娘がベアルの家に引き取られたとして、俺と顔を合わせたら……。


「俺がマイモン公爵を捕らえに行ったときに、その娘に俺の顔を見られているんだ。たぶん、そのリーナって娘は俺のことを恨んでいるだろうな。ベアルの家で俺の顔を見たらリーナは辛くなるんじゃないか?」


 俺の言葉にソニアは悲しそうな目をした。


「でも、リーナは優しい娘よ。けっして人を恨んだり傷付けたりするような娘ではないの。私にとっては自分の妹のような存在なの。だから、リーナが、リーナが可哀そうで……」


 ソニアは涙を溢れさせた。リーナとは本当に仲が良かったのだな。


「それがソニアの気持ちなら俺は反対しない。と言うか、一刻も早く奴隷の身分から解放してあげれば良いと思う。だけど、それは俺ではなくて王様が決めることだ。ともかく、リーナが何か知ってないか調べてほしい」


「分かった……。リーナのことは考えてみよう。ダイル殿へはソニアから連絡させる。ソニアもそれでいいな?」


「はい……」


 実はこの先、マイモン公爵の娘であるリーナを巻き込んで、ブライデンの存亡に関わる大きな事件に発展していくのだが、この時点ではそんなことは予想だにしてなかった。


 ソニアは不満そうな顔をしている。王様がこの場で結論を出さなかったためだ。王様は王様なりに色々考えなければいけないことがあるのだろう。王様の立場をおもんぱかっていると、ソニアが今までの物憂げな表情を和らげて、何やら言いたげな顔で俺を見ていることに気付いた。


「聞いていい? ダイルの宿泊先って、ベアル子爵の邸宅なの?」


「いや、正門近くの宿屋だ。以前にも泊まっていたから知ってるだろ?」


「どうしてベアル子爵の家に泊まらないの?」


「実はベルドラン軍に所属するロードナイトが一人同行してるんだ。俺とベルドランの間で連絡を担当するという役目だが、言い方を変えれば俺の監視役だな。だから、俺がブライデンの王様や王女様と親しいことがバレると拙いんだ。ベアルのところに泊まらない理由もそういうことだ」


「それなら、ベアル子爵やレオラさんにも気を付けるように言っておくわね」


「あぁ、頼む」


「あ、それとね。ベアル子爵のことでちょっと困っているの……」


 ソニアが言うには、ベアル親子はあの邸宅に住み始めたが、必要最小限の召使いしか雇っていないそうだ。15年後に自分の娘がロードナイト養成学校を卒業したら、自分たち親子はクメルン王国へ戻る。だから余計な召使いは要らないと言っているらしい。そのため、邸宅の改築や庭の手入れもしてないそうだ。


「ベアルやレオラが考えそうなことだな。俺はあいつらが好きなようにすればいいと思うけど、ダメなのか?」


「みすぼらしいのは困るわ。ダイルからもベアル子爵に忠告してほしいのよ」


 ソニアは、貴族としての体面がどうの、子爵に取り立てた王様の体面がどうのと言っていたが、それを聞いた王様から「ダイル殿を困らせるな」と逆にソニアは叱られていた。ソニアの言ってることも分かるが、俺にとってはどうでもいいことだ。


 ………………


 日が暮れた頃に王城を出て、宿屋に向かって歩き始めた。誰もいないところでバンダナやストール、マントを外す。耳やシッポが外に出ると、なぜかホッとする。そう感じるのは、自分の心が獣人の体に馴染んできたということかもしれないな。


 あれっ!? 尾行されている? 100モラほどの距離で十人くらいの集団が王城を出てからずっと俺の後をつけているようだ。探知魔法で尾行者を調べると、ロードナイトはいないし、ソウルオーブさえ誰も装着してないことが分かった。


 だが、何かの狙いがあって俺を尾行しているのは間違いないな。しばらく様子を見よう。


 俺はゆっくり歩いた。人通りが無い道に入ると、案の定、その集団が俺に走り寄ってきた。手には剣を持っている。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈384〉、オーブB〈302〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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