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071 最下層の村 その2

 ベルドランを狙っているのは魔族の国か、魔族に支配された人族の国ということだろう。問題はそれがいったいどこの国かということだ。


「ベルドランに一番近い魔族の国はどこだ?」


「ジーナン王国よ、ダーリン」


 俺は〈知識〉とマップからその情報を探った。ジーナン王国はベルドランの南西に位置していて、原野を挟んで200ギモラほどの距離だ。ハイゴブリンの国だ。ゴブリンが進化したのがハイゴブリンで魔法に長けているらしい。


「ハイゴブリン族なら自分たちが支配している人族に命じて他国を侵略させることができるかもしれないわね」


「でも、フィルナ。人族だけでなくワイトロードもいるのよ。ワイトロードがハイゴブリンの命令に従うかしら? 仮にハイゴブリンロードがいたとしても魔力は〈160〉よね? ワイトロードはその倍以上の〈360〉もあるのよ。ワイトロードを従えているということは、それ以上の魔力を持った妖魔がいるってことなのよ」


 妖魔というのはロード化した魔族のことだ。ワイトロードも妖魔の一種だが、ハンナが言うように、それ以上に強い妖魔が裏に潜んでいるのだろうか? だとすれば、今回の敵はハイゴブリンの国ではなく、ほかの国ってことか?


「魔族に支配された人族の国があると言ってたけど、この近くにあるのか?」


「いいえ、ここからずっと遠くに離れてるわ。アイラ神様のお話だと怪しい国はナバルランとバーサットの二つよ。ナバルランは完全に魔族に支配されているらしいし、バーサットも魔族との関係を疑われているらしいわ」


 フィルナの話を聞いて〈知識〉を探ると、ナバルランとバーサットの情報が分かった。


 ナバルランはベルドランから南東に2000ギモラ以上離れている。五百年ほど昔にその国を支配する神族が滅び、その直後に魔族の侵攻を受けて崩壊した国だ。今はトワルン王国というオーク族の国に支配されているらしい。このナバルランの情報は乏しくほとんど何も分かっていない。


 バーサットも遠い。ベルドランから南東に1500ギモラ以上の距離がある。元々バーサットの地には神族が支配する2つの王国があった。カイナラン王国とファールラン王国という国だ。だが、50年ほど前にそれぞれを支配する神族が滅びた。それに追随するように両王国も滅びて、バーサット帝国がその後に興った。両王国の旧領土を統合して国を立ち上げて、帝国の形になって30年も経っていない。今も初代の皇帝が国を治めていているらしい。俺の〈知識〉にはそこまでしか情報が無いが、アイラ神によると、このバーサット帝国はどうやら魔族の国と何か怪しい関係があるという話だ。どのような関係があるのかは分かっていないそうだ。


「ナバルランか、バーサットか、それとも名前が出てない別の国か。ともかくあの村で兵士かロードナイトを捕まえて尋問すれば分かるだろうな」


「相手の国がどこなのかを調べることも必要だけど、村の牧場にあるっていう孵化場は早く潰さないといけないわね」


「それと、ワイトロードも早く倒さないといけないわよ。ゾンビ塔へ辿り着く前に倒しておかないと、またゾンビの苗床を作られてしまうもの」


 そのとおりだ。やらなきゃいけないことが多い。相談した結果、まずは、孵化場を潰すことにした。そこを焼き払えばゾンビ虫が生まれることはなくなるからだ。


 ………………


 牧場の中の孵化場というのはすぐに分かった。フィルナたちが牧場を調べたときに怪しい建物を見つけておいてくれたのだ。その建物は村から離れた牧場の端っこにあった。直径が10モラほどの円筒形で、高さも3モラほどの石造りの建物だ。小さな建物で、どう見ても孵化場には見えないが、牧場を見張っているときに兵士が出入りしていたらしい。


 外に見張りはおらず、扉の鍵を壊して中に入るとグールやゾンビが襲ってきた。しかし、こんな魔物は俺たちの敵ではない。グールたちをすべて倒して内部を調査したところ、地下にドームが広がっていることが分かった。


 建物全体はフラスコのような形をしているようだ。地上に出ているのはドームの上層階だけで、円錐形の部分は地下に埋まっていて、上層階からは全体が見渡せた。地下層の底の直径は30モラくらいあって、その底一面にゾンビたちが横たわっていた。ここがゾンビ虫の孵化場で間違いないようだ。


 これは燃やすしかない。フィルナとハンナを外に出して、俺は爆弾の魔法を連射して内部を完全に燃やした。そして、村のヤツらが駆け付けてくる前に、この場所から急いで離れた。


 ………………


 次はワイトロードの後を追って、ゾンビ塔に辿り着く前に倒さねばならない。しかし、ヤツはどっちへ進んだのだろう? この最下層がドーナツ状だとすれば、先に進んでも、来た道を戻ってもゾンビ塔に辿り着くはずだ。


 少し迷ったが、俺たちは来た道を戻ることにした。その方が確実だからな。距離的には30ギモラくらいだから1日で戻れる。


 ワイトロードの一行がいないか探知魔法で周囲を探りながら進んだが、見つけることはできなかった。ヤツらはもう一方のルートを進んだのか、俺たちが追いつけなかったか、どちらかだろう。


 丸太小屋の手前500モラほどのところで俺たちは身を潜めた。たぶん、ワイトロードたちは丸太小屋かゾンビ塔にいるだろう。ワイトロードが敵を探知できるのは半径360モラの範囲だ。フィルナもハンナも俺のように探知偽装はできないから、これ以上近付くわけにはいかない。


 結局、俺一人でステルスモードにして丸太小屋にこっそりと近付いた。ヤツはゾンビ塔の中にいた。ゾンビやグールも数体いる。苗床を作って、ゾンビ虫を煙突から飛ばす準備をしているのだろう。


 罠があるかもしれないと、ヒヤヒヤしながらゾンビ塔の扉を開けたが余計な心配だったようだ。ワイトロードは雁字搦がんじがらめで身動きできないようにして倒し、ゾンビやグールたちは熱線魔法一発で頭を吹き飛ばして死んでもらった。


 その後の片付けの方が厄介だった。ワイトロードたちの死体を土に戻した後、フィルナとハンナにも手伝ってもらって清浄の魔法でゾンビ塔を隅から隅までもう一度綺麗にした。


 丸太小屋にも誰かが入った形跡があった。ワイトロードたちだろう。それをフィルナたちが見過ごすはずがなかった。ギャーギャー言いながら彼女たちは小屋の中を徹底的に浄化した。


 この最下層の中は天井からの光がずっと一定の明るさなので夜というのが無い。だから俺はソウルオーブの時刻表示を使って、昼と夜を決めていた。その時刻表示によると、今はもう夜だ。今夜は丸太小屋で泊まって明日の朝、例の村に戻ろうということになった。


 ………………


 翌日。俺たちは村まで戻ってきた。しかし、驚いたことに村はもぬけの殻だった。ロードナイトや兵士だけでなく、村人たちも誰もいなかった。


「逃げられちゃったみたいね」


「村にいたロードナイトたちは俺を怖がっていたからな。牧場の孵化場が潰されたから、ビビって逃げたんだろうな。こんなことなら、先に村の兵士かロードナイトを捕まえとけばよかったな」


「仕方ないわよ。ダーリンは頑張ったんだから。でも、あの親子も連れ去られてしまったわね……」


 ハンナは少し悲しそうに目を伏せた。


「この村には兵士や村人が二百人くらいはいたのでしょ? いったいどこへ逃げたのかしら?」


「たぶんどこかに地上に通じるトンネルがあるんだろう。この村の近くだろうな」


 俺たちはそれから村の中や牧場とその周辺を探し回ったが地上へ向かうトンネルも敵の手掛かりも見つからなかった。


 結局、何の収穫も無く、俺たちは丸太小屋に戻ることにした。村から先に進むルートを通り、探索しながら進んだため、帰路は3日を要した。その結果、この最下層の構造を大凡おおよそ掴むことができた。


 この最下層のマップを上から見ると二重の円になっている。外側の円は直径が20ギモラあり、丸太小屋はこの円周上にあった。つまり、この外側の円は幅1ギモラ、高さ1ギモラの峡谷になっていて、その岩壁に沿って進むと一周して元の場所に戻ってくるということだ。


 内側の円は直径19ギモラ、高さ300モラほどの広大な空間で、巨大な岩の柱が無数に立っていてこのドームを支えていると考えられる。このドームの中はほとんど調査ができていない。危険過ぎるからだ。魔物が魔獣に変異する場所であり、俺の〈知識〉にも無い大魔獣が跋扈ばっこする恐ろしい場所だった。


 外側の峡谷には魔獣はいないため危険性は低い。これは俺たちが話し合って推測したことだが、魔物は魔樹海のワープゾーンからこの峡谷にワープしてくると考えられる。そしてトンネルを通って内側のドームへ行き、選ばれた魔物だけが魔獣に変異する。ドーム内のどこかに魔樹海やダンジョン上層階へ飛ぶワープゾーンがあって、魔獣や魔物たちはそれを使って戻っていくのではないだろうか。


 俺たちはその後も訓練と実戦を続けた。実戦は魔獣相手に行うが、外側の峡谷ではできない。だから内側のドームへ行って、こそこそと隠れながら、弱そうな魔獣を見つけては戦いを挑んだ。危なくなったらトンネルへ逃げ込めば大丈夫だと分かった。ナゼか魔獣たちはトンネルの中までは追い掛けて来ないからだ。トンネルの口径が狭いためサイズが合わないのかもしれない。


 俺はロードオーブデュアル機能についても試行を続けた。オーブAとオーブBを同時に有効にして、自分の魔力を一気に高めたいと考えたからだ。この機能が有効になったのはオーブAの魔力が〈300〉に達したときだった。もしかするとオーブBも〈300〉にすれば、AもBも同時に有効になって、俺の魔力は一気に高まるかもしれない。


 俺はそう考えて、ドームで魔獣を倒しながらオーブBの魔力を必死になって高めていった。だが、その努力は報われなかった。俺のオーブBの魔力は〈302〉になったが、AとBが同時に有効になることはなかった。


 同時に有効になる条件は何だろうか? 何かの条件を満たせば同時に有効になると思うのだが、それが分からない。今は待つしかなさそうだ。


 俺は魔獣を倒し続けて、オーブAの魔力が〈350〉を超えたが、そのときに新たな機能を取得したとメッセージが出てきた。


 〈遭難者探知機能が使えるようになりました。オンにしますか?〉


 ヘルプには、この機能をオンにすると、初期登録者の遭難信号を探知できるようになるとある。「初期登録者」の意味が分からないが、文字どおり遭難者を救助するときに使う機能なのだろう。救助隊員のような役割の人がこの機能を使っていたのかな? よく分からないが、とりあえずオンにしとこう。


 ………………


 初めの予定では3か月の期間をたっぷり使って訓練や実戦を行うつもりだったが、最下層へ下りてきて2か月過ぎた頃からハンナが地上の様子が気になると言い出した。フィルナがアイラ神と定期的に念話で連絡を取り合っているから、俺たちは地上の様子も伝え聞いていた。アイラ神からの情報ではベルドランのゾンビ禍はかなり治まってきたらしい。


 しかし、ハンナに言われて俺も自分の目で地上の様子を見たくなってきた。それに、俺たちの魔力や戦いの技量も実戦の場が多かったので予想以上に高くなっている。それで、いったん地上へ戻ることにした。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈356〉、オーブB〈302〉。

   (最下層のドーム内で複数の魔獣を倒し、その魔力の1%分ほどが増加)

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

   (最下層のドーム内で複数の魔獣を倒し、その魔力の1%分ほどが増加)

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。

   (最下層のドーム内で複数の魔獣を倒し、その魔力の1%分ほどが増加)


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