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069 魔獣の巣窟 その2

 魔獣サソリがこちらに向かって突進してくる。俺も立ち上がって浮上走行でサソリに向かって走り始めた。距離が100モラを切る。70モラ。魔獣サソリは走りながら毒砲と火砲の連射を始めた。すべて誘導弾だ。俺もシッポを使って蜂落としのスキルを発動した。いつもの熱線ではなく魔力砲の誘導弾で迎撃するのだ。火砲には熱線が効かないからな。


 敵の誘導弾を次々と撃ち落としていくが、撃ち漏らした弾がバリアに命中して俺は吹き飛ばされた。俺はそのまま転がり、すぐさま立ち上がって走り出した。バリアの耐久度は一気に60%に落ちたが、直ちに自動回復していく。


 距離40モラ。俺は高速で移動しながら手枷連射のスキルを発動する。狙うのは尾の針と左右の鋏だ。蜘蛛糸が狙いどおりに絡まっていく。


 距離20モラ。魔獣サソリはスピードを落として止まった。絡みついた蜘蛛糸を外そうとしているようだ。俺はすかさず雁字搦がんじがらめのスキルを発動する。だが、その蜘蛛糸が空中を飛んでいる間に、魔獣サソリは鋏に絡み付いた蜘蛛糸を断ち切った。力任せに蜘蛛糸を引き千切っているようだ。さすがに、今までの魔獣とはパワーが違う。


 雁字搦めの蜘蛛糸が魔獣サソリに絡み付いていく。だが、それもすぐに鋏で引き千切られてしまうだろう。蜘蛛糸はサソリの動きを鈍らせることはできるが、身動きできないようにグルグル巻きにするのは無理のようだ。


 熱線も通じないし、蜘蛛糸も効果が薄い。どうやって攻撃するんだ!? 魔獣サソリは全身が硬い殻で覆われていて弱点など無さそうだ……。いや、弱点が無いはずはない。調べればいいんだ。あのスキルが使える。


 俺は一撃離脱のスキルを発動した。微弱な魔力を敵の体に当てて急所を探り、そこに一撃を加えて高速で離脱するスキルだ。俺の体がスキルに制御されて加速して高速に動き始めた。


 サソリの急所は……、目、それと鋏の付け根だと分かった。目は4つある。一つずつ潰していくしかなさそうだ。


 魔獣サソリは鋏を振り上げながら蜘蛛糸を引き千切ろうと動いている。俺はその腕の間に跳び込んだ。魔力剣がぐんと伸びて右側の下の目に突き刺さった。


 魔力剣は魔力の大きさに応じて自在に伸縮する。脳まで届けっ! 剣先を精一杯伸ばしてサソリの脳を潰そうとしたが、そこまで甘くはなかった。


 サソリは頭を大きく振った。魔力剣が抜けて俺は体のバランスを崩しそうになる。辛うじて転ばずに耐えた。スキルの制御が続いているおかげだ。


 怒り狂ったサソリは大きな牙で俺を挟んで食い千切ろうとする。牙がバリアに当たって眩い光を発した。


 一撃離脱のスキルはまだ発動中だ。スキルの制御で俺の体は高く跳び上がり、サソリの後ろに逃れて30モラほど距離を取った。バリアの耐久度は70%に落ちていたが急速に回復していく。


 その間にサソリは蜘蛛糸を引き千切った。一撃離脱のスキルはまだ続いている。相手を倒すまでこのスキルは続くのだ。高速でまたサソリに近付く。同時にシッポを使って手枷連射を発動した。また、蜘蛛糸がサソリの鋏や尾に絡み付いていく。とにかく魔獣サソリの動きを鈍らせて、その間に一撃離脱を繰り返すのだ。右下の目は潰したから、次は右上の目だ。


 俺はそれを繰り返して魔獣サソリの目を全部潰した。次は鋏を振り回している腕の付け根だ。その腱を断ち切るのだ。両腕の内側に跳び込んでサソリの右腕の腱があるところに魔力剣を振り下ろした。剣がすっと通っていく。切れた! サソリの右の腕がどんと地面に落ちた。左の腕も同じように腱を断ち切った。


 これで蜘蛛糸を引き千切ることはできないはずだ。俺は「雁字搦め」を発動して魔獣サソリをグルグル巻きにしていく。それでも魔獣サソリは暴れている。眠りの魔法は効かない。だが電撃マヒの魔法は効いた。ようやく魔獣サソリはおとなしくなった。


 今まで戦った魔獣の中で一番時間が掛かった。俺の方はバリアのおかげで無傷だが、精神的にヘトヘトだ。思わずへたり込みそうになった。


 そこへフィルナとハンナが走り寄ってきた。


「ダーリン、大丈夫なの?」


「ダイル、凄い戦いだったけど、怪我はしてない?」


 そう言いながらフィルナもハンナも俺に抱き付いてきた。


「あぁ。大丈夫だけど、重い……、ムギュッ」


 ただでさえ疲れてるのに、二人がぶら下がってきたから俺は遂にへたり込んでしまった。二人が俺を下敷きにして上に覆い被さってきている。明らかにわざとだ。


「こんなことをやってる場合じゃないって。まだ、魔獣サソリは生きてるんだから危ないんだぞ!」


 しぶしぶフィルナとハンナは俺から離れた。


「この魔獣サソリはフィルナが殺るんだ」


 俺の言葉にフィルナは「えっ!」と言って少し悲しそうな顔をした。なんとなくその気持ちが分かった。


「フィルナが戸惑う気持ちは分かる。今の魔力はダリナさんから継承の契約で引き継いだものだからな」


 フィルナの母親であるダリナさんは娘に自分の命を捧げることでフィルナに魔力を引き継いだのだ。それを簡単に入れ替えることはできないだろう。


「でも、おまえの今の魔力は低過ぎる。これからも俺と一緒に旅を続けるのなら、もっと強くならないといけない。魔力ももっと高くするんだ」


 俺が言ったことにフィルナは小さく頷いた。悲しそうな表情は変わらない。


「魔獣サソリの上の目を狙え。魔力剣を長く伸ばして突き刺せば脳に届く」


 フィルナは俺の助言どおり魔力剣を使って魔獣サソリを殺した。ソウル格納の呪文を唱えるとフィルナの魔力が〈240〉になった。


 涙を流しながら立ち尽くしているフィルナをハンナがそっと抱きしめた。俺は魔獣サソリを土に戻して大魔石を回収した後、二人に近付いて抱きしめた。


「フィルナ、よくやったな。ハンナもありがとう」


「ダーリン、この場所って?」


「あぁ、そうだ。魔物が魔獣に変異する場所がここみたいだな」


 俺はそう言いながら遠くを指さした。魔獣がいた。たぶん1ギモラ以上離れているが、とてつもなく大きい蜘蛛だ。巨大な魔獣蜘蛛だ。その体長は10モラか15モラくらいあるだろう。普通の魔獣蜘蛛の2倍か3倍はある。


「あっちにも魔獣がいるぞ」


 別の方向に魔獣豹がいた。これは普通のサイズのようだ。500モラ以上先だろう。


「ここは魔獣の巣窟そうくつだ。ともかくこの場所は危険だ。いったん丸太小屋に戻ろう」


 ………………


 俺たちはその日から毎日、トンネルを通って魔獣狩りに出掛けた。大魔獣に襲われないように注意しながら、比較的弱そうな魔獣を捜してはそいつを相手に実戦を行った。実戦で戦いの経験を積むのが一番手っ取り早く技量が高まるし、その魔獣を倒せば僅かではあるが魔力も高まるのだ。


 俺のロードオーブBも魔獣蜘蛛のソウルに入れ替えておいた。オーブBの魔力は〈230〉になった。今後、何かの条件が満たされれば、オーブAとオーブBの魔力が同時に有効になると思われる。そうなればAとBの魔力が加算されて、俺の魔力は格段に高まるはず。そう信じてこれからもオーブAだけでなくオーブBの魔力も高めていきたいと思う。


 しかしこの場所で魔獣狩りばかりもしていられない。この最下層の調査も続けねばならないのだ。最初の頃は丸太小屋を拠点にしていたが、日帰りでは調べきれないため、キャンプをしながら調査を進めることにした。


 丸太小屋を出発して3日目。


 今まで歩いてきた場所は自動的にマップができていた。俺はそれを見て、この峡谷は細いドーナツ状になっているのだろうと推測した。これまで進んできた峡谷のマップ全体を上から見ると、峡谷が直径20ギモラの円弧を描いていたからだ。今はその円周を半分回った地点にいる。俺は自分の考えをフィルナたちに話した。


「もしダイルの予想どおりなら、あと3日ほど先に進めば丸太小屋に辿り着くはずよね?」


「ホントにそうなら、あたしたち、引き返さなくていいから楽だわね」


 そんなことを話しながら歩いていると、探知魔法で大勢の人族がいることを察知した。どうやら村のようだ。この最下層に下りてきて13日目のことだ。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈316〉、オーブB〈230〉。

   (最下層のドーム内で複数の魔獣を倒し、その魔力の1%分ほどが増加)

 ※ 現在のフィルナの魔力〈243〉。

   (魔獣サソリを倒し〈240〉に。その後も魔獣を倒して1%分ほどが増加)

 ※ 現在のハンナの魔力〈238〉。

   (最下層のドーム内で複数の魔獣を倒し、その魔力の1%分ほどが増加)


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