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061 ベルド・ダンジョン

 翌日の朝早くにマルグがやってきた。軍令大臣のガイザはマルグのことを俺たちとの連絡係と言っていたが、正直に言ってこいつは鬱陶しいだけだ。


「ベルド・ダンジョンに案内する。すぐに出掛ける用意をしろ!」


「すぐに出掛けるって!? 食糧なんかの準備ができてないぞ?」


「いや、今回はおまえたちをダンジョンの中の怪しい地点まで案内するだけだ。そこから先には進まずに引き返す。対策を練るにしても準備をするにしても、現地を見ておいた方がいいからな」


 こいつ、鬱陶しい男だと思っていたが、意外にまともなことを言う。マルグを少し見なおした。


 今日は現地を見にいくだけであれば、フィルナは連れずに俺一人で大丈夫だろう。フィルナにはハンナを手助けしてもらったほうがいいな。


「では行こう。だが、フィルナは置いていく」


「どうして? 私も一緒に行くよ!?」


「いや。今日はハンナの調伏魔法に付き合ってやってくれ。初めて調伏魔法を使うのは危険だからな。おまえが一緒なら安心だ」


 フィルナは俺が言いたいことが分かったようだ。「うん、そうする」と言って素直に頷いた。


「ダーリン、ありがとう。今日はフィルナさんに色々教えてもらうね」


「あぁ、そうしてくれ」


 フィルナとハンナが気まずい状態にならないかと心配していたが、何とか一緒にやっていけそうだ。あの猫のスケッチが効いているのかもしれない。ハンナの絵言葉って魅了の魔法が掛かっているのかな。


「こちらの女性は?」


 マルグがハンナに目を向けながら俺に聞いてきた。


「あぁ、ハンナだ。魔医で、この家に俺やフィルナと一緒に住んでる。家族のようなものだな」


 俺の紹介に、「ネコのくせに愛人を何人も持ちやがって」とマルグはブツブツ毒づいた後、ふと気付いたような顔になってハンナに尋ねた。


「さっき、魔医と言ったが、調伏魔法を使えるのか?」


「あぁ、ハンナも使えるようになったはずだ。今までは使えなかったが、実は昨夜……」


 俺はマルグに経緯を説明した。フィルナが調伏魔法を使って少女の脳に入ったゾンビ虫を駆除したこと。それを知ったハンナが自分も調伏魔法を使えるようになりたいとフィルナに相談したこと。その結果、アイラ神の加護を得てハンナも調伏魔法を使えるようになったことなどだ。


 本当のことを言うわけにはいかないから、俺は適当なウソを吐いた。アイラ神の加護なんてものは何も無いが、マルグは勝手に解釈するだろう。ウソも方便だ。フィルナもハンナも俺の意図が分かって頷いている。


「素晴らしい! フィルナ様もハンナ様も調伏魔法が使えるとは! そういう話であれば、今日はフィルナ様が残るのも仕方ないですな」


 マルグは尊敬の眼差しでフィルナとハンナを見ている。俺に対する態度とは大違いだ。


 ………………


 その後すぐに俺たちは出発した。俺は普段着のままだ。ベルドランまでの旅で着ていた革の半袖シャツと半ズボンだ。軽くて動きやすいし、高機能なバリアが雨風や寒さ、病原菌などを防ぐから問題ないのだ。


「なんだ、そのかっこうは!?」


 マルグは俺の姿を見て何かを取り出した。


「これを身に着けろ。軍のマントだ。それと、おまえの垂れ耳と顔は何かで隠すんだ。そういう約束だからな」


 馬鹿にした顔でマルグは俺にマントを手渡した。丈夫そうなえんじ色の布地に二本の剣が交わる図柄だ。マルグも同じマントを纏っていた。俺はいつものようにバンダナとストールで顔を隠した。


 途中でマルグの部下が二人加わった。ブルノという名の少し太めの兄ちゃんと、エドリーという綺麗な姉ちゃんだ。どっちも俺より少し年上に見えた。ロードナイトで魔力は〈140〉と〈120〉だ。軍のマントを羽織っているから軍人なのだろう。


 俺たちは西門村を出て雑草が生い茂る草地に出た。浮上走行の魔法で村の外側を土塀に沿って魔樹海の方に向かった。村の中を通るよりも外側を通る方が安全らしい。西門村はゾンビの姿は無いが、隣の北門村や北流民村などはゾンビが多数徘徊しているから避けたのだ。


 ベルド・ダンジョンへの入口は魔樹海との境界にあるそうだ。俺はマルグたちの後に付いてその場所に向かった。


 ………………


「ここだ」と言われて降り立ったところは北流民村の東側の草地を500モラほど東へ行ったところだ。目の前には魔樹海が摩天楼のように迫り、右手方向、つまり南側にはベルドランの街壁がさらに高くそびえていた。


 魔樹海に接してる街壁は魔樹よりも少し高く石が積まれている。つまり100モラ以上の高さがあるということだ。その内側はベルドラン軍の敷地になっていて、魔空船の発着場があるらしい。


 ここ一帯の魔樹の根元近くには数えきれないくらいの縦穴や横穴が見えた。穴の大きさは直径が1モラから10モラくらいある。


 マルグから「伏せろ」と言われて茂みに身を隠した。


「昔からあったダンジョンの穴は十に満たない。ここから見える大きい横穴がダンジョンへの入口だ。ほかの穴はこの数年で蟻たちが掘ったものだ。蟻と言っても魔物の蟻だがな」


 マルグが遠くの穴を指さしながら言った。見ると、蟻のようなものが何匹も穴の中から出たり入ったりしている。こちらには気付いていないようだ。


 これが魔物の蟻か? 探知魔法で見ると、それはジャドアンガ(毒砲蟻)だと分かった。俺の〈知識〉によると、この蟻は体長が2モラくらいあり、毒液の砲弾を放ってくるらしい。鋭い牙を持っていて、それに挟まれると腕や脚がスパッと切り落される。バリアで毒砲も牙も防げるが、そいつらが数匹から数十匹の集団で襲ってくる、となっていた。〈知識〉から分かるのは蟻の集団には要注意ということだ。


「実はあの蟻の穴からゾンビ虫が外に出て来ているのだ」


「それが分かってるのなら、蟻の穴を全部塞げば解決するだろ?」


「おまえの発想は子供と同じだな。蟻の穴は塞いでも、蟻たちはすぐに新しい穴を開けるぞ」


 マルグの馬鹿にしたような物言いにはいつもムカつく。だが、尤もな話だ。


「ところで、どうして蟻の穴にゾンビ虫がいるんだ? 蟻がゾンビに感染しているってことか?」


「違う。魔物や魔族の体内にはゾンビ虫は入らない。考えられることは、蟻の巣の中にゾンビ虫が繁殖できるような場所があるのか、あるいは蟻の穴をゾンビやゾンビ虫が通路として使っているだけなのか、それは分かっていない。それをおまえたちが調べるんだ」


 なるほど、そういうことか。だが、正直言って蟻は苦手だ。蜘蛛やムカデもそうだが、生理的に嫌悪感があるのだ。


「それで? 今日はこの蟻の穴に潜るのか?」


「いや、蟻の穴は危険すぎる。蟻が集団で攻撃してくるからな。だから、ダンジョンに潜る。ダンジョンの奥が蟻の穴に通じているんだ」


「隊長、偵察は地下5階までですか?」


 マルグの話を聞いてエドリーが心配げな声で尋ねた。


「いや、今日はその先の蟻の巣まで行く」


 それを聞いてブルノもエドリーも露骨に嫌そうな顔をした。俺だけでなくみんな虫は苦手なのだろう。


「その蟻の巣って言うのが、さっき言ってたダンジョンから行ける蟻の穴のことか?」


「そうだ。ここのダンジョンは地下5階が最下層と言われていたが、最近になって、それより下があることが分かった。地下5階の側壁に横穴が空いていて、それを奥に進んでいくと蟻の巣と呼ばれている場所に辿り着く。行けば分かる」


 マルグが俺に説明した。いつになく真剣な表情だ。


 俺はメニューのマップを開いた。詳細マップには俺が探知できる半径300モラくらいの範囲がマッピングされている。縦穴や横穴の位置も全部描かれているようだ。ダンジョンの中でもこのマップが使えるのか、これから試してみることになる。


「あの穴から入る。場所をよく覚えておけ」


 マルグはそう言った後、蟻たちに見つからないように身を屈めて横穴の一つに入っていった。俺も後に続いて中に入った。ダンジョンの中は薄暗い。古いトンネルの中を歩いているような感じだ。土壁や天井が微かな光を発しているらしく、真っ暗ではないが、その光だけではなんとも心細い。魔樹海を歩くときもそうだったが、暗視の魔法を常に発動して進んだ。


 マップを見ると、自分が移動してきた通路と、探知魔法が届く範囲だけがマッピングされている。土の中は探知魔法が通り難いのだ。自分の位置から半径60モラくらいまでがマッピングされているようだ。


 マルグたちは内部の道をよく知っているようだ。枝分かれが何カ所かあったが迷うことなくどんどん進んでいく。


「いくつも枝別れの道があるのに、どうして迷わないんだ?」


 俺が尋ねると、マルグは不思議そうな顔をした。


「おまえはダンジョンに潜ったことがないのか? このダンジョンは地下5階までは全エリアが明らかになっているのだ。どこを進めば下の階へ行けるか道が分かっている。分岐がある場所には地面に印を付けてあるから迷うことはない。たいていのダンジョンは同じように印が付いているはずだぞ」


 なるほど、そういうことか。枝分かれしている場所の地面を見ると、正しい道だけは固い土の表面に石が埋め込まれていて、それが印になっているようだ。


 途中、通路で何度か魔物に遭遇したが、先頭を歩くマルグたちが難なく倒した。彼らも探知魔法を常時発動しているから、自分より魔力が低い魔物であれば相手を早めに探知して優位に戦えるのだ。


 現れた魔物はジャドアンガ(毒砲蟻)とネバグパイダー(酸糸蜘蛛)、ボンジャスピガ(火毒サソリ)、そしてグールに率いられたゾンビ集団だ。魔力はマルグたちが圧倒的に大きいから大丈夫だろう。そう思って、俺は彼らが魔物たちと戦うのを見ていただけだった。


 ゾンビの一団を全滅させて、少し息を荒くしているマルグが話しかけてきた。


「数年前まではこのダンジョンにゾンビなど現れなかった。だが、今は蟻の次にゾンビが多く現れる。ゾンビたちはここから地上にさ迷い出てゾンビ禍を振りまくんだ。このゾンビたちがどこから来るのかも分かっていない。それを調べるのがおまえたちの仕事だ」


「どこから来るかって、それはこのダンジョンが作り出すんじゃないのか?」


 俺の質問にマルグは軽蔑の眼差しで俺を見た。


「おまえも魔物がダンジョンの底で魔獣に変異することは知っているだろ?」


 そう言われて俺は〈知識〉から学んだことを思い出した。神話ではダンジョンも大地の神様が作ったと言われている。魔樹海の中には大地の神様が設けたワープゾーンがあって、その場所に入った魔物はダンジョンの最下層にワープで送り込まれる。送り込まれた中で選ばれた魔物が大地の神様の天啓を受けて魔獣に変異する。その魔力は魔物だったときの20倍くらいになるという。俺が変異の話を思い出して頷くとマルグは話を続けた。


「魔物や魔獣たちは、どこからかダンジョン内に突然に現れる。一説ではダンジョンの最下層で変異した魔獣や変異できなかった魔物がダンジョンの上層階へワープで送られてくると言われている。ゾンビも同じだろうと考えて、おれたちはダンジョンの地下5階を徹底的に調査した。地下5階が最下層だと考えていたからだ。しかし、違っていた」


 そこでマルグは言葉を一旦切った。


「このダンジョンの最下層は地下5階ではなかった。さらに下へ行く通路が見つかったのだ。その通路があるのが蟻の巣だ」


 ………………


 ダンジョンに入って5時間くらい歩いた。階段を通り地下5階まで下りてきた。地下4階まではトンネルのような通路と所どころに部屋があるだけだったが、この地下5階は全く様相が違っていた。目の前には鬱蒼と生い茂る樹木があった。ジャングルだ。天井までの高さも50モラくらいあって、明るい光が降り注いでいた。天井自体が光っているのだ。


 マルグの話では、この地下5階には大きなドーム状の広い部屋が数えきれないくらいあって、それが通路で繋がっているそうだ。ドームの中はこのようなジャングルがあったり、低木や雑草が生い茂る草地になっているとのことだ。俺のマップを見ると、ドーム一つが陸上競技場くらいの広さがあった。


 マルグは地図らしきものを取り出した。


「蟻の巣へ通じる横穴があるドームは向こうだ」


 地図を見ながらマルグが歩き出した。俺たちはその後を付いていく。ドームの中やドームを繋ぐ通路には川が流れていた。マルグに聞くと、この地下5階には何本もの川が流れていて、川は地下5階の色々な場所で地面の穴や池の中に流れ込んでいるそうだ。しかし、水が流れ込んでいる穴は人が入り込めるほどのサイズではなく、そこから先を調べることはできないらしい。


 何個目かのドームを通り過ぎて、次のドームに入ったときだ。俺はスロンエイブ(飛礫猿)の群れとスロンエイブロード(魔獣猿)を探知した。群れの規模は小さくて三十頭ほどだ。


「気を付けろ! 猿の群れだ。魔獣猿もいる!」


 マルグが叫び声を上げた。彼も猿たちを探知したのだろう。このドームは草地とジャングルが入り組んでいた。俺たちがいるのは草地で猿たちはジャングルの中だ。


 ※ 現在のダイルの魔力〈294〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈150〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈220〉。


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