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048 魅了されてしまった

 俺は今、ベアルの小屋の中でちょっと悩んでいる。ハンナさんに頼まれて、ベアルの魔力をレオラと同じくらいに高めることを引き受けてしまった。それをどうやるかを悩んでいるのだ。


 そのハンナさんだが、小屋まで一緒に付いて来て、レオラと一緒に赤ん坊をあやしている。ここまで同行したのはベアルの魔力を高めるところを見たいからと言っているが、本音は少しの間だけでも赤ちゃんと一緒に居たいのだろう。


 で、どうやってベアルの魔力を高めるかだが、真っ当な方法で進めるとすれば、相応の魔獣を捜し出して、ベアルにそのラストアタックを取らせねばならない。レオラの魔力が〈186〉だから、それに相応ふさわしい魔力まで高めるとなると、これはかなり難しい。魔力の高い魔獣を見つけなきゃいけないからな。


 いっそのこと隠れ家に監禁しているロードナイトを殺したらどうだろう? たしか、一人は〈200〉を超えるヤツがいたはずだ。いやいや、それはダメだ。あの二人は俺を盗賊だと勘違いして攻撃してきただけだものな。あいつらはブライデン王国の兵士に引き渡すべきだろう。と言うことは……。


「ここで待っていてくれるか? 俺は魔獣を捜して、ここまで眠らせたまま運んでくるから」


「あんたっ! 馬鹿なことを言うんじゃないよ! あんたがどれだけ強いのか知らないけど、一人で魔獣を眠らせるなんてできっこないの。かっこうを付けて命を無駄にするのは止めなさい!」


 ハンナさんは俺を引き止めようと、真剣な表情で言葉を続けた。


「魔獣を運んで来るとか、そんなムチャをするよりも、捕えている魔闘士を殺した方が簡単だし安全だよ。どうせその魔闘士は国への反逆罪で死罪になって、その魔力は王様に忠誠を誓っている兵士の誰かが引き継ぐことになるんだから」


 そうか。ハンナさんはそんなことを考えて、ベアルの魔力を高めるように言っていたのか……。今までの経緯をハンナさんに説明したときに、俺を襲って来たロードナイトを捕えて監禁したことも話した。だが話を端折はしょり過ぎて勘違いをさせてしまったようだ。


「ハンナさん、それは違うぞ。死罪にするとは限らないんだ。ダンテ王から聞いた話だが、捕えた魔闘士は罪状で選別するらしい。軍に入れるか、奴隷にするか、死罪にするか決めると言ってたからな」


「あんた、それを鵜呑みにしてるの? それは建前たてまえの話よ。反逆に加担して、いつ裏切るか分からない魔闘士を軍に入れるはずがないわ。全員死罪にして、忠誠の高い兵士に魔力を引き継がせるに決まってる。

 ねぇ、よく考えてみて。その魔闘士はあんたに敵対したんでしょ。敵対して倒した魔闘士の魔力を引き継げるチャンスが目の前にあるのよ。その機会を見ず知らずの兵士に渡すくらいなら、その機会はベアルさんに渡すべきよ。そう思わない?」


 ハンナさんの圧力に負けそうだ。赤ちゃんを可愛がるような優しいおばさんなのに、敵対する者へは殺すこともいとわないようなシビアさがある。やっぱりここは俺が暮らしてきた日本とは違う世界なのだ。


 それはともかく、あのロードナイトたちが悪人かどうか分からないのに殺してしまうのはダメだろう。


「言っておくが、俺はあの魔闘士たちを殺すつもりはない。それよりも、さっき話したとおり魔獣を探してここへ運んでくるから……」


 その言葉を聞いてハンナさんは「あきれた人ね」と言ってるが、それを無視して俺はベアルに向かって言葉を続けた。


「その魔獣をベアル、あんたが殺すんだ」


 “あんた”というところを強調すると、それを聞いたベアルは目をパチパチして口を開いた。


「ええと、ここへ運ぶのは危ないよ。レオラとジュリをここに残して、おれが一緒に行ったほうが……」


 腰が引けた感じでベアルが言う。


「いや、俺一人で大丈夫だから。あんたが魔樹海の中に入るのは却って危険だ。魔樹海の中でもなかなか魔獣は見つけられないから時間が掛かると思う。だけど、必ず見つけて運んでくるから待っていてくれ」


 俺はそう言って心配そうなハンナさんたちを残して魔樹海へ入っていった。


 ………………


 小屋を出たのは昼過ぎだった。魔樹海の中を探知魔法でずっとサーチしながら奥まで進んで、3時間ほど捜してケングダンブゥロード(魔獣猪)を見つけた。蜘蛛糸でグルグル巻きにして眠らせる。何度も戦っているから問題ない。2時間ほど掛けて魔獣猪を小屋まで運んだ。小屋に辿り着いたときは夜になっていた。


 レオラたちが小屋から飛び出してきた。


「日が暮れても帰って来ないから、みんな心配してたのよ」


 レオラの言葉に俺は「すまん」と謝ったが、ベアルとハンナさんはそれどころではなかった。俺が運んできた魔獣猪を見て口をあんぐり開けていた。


「これって、どうしたの?」


 ハンナさんが魔獣猪を指さしながら聞いてきた。驚愕の表情を顔に張り付けたままだ。


「見てのとおりだけど? 今日はこれしか見つけられなかった」


 魔獣猪の魔力は〈360〉だ。この魔獣を殺して、ソウルをソウルオーブに格納すればロードオーブになるのだが、供給される魔力は半減されて〈180〉にしかならない。なぜ半減するのか。それは、ソウルオーブに魔獣のソウルを封じ込めると、魔力の供給元であるウィンキアソウルとのソウルリンクが弱くなって半分になるためだ。それがソウルリンクの摂理だそうだ。


「こいつのラストアタックを取っても、ロードオーブの魔力は〈180〉だ。レオラを超えられないからダメだな」


 亭主は女房よりも強くありたいって思うはずだ。あえてベアルには尋ねないが、心の中ではきっとそう思っているだろう。


「あんた、なにを言ってるの!? これでもう十分よ」


 ハンナさんが驚いたような声をあげた。


「いや、明日も捜しに行く。この魔獣猪はこのまま眠らせておこう。もし、目を覚めしても蜘蛛糸は簡単には外せないから大丈夫だ」


 ………………


 翌日も俺は魔樹海で獲物を捜した。ジャドネイガロード(魔獣蛇)を見つけたが、魔力は魔獣猪よりも低い。こいつはそのまま殺した。俺の魔力が僅かに上がった。


 夕方近くになってヒュドレバンロード(魔獣豹)に遭遇した。こいつなら魔力が〈380〉だから、ロードオーブの魔力は〈190〉になる。僅かだがレオラの魔力を超えることができる。


 眠らせた魔獣豹を小屋まで運んだ。俺が戻ると、まずハンナさんが小屋から飛び出してきた。右手に骨付きの肉を持っているところを見ると、夕食の最中だったようだ。


「あんたって人は……」


 後の言葉はよく聞こえなかった。ハンナさんは視線を俺から魔獣豹に移して、右手に持った肉をむしゃむしゃと齧り始めた。たぶん無意識だな。


 その後は、ハンナさんが「さっさと済ませなさいよ」と急かせて、ベアルは夕食を中断して魔獣豹を殺した。ベアルはさすがに王立のロードナイト養成学校を卒業してたエリートだけあって、魔獣に対するラストアタックの取り方は心得ていたようだ。急所を一突きで殺すことができた。


「ありがとう、ダイル。魔力が〈190〉になったよ。何から何まで助けてもらって、おれたち親子はこの恩をどうやって返せばいいんだい?」


 嬉しそうにベアルが俺の手を取って話しかけてくる。


「いや、いいから気にするな。それより、あんた、顔、近いって!」


 まさか俺にキスをしようとしてないよな。おっさんは嫌いだ。俺は顔を背けた。


「魔獣猪が残ってるけど、どうするの?」


 レオラが聞いてくる。どうしようか? あ、そうだ。


「ハンナさん、こいつのラストアタックを取ったらどうだ? あんたの魔力は〈120〉だから、一気に〈180〉まで上げられるぞ」


「えっ!? それは嬉しいけど、あたしがもらっていいの?」


「いいさ。あんたには言葉で言い尽くせないくらい感謝してるんだから」


 ということで、ハンナさんが魔獣猪を殺してラストアタックを取った。


「まさか魔力を上げてもらえるなんてね。何年も上がってなかったから……、あたし、なんて言っていいのか分からないくらい嬉しい」


 ハンナさんに俺はぎゅっと抱きしめられた。


「わ、分かったから。ハンナさん、顔、近いって……」


 おっさんに抱きしめられるよりはマシだが……。


 ………………


 翌朝。俺たちはモーイット村に向かった。捕らえていたマイモン商隊のロードナイト二人も眠らせて運んだ。ロードオーブは停止させたままだ。村に駐在する兵士に引き渡して、王都に護送するよう依頼した。


 さて、この後どうするか。俺はベルドランへ行かなきゃならないが、その前にブライデンの王都で買い物をしたい。ベアルたちの新たな住居も見てみたい。なにしろ、王都では街の見物もできてないからな。


 ハンナさんの家でお茶を飲みながら、俺はこれからの予定を話した。


「それなら、私たちも一緒に行くわ。ねぇ、あなた」


「あぁ、それがいいな」


 レオラの言葉にベアルもジュリをあやしながらニコニコ顔で頷いている。


「俺もベアルたちに一緒に行ってもらったほうが助かる。王様にあんたたちの家を王都に用意するよう言ってあるから、受け取ってほしいんだ」


 ベアルたちが住む家の手配を王様へ依頼したことを話すと、ベアルもレオラも顔を青くした。


「ダイル、私はありがたいけど、それはちょっとやり過ぎだと思うの……」


「いいじゃないの。くれるって言うんだから、もらっときなさいよ」


 ハンナさんは少し考えて、また言葉を続けた。


「それから、この家ね。ベアルさんたちに譲るから、別荘として使うか、売り払うか、好きなようにして」


 俺もベアルたちも、ハンナさんのその言葉には驚いた。


「ベアルたちにこの家を譲って、あんたはどうするんだ?」


「旅に出るのよ。ここには長く居過ぎてしまったし、旅に出たら面白いことがたくさんありそうだからね」


 エルフは自分の国であるエルフン王国から出る人は少ないらしい。俺の〈知識〉にはそういう情報が入っているけれど、ハンナさんは違うようだ。少し変わっているのだろう。


 ハンナさんから聞いた話だが、ご両親は二人とも亡くなっていて兄弟もいないそうだ。


「だから気ままに家を引き払って旅に出られるってわけ」


 その後、ハンナさんはあっと言う間に荷物の整理と旅支度をした。


「もうちょっと待ってて」


 ハンナさんはそう言いながら庭に出て何やら探し始めた。庭でそれを見つけたのか「あった、あった」と呟くと、スケッチブックのような厚手の紙と筆を取り出して、ささっと絵を描いた。水彩画だ。見ると紫色の可愛い花が3輪。真ん中の花は小さくて両隣の花と手を繋いでいるように見える。その絵には字が添えられていた。


『迷子になっても見つけてあげるよ。苦しいときは守ってあげるよ。悲しいときも楽しいときもみんな一緒だよ』


 よく見ると、その紙の片隅に小さな字でこう書いてあった。


『ハンナも守ってあげるよ。忘れないでね。愛しいジュリちゃんへ』


 俺はすっかりハンナさんに魅了されてしまった。この人は素敵だ。


「その絵って、魅了の魔法を封じ込めたりしてないよね?」


 俺の問い掛けにハンナさんはにっこり微笑んで、「これ、プレゼントよ」と言いながら描いたスケッチをレオラに手渡した。


「さぁ、行きましょ。出発よ、ダイル」


「えっ!?」


 俺は一瞬固まり、何も考えずに頷いていた。


 ※ 現在のダイルの魔力〈268〉。

   (魔獣を倒したため、その魔力の1%分ほどが増加)


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