042 ブライデン王国の敵になる
捕えられている熊族のベアルを救出するために、俺はブライデン王国の王都にこっそりと侵入しようとした。王都の街壁を巡る側面通路から内部に侵入したのだが、途中で通路を塞がれてしまった。罠に掛かってしまったようだ。
くそっ! もっと慎重に通路を調べながら進むべきだった。
少し離れて落とし戸に熱線魔法を当ててみた。少しだけ表面の金属が溶けたが、焼き切るには相当時間が掛かりそうだ。
腹を括って通路を奥の方へ進んでみよう。俺は戦いになることに備えてマントとバンダナを外した。顔は隠した方がいいからストールは巻いたままだ。
通路をしばらく進んでいくと広い部屋に出た。円筒形の部屋で直径は50モラくらいあるだろう。天井までの高さは20モラくらいだ。周囲の壁面の上部には多数の座席が見える。今は誰もいないが観客席のようだ。つまりここは闘技場か? と言うことは、やはり街壁から続くこの通路は何かの罠で、俺はここに誘い込まれたということだ。
そう思っていると、案の定、大きな音がして俺の後ろはさっきと同じ仕掛けで塞がれた。落とし戸だ。
部屋の中央は危険そうなので、入口近くで何が起こるのか様子を見ていると、頭上から網が落ちてきた。蜘蛛糸でできた網だ。俺は常時バリアを張っているが、その上からこの網で覆われてしまった。驚いたが、もがくほど蜘蛛糸が絡まっていくことを知っているから、俺は立ったままじっとしていた。
「なんと! 魔獣用の罠に魔獣ではなく獣人が掛かるとは、面白いことがあるものだな」
男がそう言いながら俺のそばに近寄ってきた。なるほど、ここは魔獣を誘い込むための罠か。こういう罠で魔獣を捕獲することでブライデン王国はロードナイトを量産しているのだろう。しかも、ここを闘技場にして見世物にしているようだ。
男は魔力〈253〉のロードナイトだ。この男に続いて、何人ものロードナイトが現れて俺を取り囲んだ。数えると全部で二十人。全員がロードナイトで魔力は〈150〉以上あった。
しかし、不用心なヤツらだ。俺はバリアを張ったままだし、魔法も使えるのに、近寄ってくるって、こいつら馬鹿か? あ、そうか。俺は自分の魔力を〈130〉に偽装しているから、ロードナイトが二十人もいれば負けるはずがないと高を括っているのだろう。
「おまえがモーイット村からの報告にあった獣人の盗賊だな?」
「いや、俺は盗賊ではない」
「ふん。盗賊は誰もがそういうウソをつく。顔を隠しているのが盗賊だという何よりの証拠だ。おまえを捕まえて白状させてやる!」
「いや、わるいが、捕まるわけにはいかないな。俺を攻撃するなよ。俺は攻撃されたら反撃するぞ」
「おい、この生意気な獣人のバリアを破壊して眠らせるのだ!」
俺と話しているヤツがリーダーらしい。そいつの指示で周りのヤツらがバリア破壊の呪文を唱え始めた。
俺は蜘蛛糸分解の魔法で網を消し去り、俺を取り囲んだヤツら全員に蜘蛛糸を絡めていった。全方位視界とテイル機能を駆使して、右手、左手、そしてシッポから手枷連射のスキルを発動した。これは周囲の多数の敵に対して、とにかく蜘蛛糸で手枷をして武器や魔法の攻撃をさせないようにするスキルだ。射出された蜘蛛糸はターゲットを自動追尾して右手と左手の指を蜘蛛糸で縛るのだ。バリアを張っていても手首から先だけはバリアの外に出ている。なぜなら手は武器を握ったり魔法をターゲットに向けて射出するためにバリアの外側に出ていることが必要だからだ。そこを狙っていくわけだ。テオドのスキルはさすがに実戦向きにできていて役に立つ。
手枷をされると魔法を発動してもターゲットに狙いと付けられないから不発となる。俺に向けてバリア破壊魔法を撃ち込もうとしていたヤツらも大半が不発に終わった。だが、呪文を唱え終わったヤツが数人いて、俺にバリア破壊の魔法が当たった。俺のバリアが20%くらいになったが、俺も回避移動をしたし、バリアの自動回復も働いているので、なんとかバリアを破壊されずに済んだ。
「なぜだ? なぜ、おまえのような低能な魔人にこんな技が使えるんだ!?」
敵のリーダーは手枷を外そうともがきながら喚いている。俺の魔力が〈130〉に見えてるから不思議で仕方ないのだろう。
ほかのロードナイトたちは手枷をしたまま逃げ始めた。そうはいかない。俺は雁字搦めのスキルを発動して両手とシッポを使って一人ひとりを蜘蛛糸でグルグル巻きにしていく。二十人全員のバリアを破壊し眠らせてロードオーブを停止させた。
俺が探知できる半径265モラの範囲を探ると、200モラ以上離れたところに多数の人族がいたが、それはロードナイトではなく一般人だった。しかも大半が動いてないから眠っているようだ。動いている者もこちらに向かってくる者はいないから問題ないだろう。
さて、このロードナイトたちには色々聞きたいことがある。まず、蜘蛛糸を分解して全員を並べた。男が十五人で女が五人だ。全員が床に横たわって眠っている。
一人ずつ起こして尋問することにした。まずは、さっきのリーダーから始めよう。
「目が覚めたか?」
リーダーは俺の質問に答えず、呪文を唱え始めた。バリアの呪文だ。俺が起こしたとき、誰もが皆同じような行動を取る。可哀そうだが魔法は使えないぞ。リーダーは焦って何度も呪文を変えながら唱えているが、やがて無駄なことが分かったようだ。
「何をした? なぜ、魔法が使えないのだ?」
「俺の質問に素直に答えたら、魔法を使える状態に戻してやる」
「ふん! 盗賊なんぞに教えることは何もない!」
「そう言うな。おまえが答えなかったら、ほかのヤツに聞く。そのときは、おまえが喋ったと言うぞ」
「くっ……」
こんな問答を一人ひとり繰り返しながら尋問を続けた。素直に喋ったヤツもいれば、頑として喋らないヤツもいた。ちなみに、あのリーダーは意外に素直だった。
まず、なぜロードナイトが二十人もこの闘技場にいたのか? 初めから俺を罠に掛けるために用意していたのか? それは俺の考え過ぎだった。この場所は魔獣を誘き寄せる闘技場で、いつ魔獣が襲ってくるか分からない。だから、ブライデンではロードナイトのチームが順番に交代しながら緊急時に備えて終日待機をしているのだそうだ。
チームはロードナイト二十人で編成されていて、そういうチームがブライデンには6チームある。6チーム全員がブライデン軍に所属している。つまり軍人ということだ。そのうち常時3チームが王都を守っていて、残りの3チームは国境警備や商隊、私掠船の護衛として旅に出ているらしい。
軍人のほかにもブライデンには八十人くらいロードナイトがいるそうだ。王家の親衛隊、貴族や商会などの専属護衛、学校の教師や学生、フリーのハンターなどだ。それから驚いたことに、なんと王様やその子供たちもロードナイトだという話だ。しかも、王様の魔力はブライデン王国の中で一番高いらしい。さすがは海賊が興した国だ。
今は1チームを潰した。ブライデンの王都には2チームがまだ残っている。いっそ、残りの2チームも潰してしまおうか……。いやいや、今は運が良かったから二十人ものロードナイトと戦って勝てたが、次も同じ手が使えるとは限らない。
いや、そうではないかも……。
今は真夜中だ。いくら軍人でも、夜中は宿舎や官舎で眠っているはずだ。
尋ねてみると、残りの2チームはブライデン城内にいることが分かった。軍に所属するロードナイトには城内に特別待遇の宿舎があり、通常はそこで待機しているそうだ。家族を持っている者は休暇中だけは家族がいる街中の自分の家に戻るが、普段は宿舎で寝泊まりすることになっているらしい。
それと王家の親衛隊は十人で全員が若い美女なのだそうだ。宿舎は城の中で、王様の寝室近くに部屋があるとのことだ。さすがに海賊の親分の血を引いてるだけあって、王様は精力旺盛なようだ。
もう一つ肝心なことを確認しなければならない。ベアルがどこにいるかだ。聞くと、ベアルは城内の牢獄に捕らわれていることが分かった。昨日の昼間に護送されて来て、取り調べを行ったが何も白状しなかったようだ。そりゃそうだろう。ベアルは何も知らないし、本当に盗賊ではないのだから。
今はまだ零時を回ったばかりの真夜中だが、夜が明ければベアルに対して大の男が泣き叫ぶくらいの厳しい取り調べが始まるという話だった。それまでに救出しないといけない。
この二十人のロードナイトたちには、少し可哀そうだがロードオーブの機能を停止したまま、しばらくの間ここで眠ったままでいてもらおう。沈黙の魔法も掛けておく。目覚めたときに騒ぎになるのを少しでも遅らせたいからな。
さて、困った。この事態をどうやって収拾すればいいんだ?
ベアルをこっそり救出する作戦だったが、俺が予想もしなかった事態が生じて、作戦を変更せざるを得なくなった。ブライデンの上級軍人二十人を一気に無力化したのだから、ブライデン側からみればこれは盗賊どころの狼藉ではない。俺は今、完全にブライデン王国の敵になってしまったということだ。
このままベアルを救出したとしても、俺やあの親子は完全に犯罪者になってしまう。中途半端な救出作戦だけではダメだ。こうなった以上は徹底的にやるしかないな。
よし! 作戦変更だ。まず、今の俺の相手はブライデン王国のロードナイト2チームだ。夜襲をかけて一気に片を付ける。そして、ブライデンの王城と王都を制圧するのだ。勝負を決するのは夜が明けるまで5時間だ。
※ 現在のダイルの魔力〈265〉。




