040 レオラを隠れ家に連れていく
レオラは男をあっさり殺した後、呪文を唱え始めた。男のロードオーブに格納されているソウルを自分のオーブに移そうとしているのだ。
「ソウルの移し替えが終わりました。ありがとうございます。ダイル、あなたのおかげです。ええと、自分の魔力を確かめてみますね」
レオラはそう言うと探知魔法の呪文を唱えた。さすがにロードナイト養成学校を卒業したエリートだけあって、探知魔法の呪文も知っていたらしい。この魔法を使えば、周囲を探知できるだけでなく自身の魔力も測ることができるのだ。
「やった! やりました! 私の魔力が〈186〉になりました!」
嬉しさを顔いっぱいに表していたが、すぐに怪訝な表情に変わった。
「えっ!? あなたの魔力は〈130〉なの? どういうことですか?」
レオラは俺の魔力に気付いたようだ。
「その魔力は見せ掛けだから気にするな」
俺はそう言いながら自分の魔力を普通の獣人と同じ〈7〉に偽装した。
「えっ? 魔力が……」
レオラが何かブツブツ言ってるが、俺はそれを無視した。
「ところで、その死体は土に戻しておくぞ。あと、男が亜空間バッグに入れてあった木箱が現れてるから、中身を確認しておこう」
俺はレオラの返事を待たずに男の死体を魔法で分解した。男の木箱にはキャンプ道具や予備の剣、革の服、マントなど俺が欲しいと思っていたものが入っていた。それとオーブ玉を200個、さらに新品のソウルオーブを60個も持っていた。大金貨や金貨もたくさん出てきた。50万ダールくらいはありそうだ。男はソウルオーブの輸送とその護衛をしていたから金持ちだったらしい。
「意外に少ないですね。人族のロードナイトでソウルオーブ輸送の護衛をしてれば、もっとソウルオーブやお金を持っていると思うのですが……」
「そうなのか? しかし、あんたも護衛だったのだろ? お金は無いと言ってたが?」
「獣人の護衛はほとんど奴隷と同じような扱いなのです。輸送が終わってもソウルオーブは1個ももらえません。食べていくのが精いっぱいで……」
「獣人は酷い差別を受けているんだな」
俺の呟きを聞いてレオラは不思議そうに俺を見た。
「あなただって豹族なのに……、おかしな人ですね」
レオラの言うとおりだった。今の俺は豹族なのだ。
「男が持っていたソウルオーブと金は半々で分けよう。オーブ玉やキャンプ道具、武器と衣服は俺がもらう。それでいいか?」
オーブ玉200個はアイラ神に会えたら神族固有の魔法でソウルオーブに加工してもらうつもりだ。それだけですごい財産になる。
俺の言葉にレオラは驚いた顔をした。
「本当にそれでいいのですか? 男を倒したのはあなたですよ? 私はラストアタックを与えてもらえただけで、それだけでも凄いことなのに……。自分の魔力がこんなに上がったなんて、今も信じられないくらいです」
「いいさ。オーブ玉は俺が全部もらうし、魔獣を倒せば大魔石がいつでも手に入る。金には困らないからな」
「え? あなたがどんなに強くても魔獣は一人では倒せないですよ。ロードナイトが五人でパーティーを組んで倒せるかどうかギリギリですもの」
「そうなのか? 今まで2日間に一頭のペースで魔獣を倒してきたぞ?」
俺がそう言うと、レオラは疑わしそうな目をした。ウソではないことを示すために大魔石を取り出して見せた。大魔石は12個ある。俺が豹族になってから倒した魔獣の大魔石だ。大魔石のサイズはどれもビー玉くらいで、同じ大きさだ。
「この20日間くらいで倒した魔獣の大魔石だ」
それを見てレオラが目を丸くしている。
「これって、あなた一人で? でも、魔樹海の街道で魔獣に出くわすことなんてめったに無いですよ。どうやって……」
「いや、魔樹海の中に入って行けば、普通に魔獣はいるぞ?」
「えーっ! わざわざ魔樹海の中に入っていくのですか? それってロードナイトのパーティーでも絶対にしないことですよ。いつ頭上から襲われるか分からないから凄く危険でしょ?」
え? もしかして、俺は変なのか? たしかにイージーモードだから普通とは違うけど……。
「ええと、探知魔法で魔獣が居るかどうかは分かると思うけど……」
「探知魔法で分かるのは自分より魔力が低い相手だけです。たいていの魔獣は自分よりも魔力が高いから近くに居ても探知できません。だから危険なのです。それって、常識ですよ?」
うっ! 言われてみれば、たしかにそうだ。俺は自分よりも魔力が高い魔獣やロードナイトでもその存在は探知できる。魔力までは分からないけどな。ヘルプには色々書いてあったけど、関係ないと思って読み飛ばしていたのが失敗だったな……。
「ええと、俺って特殊なロードナイトみたいだな。自分より魔力が高い相手でも、その相手がどこに居るかくらいは探知できるんだ」
「本当なの?」
レオラはまだ疑っているようだ。まぁ、疑われても構わないが。
「それはそうと、この家に居ては危ないな。あの男が戻らなかったら必ず仲間が捜しにくるからな。どうしようか……?」
俺は少し考えて、レオラを自分の隠れ家に連れていくことにした。小屋の中に置いてあった生活用具や食料を亜空間バッグに入れて浮上走行で移動した。
小屋から隠れ家まで300モラほどだ。藪の下に隠してある横穴を通って、レオラをその奥の隠れ家に案内した。
「狭くてすまない。小屋から近すぎてこの場所も危険だが、とりあえず身を隠すにはここしかない」
「そうですね。狭いのはいいのですが、この場所だと外から探知されるかもしれません。地下なら探知されにくいという話は聞いたことがあります。でも、ここは横穴なのでどうでしょうか……」
たしかにそうだ。俺は外に出てレオラが探知できるか確認してみた。たしかに微かだが誰かが土の中にいるのが分かる。もっと奥まで掘って、きちんと生活できるようにしよう。
俺は〈土〉属性の掘削魔法で30モラほど奥に掘り進んで、外からは探知できないことを確かめた。そして、寝室と食堂、トイレ、風呂を作った。貯水槽と排水槽も作り、非常口も設けた。さすがに水洗トイレは作れないので、穴を深く掘って用を足した後は土を被せる方式にした。
作り上げるのに2時間ほど掛かった。その様子をレオラは黙って見ていたが、完成するとすぐに俺に尋ねてきた。
「ダイル、あなたは不思議な人ですね。あなたは風属性の魔法も使えるし、土属性の魔法も使える。どうしてそんなことができるんですか?」
レオラが不思議に思うのもムリは無い。〈風〉属性と〈土〉属性の魔法は相反するから、普通はどちらか一方しか使えないはずなのだ。俺の場合はイージーモードだから、属性に関係なく魔法が使えるが。
「ええと、それも俺が特殊なロードナイトだからってことで」
レオラは相変わらず疑わしそうな目で俺を見ている。
「それに、その耳も変です。豹族の大人で子供のように耳の先っぽが垂れてる人はいませんよ」
「俺だって耳の先っぽを立てることはできるぞ。だが、疲れるから普段はヘタレ耳にしてるんだ」
俺はそう言いながら耳の目を開けて耳を立てた。
「ふーん……。やっぱりあなたって不思議な人ですね」
耳の目は小さくて模様にしか見えないはずだ。レオラは俺をまじまじと見ているが、放っておこう。
この隠れ家を作るときに俺の寝室とは別にレオラの寝室を作った。だが、ドアなどは無い。ただし、お互いに見えないように部屋を配置した。簡単な夕食を済ませて寝ようとしたとき、レオラがなんだか心配そうに言ってきた。
「あの、私はあなたと同じ豹族ですが、ベアルの妻ですから。それに、あなたより少し年上ですし、子供もいますし……」
「それで?」
「ええと、体も汚れたままですし……」
「あぁ、清浄の魔法を掛けてほしいってことか? でも自分でも使えるだろ?」
「いえ、そういうことではなくって……」
なんだろ? たぶん、こんな状態になったから不安になっているのだろう。敵に亭主と赤ん坊を捕らわれているのだから、心配するのも仕方がないことだ。
「心配するな。俺も頑張るから」
ベアルと赤ん坊を必ず助けだしてやる。俺は心の中で父子の救出を誓った。
もちろん敵に対して容赦するつもりはない。殺しはしないが、あいつらが獣人に対して二度とナメた真似をしないように徹底的に教え込んでやる。
「どうか、優しくしてください」
「いや、そんな甘いことはしないぞ。蜘蛛糸で縛りあげて、それから突き刺す。でも殺したらマズイからな。死なない程度に攻めて攻めまくってやる!」
なぜかレオラは涙ぐんでいた。よほどベアルとジュリのことが心配なのだろう。絶対にあいつらは許せない。
「あんたも疲れただろうから、寝床に行って横になったほうがいい」
レオラは不安そうな顔で頷いて寝室に入っていった。俺も寝よう。照明の魔法を絞って部屋を暗くした。
なんだかレオラが寝苦しそうにしている気配が伝わってきた。たぶん、ベアルたちのことが心配で眠れないのだろう。必ず救いだしてやると思いながら、あっと言う間に俺は寝入ってしまった。
※ 現在のダイルの魔力〈265〉。




