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036 シッポとヘタレ耳はご愛敬

 ブリコット村を出発して7日目の昼過ぎ。天気は曇り。まだ俺は原野の小道を歩いている。街道には出ていない。原野では藪や低木で見通しが利かないところが多いが、今歩いているところは草原だ。原野の中にも所々にこういう見晴らしのきく草原があるのだ。見渡すと、500モラ四方ほどが草原だった。


 その草原の真ん中あたりに来たときだ。常時発動している探知魔法で多数の魔物を察知した。この魔法で探知できるのは魔力の値とほぼ同じ距離だ。ということは俺はその魔物たちを240モラくらい離れたところで探知できたってことだ。


 魔物の数は数十頭。少しずつ俺に近寄ってくる。これは偶然ではない。明らかに群れで俺を包囲している。


 距離が230モラくらいのところで、その魔物がボングガルブ(火炎狼)の群れだと分かった。五十頭以上いるだろう。その中にボングガルブロード(魔獣狼)も三頭いる。


 雑木の茂みから狼たちが姿を現した。まるで計画的に俺を狙っていたみたいだ。どうしてだ?


 一つだけ心当たりがあった。2日前に火炎狼の小さな群れと遭遇した。五頭か六頭いた中の二頭を倒したが、残りには逃げられてしまった。その意趣返しだろうか?


 狼たちが一斉に火炎を放射し始めた。火炎は俺の方に向かってくるが長さが50モラくらいで俺には届かない。


 こいつら、何をするつもりだ?


 すると、いくつもの火炎が集まって、炎の竜巻のように上空に向かって立ち上がり始めた。炎の竜巻は俺の右前方、左前方、後方にあって、全部で3本できている。そのすべてが俺に向かって進み始めた。距離は200モラくらいだ。


 これは!? 明らかに誰かが炎の竜巻を俺の方へ誘導している。


 あの三頭の魔獣狼だ! それぞれが炎の竜巻を誘導しているのだろう。


 魔獣狼の位置は炎の竜巻を挟んで俺とちょうど反対側だ。こうなれば、魔獣狼を各個撃破して炎の竜巻を減らしていくしかない。


 俺は筋力強化と敏捷強化で最大限に自分の速度を上げて、炎の竜巻に巻き込まれないように注意しながらスレスレを走り抜けた。そのまま魔獣狼の後ろへ回り込もうとしたが、20モラくらいまで近付いたところで、それを察知した魔獣狼に逃げられてしまった。


 今は炎の竜巻が俺のバリアをかすめただけだが、一気にバリアの耐久度が50%くらいまで減っていた。バリアの中の温度が急激に上がり大量の汗が吹き出る。チリチリした空気にその汗はすぐに乾いていく。


 炎の威力にバリアの回復が間にあっていない。もし、炎の竜巻に直撃したら一発でアウトだ。


 幸い竜巻の移動速度は俺よりも遅いが、3本の竜巻から逃げているだけでは、そのうち詰んでしまうだろう。どうやったら足の速い魔獣狼を逃さないで仕留められるだろうか?


 俺は竜巻から逃げながらバリアの回復をして、もう一度、竜巻の反対側にいる魔獣狼に全速力で迫った。さっきと同じで、魔獣狼は俺の接近を察知して逃げ始めた。距離は25モラ。俺も後を追うが狼のほうが足が速い。


 俺は蜘蛛糸移動のスキルを発動した。狙う場所は魔獣狼の数モラ先の地面だ。一気に体が加速した。俺は蜘蛛糸をもう一本射出した。雁字搦め《がんじがらめ》のスキルを発動したのだ。これもテオドからコピーしたスキルだ。蜘蛛糸を相手に向けて射出すると、自動追尾して文字どおり雁字搦めにする。しかも蜘蛛糸は蜘蛛糸分解の魔法でないと消えない。


 狙いは間近に迫った魔獣狼だ。魔獣狼は走っているが、蜘蛛糸がどんどん体に絡まっていく。ついに魔獣狼は倒れた。さらに糸でグルグル巻きにしていく。当分は身動きできないはずだ。ここで仕留めたいが、別の魔獣狼が俺を狙っている。


 同じやり方で、残り二頭の魔獣狼も蜘蛛糸で雁字搦めにして倒した。既に炎の竜巻は3本とも消滅していて、五十頭くらいいる火炎狼たちは大半が動けなくなっていた。動ける狼もいたが、唸り声だけあげているだけで、俺を攻撃してくる元気は無さそうだ。たぶんどいつも魔力切れを起こしているのだろう。群れのボスから火炎中止の命令が出なかったせいだな。なにせボスたちは糸でグルグル巻きにされて、もがくのに必死だから。


 さて、仕上げだ。魔獣狼たちは蜘蛛の糸で地面に張り付けにして、動けなくしてから一点刺しのスキルでトドメを刺した。その手下の火炎狼たちは斬りまくりのスキルで皆殺しだ。大小の魔石をたくさん入手できた。


 今回の戦いでは三頭の魔獣狼が連携して襲ってきた。魔獣の種類によっては複数の相手と同時に戦うこともあるということだ。その対策を練って訓練しておかないといけないな。


 魔樹海の中に入って最初の頃の敵はスロンエイブ(飛礫猿)だった。その魔石は価値が無いし、猿との戦いに飽き飽きしていたので避けていたのだが、ちょっともったいないことをしたと思う。猿たちは群れで襲ってくるので、複数の敵と同時に戦う訓練にはちょうど良かったからだ。魔獣狼の群れと戦った反省から、魔樹海に入ったら猿たちとも積極的に戦うように心掛けた。


 ………………


 その日の午後。戦いが終わって歩き始めると、原野の小道は少し下りになって、やがて川に行き当たった。川幅は20モラくらいだ。流れは緩やかで、川底から水が湧き出している。泳ぐ魚たちの影がきらきらと光る。


 少し暑いし、さっきの戦いの汚れも落としたい。うん、ここで水浴びをしよう。普段は清浄の魔法で体をきれいにしているから、裸になって体を洗うのは初めてだ。原野の中で水浴びをするなんて危険かもしれないが、今の俺なら、ここで魔獣に襲われたとしてもなんとかなるだろう。


 慢心してるわけじゃない。常に探知魔法を発動しているから、半径250モラくらいに入った魔獣や魔物は逸早く察知できるのだ。


 水に入ると湧水のためか、さすがに冷たかった。顔と体を洗って、シッポも洗った。自分のシッポだから自由に動かせるし、その扱いにもある程度慣れてきた。だが数か月前まで俺は普通の人間だったから、自分にシッポがあることには正直まだ違和感がある。


 で、シッポを洗ってみて初めて気が付いたことがある。俺のシッポの先っぽが五つに分かれていると。


 なに、これ!?


 俺にはシッポがある。それは仕方がないことだ。俺がザイダル神の魔法で殺されたとき、幸運にもソウルを移植できる体が近くにあり、それがたまたま豹族の体だったということだ。だがシッポの先が五つに分かれているなんて、今まで全然気付かなかった。


 シッポの先っぽは豹柄の毛に覆われていて少し太くなっている。見た目には普通のシッポだ。しかし毛の中を触ってみると、先っぽが五つに分かれているのだ。


 開いてみると、それぞれが5セラから6セラくらいの長さがあって、先端に爪のような堅い部分があった。それに関節のようなものがあって、手で掴むとクイクイと折り曲げることができた。


 ええと、これはどう見ても指だ。豹族のシッポには指があるのか? シッポは豹族にとって第三の手になっている。そういうことなのか?


 俺は急いで〈知識〉で豹族を調べ直してみた。しかし、以前に調べた以上の説明は無い。シッポに指があるなんて、どこにも説明はないぞ?


 だが、そんなことはこのウィンキアの世界では当たり前のことなのかもしれない。言ってみれば、人族の足に指が5本あるように、豹族のシッポにも指が5本あるということなのだろう。


 ここまで考えて、俺は重大な問題に気が付いた。


 シッポの指が動かない! 俺は自分の意志でこのシッポ指を動かすことができないのだ。


 たぶん、俺のソウルが人族出身のせいだろう。そうだからと言って、普通の豹族はシッポの指を動かせるのに、俺だけが動かせないというのは悔しい。


 よし! 絶対に動かせるようになってやる! 今からリハビリだ。そのために、今日は少し早いが、この川岸でキャンプしよう。ここで、シッポ指の訓練するのだ。


 ………………


 1時間ほどシッポ指を動かそうと試みた。シッポの先っぽに神経を集中して、指を動かそうとするがピクリともしない。シッポは自由に曲げることができるのに、どうして指だけが動かないのだろう?


 天の神様が豹族を作ったという話が本当だとすると、なぜシッポの先に指など作ったのか……。何か意味があるはずだ。天の神様は豹族を戦士として作ったらしい。ということは、シッポに指があるのは戦闘で使うためだろう。そうだとすれば、この指で剣を持つということか? イヤ、それは違う。この5本の指では剣を握るのは難しい。ということは……。


 俺は思いついて、シッポに魔力を流してみた。普通、何かに対して魔法を使うときは手の指先をそれに向けて魔法を放つ。例えば、熱線魔法を放つときも、ターゲットに対して右手か左手を向ける。すると、魔力が腕の中を流れて指の数十セラ先から熱線となって狙った方向へ飛んでいくわけだ。


 魔力が高いロードナイトであれば右手と左手を同時に使って別々の魔法を発動できるそうだ。例えば右手の魔力剣で目の前の敵と戦いながら、左手で熱線を放って遠くの敵を倒すとか、そういう並列動作ができるのだ。豹族は、さらにシッポでも同時に魔法を使えるということかもしれない。


 シッポに魔力を流すと、なんと、先っぽの5本の指が広がった。ちょっと見た感じは、シッポの先端で花びらが開いたような形になっている。正直、恥ずかしいくらいカッコ悪い。これが他人のシッポであればバカ笑いできるのだが……。


 すると突然、ロードオーブのメニューが現れて、メッセージが表示された。


 〈獣人の全方位視界が使えるようになりました。オンにしますか?〉


 〈獣人のテイル機能が使えるようになりました。オンにしますか?〉


 獣人の全方位視界? テイル機能? 何だろ?


 メニューの中の「ロードナイト機能一覧」を開くと、たしかに、この2つの機能が新たに表示されていた。


 ヘルプで調べてみた。全方位視界もテイル機能も獣人のロードナイトだけが使える機能らしい。全方位視界をオンにするとシッポの先に付いている目と耳の内側に付いている目が有効となり、全方位を視認できるようになる。また、テイル機能をオンにするとシッポの先端から魔法を射出できるようになる、とある。


 シッポの先に目があって、耳の内側にも目があるって? 意味、分かんねー。


 ま、やってみたら分かるだろ。


 で、全方位視界をオンにすると周囲360度が一度に見渡せるようになった。だが、頭がクラクラしてすぐに普通の視界に戻した。それで気が付いた。自分の視界が増えている。目が4つ増えているのだ。


 シッポの先っぽを見ると、指の2本がピースサインをするように開いていて、その指先に小さな目が付いていた。


 その目をよく見ようと、自分の顔にシッポの先っぽを近付けるとシッポの目と目が合った。たしかに、シッポの指の内側に2つの目があって俺を睨みつけてる。同時に、難しそうな表情でこっちを覗いている俺の顔が目の前に見えた。


 ひゃーっ! これで鏡が要らなくなる……って、この目はそんなことに使うんじゃないよな。


 それと、耳にも目が付いているとヘルプに書いてあったな。シッポの目で自分の豹耳を見ると、耳の先っぽの内側に小さな目が付いているのが分かった。たしかに、その目から見た光景が見えている。横方向を見るための目のようだ。


 シッポの目にも豹耳の目にもまぶたが付いていて、瞼を閉じるとそれぞれの右目と左目の視界を頭の中で区別することができた。


 豹耳の瞼を閉じて耳の目を使わないようにすると、なんと! 豹耳がヘタレ耳になってしまう。耳の先っぽのところが内側に折れ曲がって、ふにゃっとヘタレてしまうのだ。これは耳の目を守るための防護措置なのだろうけど、かっこ悪すぎ。今までは豹耳がピンと立っていて凛々しかったのに……。


 全方位視界に切り替えると、普段見ている前方の視界とシッポから見える後方の視界、豹耳から見える横方向の視界が繋ぎ合わされるようだ。個別の視界にするか全方位視界にするかは思い通りに切り替えができると分かった。


 この全方位視界のまま少し歩いてみた。


 いや、これはムリ。とてもまっすぐに歩けたものじゃない。そのうちムカムカして気持ちが悪くなってきた。これは船酔いのようなものだな。全方位視界は切っておこう。


 しかし、困ったことになった。全方位視界をオフにしても豹耳のヘタレが元に戻らないのだ。耳の目を使うときは耳がピンと立っているが、いつも4つ目で生活するなんて頭がおかしくなってしまう。


 仕方ない。このまま普段はヘタレ耳でいよう。カッコいい魔闘士なのにヘタレ耳か……。ちょっと恥ずかしいが仕方ない。


 もう一つの機能であるテイル機能をオンにすると、シッポの指先から魔法を射出できるようになった。シッポの指の中で目が付いている2本の指で狙いを付けて、目がない3本の指をターゲットに向けて撃つ仕組みになっているようだ。


 シッポの先っぽを後方にある雑木に向けて熱線を撃ってみた。最初のうちは全然命中しなかったが、慣れてくると命中率が上がってきた。


 しかし、相変わらずカッコ悪い。まるでシッポの先端が朝顔の蕾が開いたような形になっていて、そこから熱線が出ていた。


 このテイル機能はおそらく後方の敵に対して使うために備わっている機能だと思う。それに全方位視界を加えれば複数の敵に囲まれても隙を作らずに対応できるようになるということだろう。


 それで試しに全方位視界とテイル機能を同時にオンにして、背後にある雑木に向けて熱線を撃ってみた。全く当たらない。しだいに気持ち悪くなって、吐きそうになる。全方位酔いだ。


 でも、ここで諦めてはダメだ。絶対にこれを克服して全方位視界とテイル機能をものにしてやる!


 俺はこの魔境で最強を目指す。最強となって優羽奈を捜し出し、彼女を守るのだ。俺は心の中で固く決意した。シッポとヘタレ耳はまぁあれだ。ご愛敬ってことだな。


 ※ 現在のダイルの魔力〈253〉。

   (色々魔獣を倒したため、その魔力の1%分ほどが増加)


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