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029 俺にシッポが生えた!?

 寝ていた体を起こそうとして、手や足だけでなく体全体に痺れたような感覚があることに気付いた。自分の体が起き上がりたくないと言っているようだ。だが、体に痺れがあるだけじゃない。何かが変だ。


 重たい手を床に突いて上半身を起こした。そのとたん、俺はその違和感が何か分かった。自分の尻の下に何かが挟まっている。


 と言うか、自分の体に挟まれて「ちょっと痛いぞ」という感じで俺の脳に訴えかけているソレ。何だ? 腕でもなければ脚でもない。股の間にあるってことは、アレを挟んじゃってるのか? いやいや、それにしては位置が変だ。


 こ、これは……。シッポか!?


 えっ!? 俺はいっぺんに目が覚めた。飛び起きようとして、よろめいた。そして、また座り込んだ。


 さっきのはシッポなのか? すると、シッポの先っぽが体の前まで回ってきた。と言うか、自分の意志でシッポが動いてるぞ!?


 モフモフ感のあるシッポを掴んで、根元のほうに辿っていくと、たしかに自分の尻と繋がっている。


 俺にシッポが生えた!?


「えーっ? なんだっ!? これはーっ!!」


 誰かの叫び声がした。いや、今の声はたぶん俺が出した声だ。だが、自分の声ではない。俺の声はこんなに低い声とは違う。


 ということは……、俺にシッポが生えたんじゃない! 自分がシッポのある人間に乗り移ったんだ。


 思い浮かぶ相手は一人だけだ。ククルだ。頭に手をやると、髪の間からネコ耳が出ていた。正確には豹族だから豹耳だけど。ククルの身長は俺よりも10セラ近く高かったから185セラくらいのはずだ。


 どうして自分がククルになったのだろう? あの戦闘で俺が殺されて、その後で俺のソウルがククルの体に乗り移ったということだろうか。でも、どうしてそうなったのかは見当がつかない。


 一緒にいたフィルナはどこへ行ったんだろ? あの戦いのときに、もしかするとフィルナも殺されたのかもしれない。


 俺はよろめきながら小屋の外に出た。広場には焼けただれた死体が一つだけ転がっていた。近付いてみると、それが自分の体だと分かった。顔や頭は無事だが、首から下が焼けただれている。


 無残な姿と酷い臭い。不意に吐き気が込み上げてきた。ククルが何時間か前に食べた物が胃に残っていたのだろう。それを全部吐きだした。


 小屋に水があったはずだ。俺は痺れた脚を一歩一歩前に進めながら小屋に入り、桶に溜めてあった水をすくって口をすすいだ。


 いったい何があったんだ?


 吐き気と痺れでグッタリした体を横たえようと寝床に近付いて、革の袋と何かが書かれた紙があることに気が付いた。薄暗くてはっきりは分からないが手紙のようだ。明るい外に出てそれを読んだ。



 ……手紙の内容……


 私の心からの友、ダイルへ。


 フィルナです。目を覚ましたらククルになっているので驚いたと思いますが、あなたは電撃魔法で殺されてしまったのです。あなたを殺したのは神族のザイダル神様です。私たちを襲ってきた者たちもザイダル神様の部下で、その命令を受けて動いていたことが分かりました。


 あなたが殺されたと知り、アイラ神様がすぐにワープして来られました。アイラ神様は魔法を使ってあなたのソウルをククルの体に移植してくださいました。ロードオーブも移したそうです。ですから、ロードナイトとしての能力も大丈夫だと思います。


 ですが、あなたのソウルがククル兄の体に慣れるまでには数日から数か月くらいの時間が掛かるそうです。あなたが新しい体を自在に動かせるようになるまで、私はあなたの訓練をお手伝いしたいし、もっと詳しいこともお話ししたいのです。でも、アイラ神様も私もすぐにザイダル神様の拠点に向かわねばなりません。ザイダル神様へあなたが目覚めるまで待ってくださいとお願いしたのですが、それも許されませんでした。


 このようなことになったのは、私がザイダル神様に対して罪を犯したせいです。

アイラ神様は私の罪を償うためにザイダル神様と交渉をしました。アイラ神様はソウルオーブを毎年500個、15年間もザイダル神様へ支払い続けることになりました。細かい事情はここでは書けませんが、すべて私のせいなのです。私は人質としてザイダル神様が支配している国へ連れて行かれます。その国はベルドラン王国です。


 ザイダル神様からダイルへの伝言があります。ここにその伝言を書いておきます。


 ダイルもベルドラン王国へ向かい、ザイダル神様を訪ねてください。ザイダル神様があなたへ仕事を頼みたいそうです。あなたを傷付けるようなことはしないし、仕事への報酬も出すとザイダル神様は約束しておられます。ただし、もし来なければ人質(私のことです)が危なくなると言っておられました。この話はアイラ神様も承知しておられます。伝言はここまでです。


 私やククル兄を守るためにあなたは命を失いました。なんて言ってお詫びをしていいのか分かりません。それなのに、こうしてザイダル神様の伝言を伝えることになり、再びあなたを困らせている自分が情けないです。あなたに迷惑をかけるばかりで、今は何も償いができません。本当に、本当に、ごめんなさい。


 アイラ神様も私も大丈夫ですから安心してください。ダイル、あなたの旅の無事を心から祈っています。あなたの友、フィルナより。


 追伸。あなたが亜空間バッグに入れていた荷物はすべて外に出てしまい、襲ってきた者たちに盗られてしまいました。それで、旅で必要となる物を入れた袋を置いておきます。どうか使ってください。


 ……


 俺はその手紙を何度も何度も読み返した。


 俺がククルの体に乗り移った経緯も分かったし、新しい体に慣れるまでに時間と訓練が必要なことも分かった。全身が痺れたような感じがするのは、俺のソウルがククルの体に馴染んでないせいかもしれない。


 手紙によると、ザイダル神とかいう神族が俺を殺した仇だ。ザイダル神がすべての元凶だ。それなのに、ザイダル神はフィルナを人質に取って俺をベルドランに呼び寄せ、何かの仕事をさせようとしている。なんてヤツだ!


 この手紙はザイダル神に命令されて書いたのだろうが、どこまで信じていいのか分からない。ともかくベルドランへ行って自分で確かめるしかなさそうだ。


 ザイダル神については俺の〈知識〉から簡単な概略が分かった。ベルド神の一人息子で、独身だ。ベルド神はベルドラン王国を支配してきたが、10年前に不慮の事故で亡くなった。本来はザイダル神が後継者としてベルドランを支配して支えるべきだが、ザイダル神は自分が設立した私掠兵団に入れ込んで、国を陰ながら支えるという神族としての役割を放棄しているようだ。


 元々ベルドラン王国は他の国と比べて人口は少なく農地も広くない。はっきり言えば弱小国で、何か事が起きれば滅びてしまいそうな国なのだ。それなのにザイダル神が神族としての仕事をしていないから、この10年の間にベルドラン王国は魔族や魔獣に頻繁に侵略されて荒廃が進んでいるらしい。


 どうやら神族にもクズがいるみたいだ。


 手紙には、アイラ神が多額のお金をザイダル神に支払うことになったと書いてある。フィルナはそれをすべて自分のせいだと言ってるが、一種の身代金のようなものかもしれない。それには俺のソウルをククルに移して命を助けた代償も入っているのかもしれないな。ともかくザイダル神には要注意だ。


 事情はよく分からないが、アイラ神にはとんでもない迷惑をかけてしまったようだ。フィルナやアイラ神に会って、詳しい話を聞ければ一番いいのだが……。


 そうだ! 以前、アイラ神からもらった身分証がある。あれは魔具になっていてアイラ神に救難信号を送れたはずだ。たしか、腰のベルトに付けたはずだから取りに行こう。


 俺は重い脚を引きずりながら広場の真ん中で横たわっている自分の体に近付いた。見た目も臭いも相変わらず酷いが、少し慣れたのか吐き気は起こらない。


 自分の元の体を見て、ひと目であの身分証が壊れていることが分かった。焼けただれて箱の形が崩れてしまっている。これではもう使えそうにない。


 アイラ神への連絡は諦めるしかなさそうだ。


 と言うことは、頼りになるのは俺の体とロードオーブだけだ。しかし、俺の新しい体は痺れたような感じが続いていて、本来の状態に戻れるかどうかも分からない。本来は豹族であるククルの体は素晴らしい能力を持っているはずなのだ。


 俺の〈知識〉によると、伝説ではレバンクーメル族(豹族)は天の神様が戦士として作り上げた亜人だ。それが本当かどうかは分からない。しかし、現に豹族の魔力は〈7〉もあって、人族の7倍だ。身体能力も人族よりずっと高く、戦闘技術に長けている。しかも寿命は500年以上と魔族並みだ。顔立ちや体形は人族とほぼ同じだが、豹耳とシッポがあるからひと目で見分けられる。それが豹族の特徴らしい。


 この知識に間違いがないとすると、豹族は格段に優れた種族だと言える。だが現実はそう甘くないようだ。以前にフィルナから聞いた話だが、ククルは豹族ゆえに差別を受け、頻繁に苛められていたらしい。


 しかし俺はロードナイトだ。敵意を向けるヤツには、こちらもそれなりのお返しをしてやる!


 そう言えば、ロードナイトの能力は大丈夫だろうか? イヤな予感がして、俺は恐るおそるロードオーブのメニューを開いてみた。


 あっ! やっぱり……。


 メニューの魔法一覧を見ると、大半の魔法が暗い表示になっていて、使える魔法がほとんど無いことを示している。スキル一覧とロードナイト機能一覧はすべて暗い表示になっていた。亜空間バッグとマップ、状態表示設定、難易度設定は使えるが、これでは自分を守れない。つまり、ロードオーブの肝心な機能はすべて使えないということだ。


 ロードオーブからの魔力がほとんど感じられない。体が新しくなったから、オーブ装着の魔法が必要なのかもしれない。そう思ってオーブ装着の魔法を発動したが、状態は変わらない。


 考えてみると、ロードオーブのメニューが見えるからソウルリンクは切れてないということだ。


 メニューの状態表示設定をオンにして自分の魔力を確認すると、たったの〈8〉だった。これはどういうことだ? 体が新しくなったことに関係しているのだろうか? 俺のソウルがククルの脳や体に慣れることが必要なように、ロードオーブも新しい脳や体に順応するための時間や訓練が必要なのだろうか?


 元の魔力に戻るのか不安だった。だが、新しい体に慣れて、魔力が元の状態に戻ることを信じて、この場所でリハビリの訓練をするしかなさそうだ。


 しかし、こんな場所でたった一人だ。しかも体は操り人形のようにぎこちない動きだし、ほとんどの魔法が使えない。この魔境の中で生き残っていけるのだろうか……。


 あ、そうだ! フィルナが置いていってくれた革の袋があったはず。あの中身を調べないといけない。俺は小屋に戻って袋を開いてみた。


 袋には鉄製の剣やナイフ、炊事道具、干し肉など旅で必要となるキャンプ道具一式が入っていた。それと、ソウルオーブが2個と大金貨が10枚、金貨も10枚入っている。


「ありがとう」


 俺は声に出してアイラ神とフィルナに感謝した。本当なら俺は死んでいたはずなのだ。アイラ神とフィルナのおかげで、俺は新しい体や旅の道具を得て、こうして生きていられるのだ。


 ※ 現在のダイルの魔力〈???〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈150〉。


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