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020 私は魔樹海の中を歩き続ける

 ――――――― フィルナ ―――――――


 私の前をダリナ先生が進んでいく。魔法で藪を切り開きながら道にしていくから時間が掛かる。でも草藪を漕ぎながら進むよりは速いし不快さも抑えられる。


 昨日の昼過ぎに魔樹海の中に入った。ここは闇夜と同じだ。どうにか目の前を歩くダリナ先生の輪郭が見える程度で本当に暗い。しかし暗いからと言って、船への方向を間違う心配はいらない。万一に備えて、先生が大切な積荷の中に位置を発信する魔具を入れておいてくれたからだ。この魔具があれば船に乗せた積荷の方向とおよその距離をいつでも探知できるのだ。


 船の位置がはっきりと分かっているのだから、本当はもっと速く進みたい。ダリナ先生一人であれば浮上走行の魔法が使えるが、私は魔力が〈50〉しかないから浮上走行が使えない。だから一緒に行くには藪を切り開くしかない。私がダリナ先生の足を引っ張っているということだ。気持ちは焦るが、歩く速さはしだいに遅くなっている気がする。ほとんど寝てないから疲れが溜まってきているせいだ。でも今は我慢して歩き続けるしかない。


 魔樹海に入ってから何度か魔物と遭遇した。ネバグパイダー(酸糸蜘蛛さんしくも)、ヒュドレバン(風刃豹ふうじんひょう)、ジャドネイガ(毒砲蛇どくほうへび)などだ。どの魔物も突然襲いかかってきたが、バリアが攻撃を弾き返し、すべてをダリナ先生が撃退してくれた。


 今も、ケングダンブゥ(針猪はりいのしし)を仕留めて分解魔法で土に戻したところだ。


「先生、ムリしないで少し休憩しましょ。魔樹海の中は危険だって言うけど、先生がいれば大丈夫よね?」


 歩きだそうとするダリナ先生を呼び止めた。昨日からずっとほとんど休憩も取らずに魔樹海の中を歩き続けたせいで私はフラフラだ。


「フィルナ、今までは運が良かっただけよ。だから、安心してはダメ。今まで出会った魔物はあたしたちより魔力が弱かったわ。それに単体で襲ってきたから撃退できたの。でも相手が魔獣だったり、魔物の群れに襲われたりしたら、あたしたちの命は無いのよ」


「そんなことはないわ。先生は強いもの……」


「いいえ。魔樹海の中で生き残れるほど、あたしは強くないわ。あたしたちのように弱い者が魔樹海の中で生き残るためには、魔樹海の中での行動時間を短くすることが鉄則なの。そのために睡眠もろくに取らず、こうやって歩き続けてるのよ。休みたいとか、ムリをしているとか言うのなら、今からでも引き返した方がいいわ」


 そんなことは言わないでほしい。私が我がままを言ってダリナ先生にムリをさせていることも、私の大切な家族である先生を危険にさらしていることも、そんなことは分かってる。でも……。


「あと2時間くらいで船に着くのよ! ここで引き返すなんてできないわ! 私たちがカイエンで一緒に暮らすには、船に行くしかないのよ。船の中にククルにいを置き去りにするなんてできないもの」


「それは、あたしだって同じよ! 孤児だったククルを引き取って、ずっと自分の子供として育ててきたのよ。それに、あたしのせいで、あたしがあの子をダンジョンに連れていったせいで、ククルはあんな姿になってしまったのよ! 必ずあの子を元の姿に戻してみせるわ! そして、三人で仲良く暮らすの。その気持ちはあなたと同じよ。でもね……」


 そう言ったところで、ダリナ先生は小さくため息を吐いた。そして、語調を和らげて言葉を続けた。


 「でもね、フィルナ。あなたを魔樹海に連れてきたせいで、また同じ過ちを繰り返すかもしれない。あなたを失いたくないのよ……」


「だけど、ここで引き返したら、ククル兄はどうなるの? 私はククル兄を絶対に見捨てないわ! 私の命と同じくらい大切なの。いえ、代わりにあたしの命をあげてもいいくらいに……」


「あなた……、もしかして……」


 私は自分の顔が真っ赤になるのが分かった。でも、この暗さだから大丈夫だと思うけど……。


「ね! お願いっ! お母様! このまま船に行きましょ!」


「その呼び方はダメ! お父様から禁止されてるでしょ」


「でも……」


「あなたがククルのことをそんなに思ってるなんて気付かなかった……。あなたがあの子と一緒になってくれたなら、あたしはどんなに幸せか……。でも、種族が違うし、マイダールのお父様は絶対にお許しにならないわ。

 だけど、カイエンに行けば本家から遠く離れるし、マイダール商会から独立できるかもしれないわね。そうすれば、本当の親子として暮らせるかも……」


 突然、近くの樹上で「ギィーッ!」という鳴き声が聞こえた。それに呼応するように遠くで同じような鳴き声が響く。


「まずいわ。スロンエイブ(飛礫猿つぶてざる)よ。猿たちが集まってくる前に逃げるのよ!」


「なに言ってるの! 先生がいればスロンエイブくらい問題ないでしょ」


「十頭や二十頭くらいならね。でも、この辺りの魔樹海では百頭くらいが群れになってるとテオドさんが言ってたでしょ。囲まれたら勝てない。だから逃げるの。来た道を引き返すのよ。あなたが先に行って! 走るのよっ!」


「そんなこと言っても、暗くて前がほとんど見えないのよ。走れないわよ!」


 それでも私は必死に走り始めた。


 草藪の切り株に足を取られないように注意しないといけない。バリアを張っているから尖った切り株が突き刺さるようなことはない。だけど、切り株に躓いて転ぶかもしれないのだ。


 走る、走る! 3分か、5分か、10分か……。どれくらい走っているのか分からないけど、とにかく必死で走った。後ろから先生の足音も続いている。


 遠くで聞こえていた猿たちの鳴き声がしだいに近付いてきた。今は頭上後方の直ぐ近くで「ギィーッ!」とか「キィーッ!」とかいう鳴き声が聞こえている。魔樹の枝を伝いながら猿たちが集まってきたのだ。


 突然、バリアに何かが立て続けに当たった。その衝撃でよろけて転んでしまった。


 後ろで走っていた先生も立ち止ったようだ。起き上がろうと後ろを振り返ると、先生のバリアに数えきれないくらい何かが当たって光を発している。飛礫つぶてだ。猿たちから飛礫が飛んで来ているのだ。


 転んだ私を守ろうと、ダリナ先生が盾になってくれている。


「おかあさま……」


 思わず禁止されている言葉がまた出てしまった。


「フィルナ! 早く立ち上がって逃げなさいっ!」


 もがくように起き上がった。このままだとお母様のバリアが危ない。私はバリア回復魔法の呪文を唱えてお母様に照射した。


「何をしてるの!? あたしのことはいいから、あなたは逃げなさいっ!」


「そんなのダメに決まってるでしょ。お母様を置いて逃げるなんて、できるわけないよ……」


 私は半泣きで、バリア回復魔法の照射を続けた。


 私のバリアにも次々と飛礫が当たって光を発する。今のままでは自分も危ないけど、お母様の方がもっと危ない。どうしよう……。どうすればいいの? 私がもっと素直にお母様やテオドさんの言うことを聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。でも、今ごろ悔やんでも遅い……。


「グォーーァオッ!」


 これまでに聞いたことがないような咆哮がして、その圧力に思わず座り込みそうになった。すぐ近くにいる……。魔獣なの?


 突然、お母様のバリアが次々と眩いばかりの光を発した。「パリン」という音がして、同時にバリア回復魔法の手応えも無くなった。直後、ドスッ、ドスッという籠った爆発音が響き地面が振動した。


 どうしたの? 何が起こったの?


 お母様を見ると、静かに立っている。その背中の輪郭だけがうっすらと見えていた。


「お母様?」


 私の呼びかけに答えようと振り向いたように見えたが、ゆっくりとその場に崩れ伏した。


「いやーっ!! そんなの、ダメーッ!!」 


 言葉にならない叫び声を上げて、私は駆け寄った。


「おかあさまっ! おかあさまーっ!」


 跪いてお母様を抱き起こした。手が濡れる。血の臭い? 血なの? どこを怪我したの? 暗くてはっきり分からない。


 ※ 現在のダイルの魔力〈100〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈50〉。


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