018 これって俺のせい?
またフィルナたちに勘違いをされてしまった。結局、フィルナたちとはそれっきり話をせず、俺は小屋の中でテオドが用意した晩飯を食べた。晩飯と言っても、テオドが亜空間バッグから取り出した非常食だ。
「おい、ダイル。フィルナさんと話をしなくていいのか? せっかくロードナイトになって、フィルナさんより魔力が強くなったんだ。ちょっとくらい自慢していいんだぞ」
不味い非常食を食べながらテオドがそう言った。絶対にわざと言ってる。面白がっていることはたしかだ。
俺はその相手をせず、そのまま横になって眠りに就いた。魔獣猿たちとの戦いで疲れていたのもあるが、半分は不貞寝だ。
………………
翌朝。
不貞寝したせいか寝覚めは悪い。俺がフィルナたちの誤解を解けなかったことが尾を引いている。俺がロードナイトになったことも話せてない。
俺たちが起きたのが遅かったから、フィルナたちとは会えなかった。既に訓練に出かけてしまったようだ。
「今日はどんな訓練をするんだ? また、魔樹海へ行くのか?」
「そうだ。今日は魔樹海の中でロードナイトの実技訓練だ。ロードナイトになって初めて使えるようになった魔法やスキルが色々ある。今までは模擬訓練しかやってないからな。今度は実際に魔法やスキル使ってみて、やっていいことと、やったらダメなことを体で掴むんだ」
「なるほど。分かった」
「それが終わったら、おれが指導する訓練はすべて終了だ。昨日も言っただろ? おまえはロードナイトになったんだ。アイラ神様から命令されていたおれの役割は終わりだ」
やっぱりそういうことか……。少し心細いがテオドに甘えてはならない。
「それなら、あんたは帰ってしまうのか?」
「あぁ。今日の夕方にアイラ神様がおれを迎えに来てくれるそうだ」
そういうことか……。テオドは使徒だから、アイラ神のワープに同伴できるのだ。神族のワープに同伴できるのはその使徒だけで、それ以外の者は同伴できない。もちろん俺もアイラ神にワープで連れて行ってもらうことはできないのだ。
「あんたとはここでお別れか……。世話になったな。俺は優羽奈を捜す旅に出るよ」
「いや、おまえには頼みがあるんだ。これはアイラ神様からの依頼なんだが、フィルナさんたちと一緒にカイエンへ行ってくれないか。フィルナさんにはダリナさんが護衛で付いているが、魔樹海の街道を通るとなると心配だ。おまえにも護衛として加わってほしいんだ」
これは受けるしかないな。アイラ神には世話になっているし、俺自身の経験にもなる。優羽奈を捜す旅に当てがあるわけじゃないから、俺がカイエン共和国へ向かってもいいはずだ。それに、誤解されたままフィルナたちと別れるのもイヤだ。
「喜んでその依頼を受けるよ。あんたたちには世話になってるからな」
「そうか。アイラ神様も喜ばれるだろう」
それからはテオドと一緒に魔樹海の中で夕方近くまで魔法とスキルの実技訓練をした。ロードナイト用の魔法とスキルはすべて確かめることができた。
その後は旅の準備をした。食材が少なくなってきているので、俺一人で原野に狩りに出てダンブゥ(暴猪)を狩って解体した。非常食として乾燥肉も作った。その作り方はテオドが教えてくれた。旅で使うキャンプ道具や非常食の乾パンなどは、テオドがアイラ神に念話を入れて持って来てもらうそうだ。
………………
そして夕方。アイラ神がワープしてきた。
「おめでとう。ロードナイトになったそうね。意外に早かったわね」
「ありがとう。あんたが色々と助けてくれたおかげだ。テオドの指導も良かったからな」
俺の言葉にアイラ神は嬉しそうに微笑んだ。
「テオドもご苦労さま。それでテオドから聞いたんだけど、フィルナさんたちをカイエンまで護衛するのを引き受けてくれるそうね?」
「あぁ、引き受けさせてもらうよ。ただし護衛している間も、道中で優羽奈の行方を尋ねたりするけどな」
「もちろんそれは問題ないわ。あ、そうそう。これが旅の道具で、こっちは旅の資金。余ったお金は全部あなたのものよ」
地面にガチャガチャと道具類が散らばった。資金だと言ってアイラ神が出してきたのは革の袋が二つだ。重い。一つの袋が3キロくらいはありそうだ。
「大金貨と金貨が100枚ずつ入っているわ」
ええと、俺の〈知識〉によると大金貨1枚が1万ダール。金貨1枚が1千ダールだ。だから全部で110万ダールだ。ソウルオーブの新品が1個で10万ダール。それだけあれば夫婦二人が1年間暮らしていけるらしい。仮にソウルオーブ1個を円に換算して200万円とすると、110万ダールは2200万円となる。
「えーっ! こんなにもらっていいのか!?」
思わず叫んでしまった。
「カイエンまでなら十分過ぎるお金よ。でも、旅の道中は何があるか分からないからそのお金は持っておいて。それと、あたしの助けが必要になったらこれを使って連絡して来なさい」
アイラ神が俺に手渡してきたのは手の中に納まるくらいの箱だ。使い捨てライターのような縦長の形で、よく見ると魔空船の図柄が彫り込まれている。
「これは?」
「あなたがカイエン共和国の国民であり、あたしが保護していることを証明するための特別な身分証よ。この身分証は未登録の新品だから、あなたのことを登録しないといけないけどね」
「俺はカイエンの国民じゃないが、いいのか?」
「カイエンの国民ではないけど、神族のあたしがあなたの身元を保証している印ということよ。身分証を携帯してないと、どこの国へ行っても流民として扱われるわよ。流民は奴隷狩りや強制徴募の対象になったりして辛い思いをすることになるの。そんなのイヤでしょ。だから、それを持っておきなさい」
「そうか、ありがとう。で、登録って、どうやるんだ?」
「その穴の中にあなたの血を一滴落とすの。そうすれば、この身分証はあなたを証明する物になるから」
アイラ神にそう言われて、箱を見た。たしかに小さな穴が空いている。俺は指先をちょっと切って、その穴に自分の血を落とし込んだ。すると箱が緑色に光った。
「これでこの身分証はあなただけを識別するようになったわ。よく見ていて。テオド、これに触って見せてあげて」
アイラ神は箱をテオドに渡した。
「いいか。おれがここに触ると……」
テオドが箱の裏側の窪んだ部分に指を乗せた。すると箱が赤く光った。アイラ神が触っても赤く光った。俺が触ると緑色に光が変わり、箱の表面に文字が浮かんだ。
〈カイエン共和国身分証……この身分証を緑に発光させる者はカイエン共和国の国民であり、カイエンの神族によって身分を保証された当人である。当人はカイエン共和国並びにカイエンを守る神族によって保護されていることを証明する。 カイエンの神族 アイラ〉
なるほど。この箱は俺だけを識別して文字を表示させるようだ。
「この身分証があれば、どの国でも入ることができるの。魔族側の国はムリだけど。それと、この身分証は救助要請の魔具にもなってるからね。万一のときにはこれを使って助けを呼べるのよ」
「救助要請の魔具って何?」
「今から説明するわね。あなたが命に関わるような危険に遭遇したら、この魔具を使って信号を送って来なさい。この穴にあなたの血を落とせば、あたしに信号が送られてくるのよ。そうすれば、あなたが危険な状況になってると分かるし、発信場所も分かるから」
ほう。なかなかの優れものだ。試してみようと、さっきの傷口を穴に近付けた。
「待って! 10回くらいしか使えないから、今は使っちゃダメ。それと、信号が送られてきても、あたしがワープでその場所に転移することはできないの。たぶんあたしの使徒が行くと思うけど時間が掛かるから。それは知っておいて」
「分かった。色々ありがとう」
その後、アイラ神が持って来てくれた旅の道具やお金を自分の亜空間バッグに入れた。身分証だけは腰のベルトに付けた。これで旅の準備は完了だ。
「それじゃあ、おれはフィルナさんとダリナさんに挨拶をしてきます」
テオドはそう言って小屋を出ていった。
「フィルナさんたちを護衛してカイエンへ向かうとすれば、どのルートで行けばいいんだ?」
俺はアイラ神に助言を求めた。
「そうねぇ、ここからだとブライデン王国へ行くのもマリエル王国へ戻るのも、距離的にはあまり変わらないわね。船が探しやすいのは……」
二人でルートの相談をしていると、テオドが慌てて戻ってきた。
「アイラ神様、たいへんです! あいつら、書置きをして出ていったみたいです」
あいつらって、フィルナたちのことだよな?
俺は急いでテオドが持っていた書置きを読んだ。
〈あなたたちの邪魔をしたくないので、私たちは別行動を取ります。色々ありがとうございました。お二人の幸せを祈っています。フィルナ&ダリナ〉
「え? これって俺のせい? 俺が勘違いさせちゃったから?」
俺の呟きに、アイラ神は不思議そうな顔をして俺とテオドの顔を交互に見ている。テオドは鼻をヒクヒクさせているだけだった。
※ 現在のダイルの魔力〈100〉。
※ 現在のフィルナの魔力〈50〉。




