21、叔母の右腕
毎週日曜日投稿作品です。
私事で申し訳ないのですが、3年前にリウマチを患いまして薬との相性が悪いのか現在も痛みと闘いながら、パートの仕事が実質制限され働けなくなった時間を利用して小説を書いております。
最近体調が思わしくないため、手首の痛みが引かず執筆活動が難航しております。
定期的に投稿したいのですが、構想はあっても文字にすることが叶わず、以後は間隔を開けて投稿となることをお許しください。
この作品のストックもあと1話のみですので来週投稿しましたら、次の投稿は未定です。
よろしくお願い致します。
杏樹がクレープを食べた後は、目的地に急いで移動した。
寄り道していたら杏樹の食べ物センサーが反応して今日の目的が完遂できないと亮介は大急ぎで、大型量販店で食材をこれでもかと買い込み、2階の生活必需品売り場で雑費類もありとあらゆる物を購入し、全てマンションに配送するように手配した。
杏樹は昨日宣言された通りにお菓子をたくさん買ってもらってご満悦だ。
その後、別のマーケットに移動し寝具売り場でベットを見る際に多少2人の間で揉めた。
「亮ちゃん私が寝るだけだから安いベットでいいよ。その・・・・柵付きになるのはご了承下さい」
「了承も何もそれが必須だ。安さで見るのではなく機能性重視で見た方がいい」
「うーん寝れればなんでもいいよ」
居候の身で贅沢言いませんとベットを見て回る杏樹に、最初は少し離れた待合所でその姿を見ていた亮介だったが、ふとある事に気がつき店員を呼ぼうとしている杏樹の姿を見て慌てて引き留めた。
「待てアン!やっぱり俺が見て決める!」
「なんでさぁ!私が利用するんだからもうこれでいいよ!」
杏樹が指差したベットを見て亮介は、勘弁してくれとその腕を取った。
「いいかアン。さっき駄菓子屋から出た時にこのままこの関係を続けてもいいって言ってたよな」
「え?・・・・うん、言ったよ。それがどうしたの?」
「と、いうことはいずれ一果にもその旨を伝えて共同生活を続ける中で一果が泊まりに来る事も出てくるだろう。そうなったら俺のベットをアンと一果が使って、今日買おうとしているシングルベットは俺が使う事になるのでは?」
「あ・・・・・」
その状況を考えて真っ青になる杏樹の肩にポンと手を置いた。
「そう言うことで俺が納得するものを選ぶ。いいな」
「はい・・・」
スポンサーがそう言う以上、それ以外なんと答えろというのか。
いくつかのマットレスを触りながら亮介の後を着いていく杏樹はどんどんとグレードアップした売り場に移動していることに震えていた。
そのうちの1つが気に入ったのか、亮介が手で感触を触って高級ホテルでも使用されているマットレスに寝転んだ。
何度か寝返りを打ち、端に座って座り心地も確認してから、これにしようと言う亮介の言葉に杏樹も横になってカッ!となって目を見開いた。
寝心地抜群!?私こんないい環境で生活してばちが当たらんか!?
1人慄く杏樹の手を引っ張り亮介が気に入ったものを全てセレクトしたベットの高額な事よ。
一気にげっそりする杏樹に契約のために応接セットに座っていた亮介が横目でイタズラが成功したと言わんばかりの表情をする彼に杏樹はやっぱり起伏が出始めていると思った。
その表情を見た多国籍の女性店員のほとんどが真っ赤に頬を染めて見ていることか。
仕方ない・・・と杏樹は寝具を配達してもらうために日時を記入している亮介の後ろにいた杏樹は、彼に覆い被さるように首に手を回した。
「ありがとうね亮ちゃん」
杏樹の行動で女性の視線が一気に離れた事に気がついた亮介もまた杏樹に顔を近づけその頬に手で触れた。
「どうしたしまして」
目の前の男性店員が杏樹に釘付けなのは頂けないが、俺より前に出ようとしないだけいいかと妥協し、本日の遅い時間だが確実に配達するように言いながら寝具売り場を離れた。
「よし後は着るものだな」
「それなら行きたいところがあるんだけど、そこでもいいかな?」
「気に入っているブランドでもあるのか?」
「ハイブランドではないんだけど、叔母さんが手がけた会社だからそこで買おうかと思って」
「叔母って玲香さんのことか?」
「会長とも知り合いだから亮ちゃんも会ってるかもって思ってたけどやっぱり知ってるんだね」
「何年前だったか会長経由で会いに来られたことがあったよ。アパレル関係の会社を立ち上げてるんだっけ?」
「うん、今は信頼おける人に会社を任せて加賀見に戻ってるけどね」
「信頼おける・・・ね。大丈夫なのか?」
「亮ちゃんが何が言いたのかはわかるけど、あの人は大丈夫だよ。何せその人は叔母さんの旦那さんだから」
!加賀見玲香が既婚者!?
「驚いたでしょう。極秘だからごく一部の人しか知らない情報なの。だから亮ちゃんも口外しないようにね」
「会長は・・・」
「もちろん知ってるはずだよ。それにいつまで経っても身を固めない叔母さんに結婚を勧めたのは他でもない会長だって聞いてるから会長がキューピッドの可能性もあるんじゃないかな」
あのクセスゴじーさんがキューピッド?
亮介の表情を見て杏樹は手を伸ばして笑った。
「やっぱり亮ちゃん表情に起伏が出て来てるよ。さっきもすごい顔してた」
「いや、あの会長がキューピッドとか似合わないだろう」
「そう?私は会ってみて“らしい“と思ったけどなぁ」
どこが?と顔を顰める亮介をクスクスと笑う杏樹の異性を惹きつける事よ。
勘弁してくれと杏樹の肩を抱いて移動すればすぐにそういう視線は離れて行った。
昨日肩を抱いてマンションに移動する際はすごい抵抗していた杏樹が、今回は楽に移動できると燥ぐのでそのままデパートを出た。
少し離れた場所にあるブティックに、逆方向に駐車した車に戻るのも時間の無駄と判断し、タクシーで移動しようと拾い、乗り込んだ。
今日中に必要なものを購入するだけならいいが、それらを配送受け取り、設置も済まそうと思えば時間が足りなかった。
乗り込んだタクシーの運転手は年配の男性だった。
乗り込んだ直後から杏樹に不躾な視線をチラチラと向けるので、杏樹も警戒し身を硬くしたのを感じた亮介は、彼女の肩を抱き寄せ自身の膝に頭を置かせた。
運転手の視線を引き離し、バックミラー越しに運転手を睨みを効かせると運転手はチッと舌打ちした後、目的地まで多少乱暴な運転ではあったが移動して行った。
亮介は多少多めのチップも含めた金額を運転手に支払い、その場をすぐに離れた。
「大丈夫か、アン」
「うん。ありがとう亮ちゃん」
助かったと言う杏樹の顔色はまだ悪い。
男の亮介に邪な視線を向けられても逃げ切れる自信がある分まだ余裕があるが、女の杏樹は別だろう。
どこかに連れ込まれたら女の身では逃げられなくなる可能性は大きい。
単独犯でも大変なのに複数となると絶望的だ。
だから一果やジェシカが警戒して杏樹を守っているのか。
「無理はするな。言っただろう、してほしいことがあるならきちんと言うんだ」
両肩に手を置いて言えば杏樹はその手を重ねて「うん」と頷いたがそれ以上どうしてほしいとかは言葉が続くことはなかった。
もどかしい気持ちを抱えたまま、あるブティックに入れば日本人の店員が杏樹めがけて駆け寄ってきた。
「杏樹ちゃん!やだ久しぶりね!」
「桃子さんお久しぶりです」
三十代の店員はブティックの最新の服を着て接客していた。
ナチュラルな化粧ではあったが、最新のコスメなどを使用しているのか、その辺の二十代の若い女性と対して変わらない外見だ。
杏樹の隣にいる亮介に気がついた店員は口元に両手を当てて真っ赤になって驚いた。
「え!お隣の方って杏樹ちゃんの彼氏!?」
「あ・・・・はい」
杏樹がこの時、婚約者ですと言おうか迷ったな。と亮介は思ったが、ここで詳しく言う必要はないかと頭だけ下げておいた。
「社長から杏樹ちゃんにはかっこいい彼氏がいるって聞いてたんだけど、本当にモデル顔負けのいい男じゃない!」
一人盛り上がっている店員をよそに亮介は杏樹に耳打ちした。
「どういうことだ?」
「叔母さんの会社の従業員の中に私を紹介してほしいって言う人が一定数いて、そういう人たちに牽制する意味で叔母さんが虚勢を張ってたらしいの」
なるほど。
奇しくもその虚勢が現実になったと言うことか。
実際ブティックの奥から何人かの男が出て来て、亮介を見るなり肩を落としている者がいた。
ちょうどいい時に来たかもしれんな。
「亮ちゃん気をつけてね。私がダメなら一果を狙って来る人がいるかもしれないから」
は?こっちがダメならあっちとフラフラするような不誠実な男に妹はやらんが?と視線だけで牽制する。
「ところで今日はどうしたの?」
店員の言葉に杏樹も話を合わせた。
「実は新しい服を新調しようと思って来たんです」
笑顔で言う杏樹に、店員は歓喜した。
「え!本当!?前から杏樹ちゃんには広告塔になって欲しくて社長には打診してたんだけど、そう言うことならタダでいいからいくつか持って行ってくれない。その代わり宣伝よろしく!」
その言葉に杏樹のにならず亮介も目が光り、ズイッと前に出て店員に質問した。
「何着でもいいんですか?」
「いいわよ!そ・の・代・わ・り。と言ってはなんだけど、彼氏さんも広告塔になってくれない?今日のようなさりげないペアルックでいいから2人が着てくれるなら、ここの従業員総出で準備させてもらうわ!」
亮介は一果が用意した2着の服だけでは対外的にアピールできる服装にも限界があると瞬時に判断し、条件を1つ付けて了承した。
すると話を聞きつけて来た何人かの女性従業員が奥からワラワラと出て来て急に“誰が1番2人に合う上級ペアルックを選定できるか選手権“が開催された。
玲香のお店だからか、その従業員のほとんどが日本人のようだ。
年配の男性授業員の人に、奥に簡易的に用意された席でお茶を用意されそれを離れたところで見ていた2人は異常に盛り上がっている店員たちを呆然と見た。
「ものすごい気迫だな」
「みんな亮ちゃんに着てもらおうと必死だね」
「俺と言うより俺達にだろう」
まあそうとも言うと杏樹は出されたお茶に口をつけながら、先ほど店員に出した条件を思い出し質問した。
「よかったの?試着しなくて」
そう、先ほど亮介は試着はせずにサイズを店員に告げてそれで2人に合う衣装を選んでほしいと条件をつけたのだ。
杏樹は元々ここで服を購入していた関係でサイズはモロバレなのでデーターを引っ張り出してみんな張り切っていたが、亮介はサイズ指定のみだ。
「問題ない。俺もアンも基本どんな衣装も着こなせるだろう。鏡の前で衣装を合わせる程度で充分だ。そう言う意味では無駄な着せ替え時間は遠慮したい」
苦痛と言わんばかりの表情を浮かべる亮介に試着で嫌な思い出があるのか、と考えていた杏樹は亮介のその後続いた言葉で納得した。
「一果は昔からこういう買い物の時に人を着せ替え人形にしたいのか長い時間拘束して服を選ぶことがあるからな。あれは頂けない」
ゲンナリと言う亮介に思い当たる節がある杏樹もなるほどと笑った。
基本着れればなんでもいいと思う杏樹はいつも一果に「ダサい!」と服選びに口を出して来た。
一果のセンスがいいので杏樹は享受していたが、亮介は嫌な記憶として残っているようだ。
「このままいけば5着は来るよ。何着かに絞るの?」
5人の店員が服を選んでいる姿を遠目で見ながら杏樹が聞けば、亮介は腕組みして応えた。
「見てからだな。すべてセンスが良ければ頂いていけばいいだろう」
まぁタダでくれると言うなら遠慮はいらないだろうと納得する杏樹だった。
リメイクやほつれ担当の店員も含めて5名が店内を彷徨きながらこれぞ至高のペア服を!と選んでいる最中、先ほどお茶を出してくれた年配の従業員が近づいて来た。
杏樹の後ろに立ったことに気がつき亮介が警戒していると、杏樹もその存在には気がついていたようでその従業員の名を呼んだ。
「島津さんお聞きしたいことがあるのですが」
小声で言う杏樹に亮介は人に聞かれたくないことなのかと見守った。
「何なりと」
その佇まいはさながら執事で、もしかしてこの人加賀見関係の人かと憶測した。
「今日社長代理はどうされてますか?」
「彼は最近、社長に代わって各国のファッションイベントに出席して買付けを行なっています」
「つまり海外を飛び回っていると言うことですね」
そうなると会社の軌道自体は叔母さんがいなくても問題なく回っているのか。
やっぱり早めに彼と連絡を取って叔母さんの耳に入れるようにしないと・・・・。
「何かお伝えすることがありましたらこの島津、承ります」
その言葉に杏樹は鞄から筆記用具を出し、メモ帳に亮介のマンションの住所を記入し、亮介に間違いがないか確認してから島津に渡した。
「今回の衣装をここに配達してください。それと社長代理が帰国次第、会いたいと伝言をお願いします」
極秘で。と付け加えた杏樹に島津は顔色、表情を変えずに一礼してその場を離れた。
「あの人は・・・加賀見関係の人か?」
離れていく島津を見て言う亮介に杏樹はお茶を持ち上げながら肯定した。
「叔母さんのお世話係だった人で、昔うちの一族の策略にハマって唯一の家族を亡くした人なの。加賀見に不信感しか持てなくなって、その時に加賀見の職は辞しているわ」
杏樹は1度お茶に口をつけてから、再度口を開いた。
「叔母さんが若くして一族から離れて会社を立ち上げたと聞いて、1人では大変だろうと今でも叔母さんの身の回りのフォローをしてくれているの。島津さんにとって家族を失った後残ったのは叔母さんだけだったから、今では娘のように感じてるって言ってた。そういう意味でもここで唯一家族という枠を超えて信頼できる人でもあるの」
実際島津の娘は玲香と仲が良くその日も学校の帰りに一緒に寄り道をして帰っている途中に、2人して交通事故に遭った。
玲香は全治2ヶ月の大怪我を負ったが、島津の娘は即死だった。
妻には若い頃に先立たれ1人娘だけが家族だった島津に取って受け入れがたい現実だった。
玲香は自分が寄り道しようと言わなければこんなことにならなかったと病室で泣いていたらしいが、玲香の父である重蔵はその裏に一族の誰かが関わっていると捜査し、1人の男に行き着いた。
加賀見の正当な後継者を1人でも減らそうとした結果だったと島津は重蔵に頭を下げられたらしいが、そんなことをされても娘は帰って来ないと島津は加賀見を去った。
しかしその数年後、玲香が自分の可能性を確かめたいと単身アメリカに渡ったことを聞いて、加賀見から離れたのならもう一度力になりたいと追いかけて来た人だ。
娘の夢だったアパレル関係に玲香が身を置いたと聞いたから尚更だったのかもしれない。
「本当に大丈夫なのか?彼は加賀見を恨んでるんだろう」
亮介が何を気にしているのかはわかるでも大丈夫。
「叔母さんが加賀見に戻ったことなら最初大反対したけど、最終的には叔母さんの意見を聞き入れたよ。それよりも・・・・何より加賀見と通じないことが私たちにとっては一番重要だから、そういう意味であの人は大丈夫なの」
「・・・・・なるほどね」
少し重たい話になり2人は気分転換に店内を見て回った。
小物でそれぞれに合いそうなものを持って来ては、鏡の前で合わせてみたりした。
杏樹は亮介の今日の衣装の色と同じグレーのハットを亮介に渡して被ってもらった。
亮介も気楽に買い物が出来るとあって、興が乗って来たのかハットを被って顔を斜めに向けながら鏡越しに杏樹を見れば、なぜか店内の他の女性陣から悲鳴が上がる。
2人してグヌっと顔を顰めそそくさと鏡の前から離れたが、亮介は杏樹が寒がりなことを思い出し羽織れる衣装を見つけて、その商品に手を伸ばした。
杏樹の背に服の上から掛けてみた。
丈も膝あたりまで長く可愛らしくボテっとしたシルエットの上着は杏樹によく似合っていた。
「これいいな。現金払ってでも買おうか」
「そう?似合ってる?」
くるりと回った杏樹を離れたところで盗み見していた男性店員がホオっと息を吐く姿を見た亮介はしつこいと呆れた。
玲香の会社の人間でなければ思いっきり睨みつけるものを。
「似合ってるよ」
「へへ、ありがとう亮ちゃん」
肩にかかった衣装を取った上で腕を伸ばす杏樹に、亮介は屈み込んで抱き上げた。
腕を首元に絡めた杏樹の額に自身の額をくっつけて2人で見つめ合った。
杏樹は微笑んでいた。
内心、不躾な視線はNOです!と徹底的に排除すべしと亮介に甘えて見せたようだ。
これで視線が落ち浮くなら安いもんだ、と亮介も参戦すれば一気に老若男女の視線が引き離された。
「他に必要なものはないか?」
視線を外してゆっくりと店内を見て回りたい2人は、間抜けに見るが杏樹を抱き抱えたまま店内を見て回っていた。
日本人しかいない店内は静かになってよかったが、外を行き交う多種族の人たちには、日本人カップルのその行動に何事かと店内をガラス越しに見ていた。
奥ゆかしい日本人がそこまでするからには、撮影かないかと勘繰られたらしい。
杏樹と亮介の容姿も相まって人だかりが出来始めており、2人はそれに気がつくと変に目立ってしまって不本意ですとまた店内の奥に身を置いたのだった。
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次回は来週日曜にUP予定です。
それではまた〜。




