19、誰にだって苦手なものはあるだろう
毎週日曜日投稿作品です。
今回短め作品になっています。
その頃予約したレストランで食事していた杏樹と亮介はイタリアン料理に舌鼓を打っていた。
「うまいな、このパエリア」
大口開けて口に放り込んで亮介が言えば、目の前に座っていた杏樹は頬に手を置いてうっとりした表情でホウと息を吐いた。
「こっちの海鮮パスタも美味しいよ」
トマトソースのパスタは杏樹の口にあったらしく幸せそうだった。
「パエリアも美味しかったんだね」
杏樹の性格もだんだん分かってきた。
こう言って来ると言うことは、こっちの食べ物も欲しいんだな。と気づきスプーンで1口掬うと杏樹の目の前に持って行った。
「ほら」
亮介の行動に待ってましたとばかりに、パクりとスプーンに食らいつく杏樹に眉が下がる。
「美味しいか?」
もぐもぐと咀嚼しながら「うん!」という彼女に「もう1口いるか?」と聞くと、そこは遠慮したのか、いいと返答が返ってきた。
「もうすぐ追加注文来るよね。そっちに期待する!」
とのことだった。
なるほど本命はそっちか。
俺はそんなに興味はないが杏樹はゲテモノもいけるのかあれを食べたがったために注文したが、亮介は手を出す気はなかったので自分のものをまずは仕留めようとパエリアを食べていたが、急に杏樹に呼ばれた。
顔を上げた時に杏樹は自分のパスタを1口分フォークにクルクルと巻きつけた状態で亮介に突き出していた。
この子は食事を相手とすべて共有したがるな・・・・。
恋人同士の設定上、否定するのもおかしいかと黙ってそのパスタを口にするとトマトの爽やかな酸味と共に濃い魚介の風味が鼻を抜けて目を見張った。
「うまいな」
思わず出た言葉に杏樹も機嫌が良い。
「ね、美味しいよね」
「どっちかといえば俺はパスタの方が好みだな。今度来た時はそれを頼もう」
「それも良いけど、ここの食事全てが美味しい可能性もあるから今度は食べたことがないものを注文するのもありだよ。でもその前にコース料理かな」
「そうだな」
今度一果も一緒に来ようと盛り上がって話す杏樹に付き合って相槌を打ち、手前の食事をほとんど食べ終わった頃に、ボーイがもう一品を運んで来た。
「We have brought you an additional order of grilled escargots in oil.」
(追加注文のエスカルゴのオイル焼きをお持ちしました)
テーブルに置かれた商品を見て杏樹の目はキラキラだったが、亮介は出来るだけそれを見ないように努めた。
「Are the items in my order complete?」
(注文の品はお揃いですか?)
ボーイの言葉に「Thank you,everything is in order.」(ありがとう。すべて揃っています)と返事をして杏樹を見れば,今にも涎を垂らしそうなほどに見つめているのにも関わらず手を伸ばそうとしないことに首を傾げた。
「どうした、食べたかったんだろう」
すると杏樹は意外なことを言い始めた。
「初めてで、これどうやって食べるの?」
エスカルゴ。
食用カタツムリだが、メニューにブルゴーニュ種と書いてあった時点で世界的に見てもLサイズに分類される品種で“大型カタツムリ“と知った上で注文した杏樹に本当に食べるのかと聞いた時にどうしても食べたいと言うから注文したが、俺は食べんぞと言ったのは出来るなら見たくないし触りたくなかったからだ。
「日本では食べなかったのか?」
「昔出されたものは食べやすいようにもう身が出てた状態だったから・・・・」
「巻貝とかサザエとか自分で食べたことはないのか?」
「・・・・一果が剥いてくれた」
がーん!!
ちょっと待て。その言い方はまさか・・・・。
「自分で剥くんだよな」
確認すれば案の定否定された。
「・・・・亮ちゃん剥いて」
嘘だろう!絶対嫌だ。
両肘をついて杏樹に顔を近づけながら確認のために言葉にした。
「アン、俺は言ったはずだ。食べないと」
「うんでも剥けないとは聞いてないよ」
・・・・・・。
確かにそうだが、それでも譲歩は絶対に出来ない。
「俺はこいつだけは無理だ」
やつを視界に入れないように亮介が皿を指差せば、杏樹も交戦する。
「巻貝やサザエも同じようなものだって自分で言ったじゃん」
杏樹も負けじと両肘をついて身を乗り出して言って来たが無理なものは無理だ。
「そう言うことじゃない。こいつらは食用に大きく育てた品種だが、小さい頃から見ていたカタツムリを思い出して食う気になれない。それどころかこいつらはナメクジと一緒と考えただけで俺は出来るなら触りたくない」
・・・・・あの三田亮介がここまで嫌い食材があったとは。
それでも杏樹はムッと口を尖らせて言った。
「ナメクジとカタツムリは違います」
「一緒だ。進化の過程で殻が無くなったものと残ったものの違いだ」
ガーン!!杏樹はその言葉を聞いてテンション駄々下がった。
「それなら注文する前に言ってよ」
「まさか剥けと言われるとは思ってないだろう」
俯き額に手を置いた亮介と涙目の杏樹は途方に暮れた。
「どうするのこれ?」
ナメクジと言われて食べる気がなくなった杏樹の言葉に、2人は再度ガックリと項垂れた。
結局エスカルゴは持ち帰りの入れ物に入れてもらい現在パックに入った状態で杏樹のカバンに入っていた。
腕を組んだ状態で見上げ、亮介の顔をまじまじと見ながら愚痴がこぼれる。
「まさか天下の三田亮介にも苦手なものがあったとは・・・」
「どう言う意味だ。生理的に受け付けないものは誰にだってあるだろう」
表情は変わらないが亮介も顔を杏樹に向けて淡々と話す。
「それなのに大丈夫?あれを渡して問題にならない?」
5センチ以上のエスカルゴを全てパックに詰めてもらっている時に亮介は、こういうゲテモノを好む人を1人知っているからその人に渡そうと言っていたが嫌がられないだろうか?
「大丈夫だ、カエル料理とか食べる人で旦那が出張でいない日にはわざわざ食べに行くと聞いたことがあるから逆に喜ばれるだろう」
カエル・・・・。想像して杏樹はブルっと震えた。
「まさかと思うがカエルにも興味があるとか言わないよな」
「む、無理。流石にカエルは無理だよ。虫が嫌いって言ったでしょう」
「それならなんでエスカルゴは食べたがったんだ」
「昔一果と行ったファミレスのエスカルゴは二センチくらいの小さいものだったし、美味しかったんだもん」
「それも一果が剥いたのか?」
「剥いてくれた」
そう言えばあいつ昔から虫とか爬虫類とか大丈夫な人間だったなと思い出し、我が妹ながら怖いものなしかよと呆れた。
「アン、俺にも苦手なものはあるし一果が出来た事が全てカバー出来るとは断言できない以上、今度から俺にして欲しいことがあるなら事前に確認すること。いいな」
「うん、わかった。ごめんね」
「今度から気をつけてくれたら良いから」
ここでも傾向と対策とばかりに淡々と言ってくる亮介に杏樹は逆に救われた。
世の中、自分の失敗を他人になすりつけたり、人の弱みを見つけとここぞとばかりに責める人がいる中で、彼は自分の非も認めた上で妥協案を出してくれた。
杏樹はやっぱりこの人は優しいなと、へへっと笑いながら組んでいた腕に力を込めた。
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次回は来週日曜日UP予定です。




