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一水四見(いっすいしけん)  作者: 虹乃懸橋


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19/23

18、目の上のたん瘤、やらかす


 毎週日曜日投稿作品です。

 

昼休憩になり圭吾が早々に防音の効いた副代表室に一人こもり、鍵を閉めて弟に電話すれば、すぐに繋がった。


『こちら真吾』

「お前いい加減にしろよ!あれほどうちのパソコンにはハッキングするなと言ったはずだぞ!」


 気だるそうに出た弟を無視して言いたいことを言えば、機嫌の悪い声が聞こえてきた。

『昨日もそうだったけどさ、一方的に話すの良くないよ』


「そうさせてるのは誰だ。特に今回はお前が悪い!前にうちの会社のパソコンにハッキングした時に会長にこってり絞られたはずだろう!それなのにまた同じことしてただで済むと思ってるのか!?」


 大学を卒業した優秀な教え子が今、何をしているのか。

 ただその理由だけで会社のパソコンに侵入し現状を知って、彼を重要ポストに置かずつまらん使い方をしやがってと苦情を入れた真吾に一族の誰もが頭を抱えた。


 その時に会長はそんな簡単にハッキングできる真吾も会社の体制もまずいと、慎吾への警告とセキュリティ面を強化させたのは数年前のことだ。

 あの時社内は蜂の巣を突いた勢いで大騒ぎになった。


 身内による犯行だったから真吾に警告だけで済んだが、あれが外部の者の仕業だったらウイルス類をばら撒かれ事業停止に陥っていてもおかしくなかったと今では笑い話で済んでいるが、当時上層部の間では厳重注意だけでは生ぬるいと、警察に通報される一歩手前だったのだ。


 悪用する目的でなかったことで難を逃れたが、今回は亮介が黙ってないかもしれない。

 だが電話向こうの弟は、機嫌悪く反論して来た。


『1つ言わせてもらうなら、今回は会社のではなく三田くん個人所有のパソコンなんだけど』

 弟の言い分に、圭吾は頭の血管が切れそうな勢いで叫んだ。


「守秘義務はあるだろう!人の物を勝手に除くな!」

『だって気になるだろう?あのセキュリティ強化の時に個人のパソコン使用を禁じて頑なにその規定を守っていた三田くんのパソコンが昨日起動したんだよ。何事かと気になるじゃないか』


 だからってお前・・・・。

 脱力する中、弟は好奇心が抑えられなくなったように質問してきた。


『その反応からすると例の写真見たんだろう。どう思った?』

 お前に付き合ってる暇はない!と思いながら、その時のことを思い出し口にした。


「良く出来てると思ったよ」

 最近の加工技術はすごいと口にすれば意外な言葉が返って来た。


『兄貴はあれが加工された写真と思ってるみたいだけど、パソコンに取り込まれた時にはすでにあの状態だったよ。彼が加工したのは撮られた日付を1年前にしたことくらいだ』


 あの表情が加工していない亮介の表情と聞いて頭が真っ白になった。

「何?」


『加賀見さんがどんな魔法を使ったのかは知らないけど、三田くんのあの表情を引き出したのは間違いなく彼女だ。それと2人はかなり距離が近くなってる。今日もうちに来た時には彼、加賀美さんを抱っこして登場してたよ』


「は?」

 はあ!?あの亮介が女の子を抱っこ!?


『でもあの2人が面白いのは恋人同士というより、保護者と小さな子供のように感じたことさ!もう意外すぎて思わず笑いそうになっちゃったよ!』


 笑い事ではない。

 ただ言いたいことはなんとなくわかる。


「あの二人は異性に対してかなり拗れてるから、邪な感情を抱いていないだけに息が合うのはわかる」

 そのため想い合う異性同士と言うより保護者と子供に見えたのだろうと言えば弟も肯定した。


『そうなんだよね。面白いぐらいお互いのピースがピッタリ嵌っている。悟りすぎて50歳並みの三田くんと、家庭環境のせいで精神が育っていないまだ小学生並みの加賀見さんの相性はバッチリ合っている』


 例えが絶妙だな。

 成熟しすぎた亮介と小学並みの彼女が相性がいいというのは理解出来るなと思わず同意しそうになった。


『でもこの先は分からない』

「どういう意味だ?」


 部屋の奥に広がるガラス一面の壁に向かって体の向きを変え、高層ビル最上階からの景色を視界に捉えながら質問すれば弟が持論を唱えた。


『異性同士が一緒にいてずっとそのままっていうのはあり得ないだろう。何かの拍子にどちらかが相手を異性と意識した場合、そのバランスは崩れる』

「・・・・2人の場合そう簡単には崩れないだろう」


 2人の拗れ具合は側から見て、手の施しようがないほど拗れている。

『そうでもないよ。特に三田くん。彼の場合触手が動くベクトルが特殊なだけに今まで動く機会がなったが、妹の策略でその唯一のベクトルに合う女の子が現れた。そうなった場合彼はどうなるだろうね?』


「一果ちゃんの策略?ベクトルに合う子ってそれが杏樹ちゃんのことを指しているのか?」

『さすが三田亮介の妹だよね。緻密な計画を長い年月かけて練って実行に移した。僕も脱帽だよ!』


 一方的に話すあたり、脳内ハイになってやがる。

 真吾が言いたいことの一部理解できなかったが、亮介が変わる要素が彼女には備わっていることだけはわかった。


「亮介が変わる要素があるってことか?」

『もうすでに彼の固い殻は半分亀裂が入ってる状態と思って良い。その上で何か小さなきっかけでその亀裂は全体に回り、強い衝撃が一気に加われば間違いなく彼はその辺の男同様に彼女に固執し始めるはずだ』


「・・・・言い過ぎでは?あの亮介が1人の女に固執するとは思えんが・・・・?」

『意外?いいや。断言できるね。彼らのように心に傷を負っている者たちはベクトルが狭い分、生活しずらいことが多い中で煩わしさが軽減された時にその相手に依存する傾向にある。一果嬢と加賀見さんの関係がまさにそうだ』


「亮介もそれに当てはまると?」

『あの兄妹はよく似ている。妹と加賀見さんが相性がいいなら、その兄と加賀見さんも相性がいい。そこに妙齢の男女が一緒にいて欲望が芽生えないはずがない』


「あり得ない。あの亮介だぞ」

『逆ならあり得なかっただろうけど、相手があの加賀見さんだ。無邪気な彼女が何かの拍子に一歩三田くんに踏み込んだ態度を取った時、三田くんは意表をつかれて自分の性を意識するはずだ。そうなったら一気に箍(たが)が外れる』


 興奮したように話す弟の癖を知っている圭吾は呆れた。

 ・・・・・・わかった。


「お前・・・2人にそうなってもらえたら面白いのにと思ってるんだな」

『あ、バレた?』

「おい!」


『でも希望的観測でここまで行ってるわけじゃないよ。今日2人に感じたことでそこまで思わせる何かがあの2人にはあったんだ』

「あーはいはい。そこはいずれはっきりするとして、だからってお前が亮介の個人のパソコンを覗いていい理由にはならないから。この件どうせ会長の耳に入るだろうから、覚悟しておくんだな」


『そこは庇ってくれないのかよ』

「無理だ。特に今回は亮介も参戦してくるだろうから覚悟しておくんだな」

『え!三田くんも!?』


「当然だろう。私物覗かれてほっとくバカはいないだろうが!」

『え!ちょっと待って!今すぐに勇(ゆう)から回収したらなかったことにならないかな』


「難しいだろう。俺と慎一郎兄さんの手元にあの写真はもうあるし、会長の手にもすでに渡ってるだろうからな」

 あの優秀な篠宮勇(ゆう)なら、俺たちに渡す前には会長の手に渡るように手配しているはずだ。


『・・・・無駄に優秀なのも困りもんだな』

「その言葉お前にそっくりそのまま返しておくよ」

 突き放す言い方に、弟は慌て始めたようだ。


『ちょっと待って!兄貴!』

「知らん。それにお前蘭のことも亮介に話していないな。昨日娘と話いていて驚いたわ。杏樹ちゃんはうちの蘭と面識があったんだな」


『え?あ、うん。それこそ一果嬢が伏線回収する意味であの2人はすでに面識があるよ。ただ一々(いちいち)言うことでもないかと思って話してないだけでわざわざ隠してたわけじゃないぞ』


「亮介にしたら死活問題だろうが。一果嬢とうちの蘭から総攻撃かけられると思ってるはずだからな」

『そう思うのなら兄貴から教えてやればいいだろう。俺は聞かれない限り言うことはないよ』


「聞けば全て話すのか?例えば一果ちゃんとの取引とか・・・・」

『うーん・・・全ては言えないな』

 面白いこと第一の真吾ならまあ、そうだろうな。


「反省なしだな。そんなこと続けてたらいつか誰かに背中刺されるぞ」

 言うだけではこいつは改心しないな。と諦め圭吾は電話を切った。


 この後、会長と亮介にこってり絞られろ。と食堂に移動した圭吾だった。



 電話の向こう真吾は兄の言葉に、目元を引き攣らせながら「刺されるのは・・・・勘弁だな」とぼそりと呟いた。





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 次回は来週日曜日UP予定です。




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