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一水四見(いっすいしけん)  作者: 虹乃懸橋


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18/23

17、2人の在り方の方向性



毎週日曜日投稿作品です。





 しかし、と資料に映る2人を見て、圭吾は自信が無くなってきた。 

 この2人は本当に淡い感情は一際持ち合わせていないのだろうか?


 こんな表情の写真が存在していながらこれで邪な感情がないというなら、2人は本当に俳優並みに演じきれているぞ。

 いろんな意味で恐ろしい!と内心ブルブルと震えた圭吾であった。

 

 そんな時に秘書が何かに気が付き、背広内ポケットからスマホ画面を見たは秘書は上司2人に一礼した。

 

「申し訳ございません。会長から新しい指示を頂きましたので、この辺で失礼致します」

 綺麗に一礼する秘書に代表は笑顔を向けた。

 

「そうかご苦労だった。しかし惜しいな。君にはずっと私の下にいて欲しかったんだがな」

「ありがとうございます。しかし私の代わりに父がすでに力を振るっているでしょうし、私はもう少し会長のもとで揉まれるべきだと言われておりますので、もう少し頑張る所存です」

 

「いや、何もお前の父親が悪いわけではないが、あの硬い頭はどうもな・・・・。柔軟性のある君の方が私は良いと言う話だ」

「この橘を率いる頂点にいらっしゃった以上、あのくらいの石頭を手なづけないでどうする。会長の言です。頑張って下さい。それでは失礼致します」

 

 そそくさと退出して行った秘書にポカンとした表情で見送った代表だったが会長の言葉を思い出し、怒(いか)った。

 

「腹いせか!あのクソ親父!」

「仕方ないですね。まだ健康で実権も持ったままの会長を早々に役員会議で押し除けてここの支社長の座に着いたんですから、受けて立つしかないでしょう」

 

「お前はどっちの味方だ!」

「どっちでもありませんよ。私はあくまで中立の立場ですよ」

 

 長居は無用の長物。

 圭吾は席を立ち出入り口に向かう。

 

「副代表なら私を支えてくれよ」

 代表にそう言われ、出入り口の取手を持ちながら振り返った。

 

「好きでこのポジションにいるとでも?分家の立場で言えば十分すぎる地位で正直もう少し下でも良いんですよ。それを強引にこの地位においたのは従兄さんでしょう。割り振られた仕事は従事しますが、それ以上のことには巻き込まないでください」

 

 言いたいことを行って部屋を出た圭吾は、休憩時間になったら真吾に電話で抗議してやる!と息巻いた。

 

 

 一方その頃

 

 5月に陽気に紛(まぎ)れて本日は風が時折吹き荒れ、外の街路樹の枝が大きく揺れていた。

 

 亮介は大学から車を走らせ市街地に来ていた。

 パーキングに駐車した後、予約したお店を通り過ぎて杏樹と2人で腕を組んで散歩していた。

 

「亮ちゃんどこ行くの?昼食は?」

 おかなが空いたとお腹に手をやる杏樹は不機嫌そうに口を尖らせたが、亮介はそんな杏樹の唇とムニっと摘んだ。

 

「言っただろう、予約までもう少し時間があるから行きたいところがあるって」

「それってどこなのさ。もう結構歩いたよ〜」

 

 腕を組んで2人歩けば、いつもとは違う視線がいくつも向かってくるが不快感は全くなく、穏やかな気持ちで街中を歩けるとは思っていなかった亮介は驚いていた。

 

「もう少しで着くよ。そこの路地入ってすぐに日本食品を扱う珍しいお店があるらしいんだ」

 日本食品と聞いて杏樹もぴくりと反応した。

 

「最近スーパーとかでも日本食品置いてあるけどそれ以上に品揃えがあるってこと?」

「そうらしい。杏樹興味あるんじゃないか」

「うん、行ってみたい!」

 

「時間はそんなにあるわけじゃないから、店内を全て見て回れなかったらまた来よう」

「やった!楽しみ」

 

 はしゃぐ杏樹を通りを歩く男が頬を染めて見て来るが、その度に亮介がひと睨みして撃退すれば視線を逸らして通り過ぎ逃げて行くループが起きていたが、相手が女でないだけ労力は大したことなかった亮介は穏やかでいられた。

 

 いつもなら短い距離でさえ移動するのも大変なほど、行く道の要所要所に女が待ち構えてんのかと思うほど何人もの女性に絡まれるのだ。

 それを考えればなんとスムーズに先に進めることか。

 

 機嫌が良すぎて思わず杏樹の耳元に口を寄せて「たくさん欲しいものは買っていいぞ」と行ってしまうほどに浮かれていた。

 言われた言葉に杏樹は目をキラキラさせて「いいの?」と確認してくるが頷くと杏樹は嬉しさを体で表現しギュッと腕に「やったー」と抱きついた。

 

 そんな2人を遠巻きに見ていた人たちは

「ねえ。今何かの撮影してるのかな?」

「あの2人すごく絵になるね?」

「アジア人だよね、すごく目立てない?」

 など英語で噂されていたが2人には届いていなかった。

 

 路地を入ってすぐの場所に変わった看板を掲げたお店があり、杏樹は先ほどとは打って変わり呆然とその看板を見上げた。

 

「亮ちゃん、ここで間違いないの?」

「ここで・・・・あってる、はずだ」

 

 昔圭吾に教えてもらった場所だから間違いないはずだが・・・・亮介も自信がなくなってきた。

 

 お店の看板には【あそこ】とひらがなで書かれてあり、ネーミングセンスよ・・・・。

 と杏樹は思ったが外から窓の中を覗いてその考えを変えた。

 

「亮ちゃんここで間違いなさそうだよ。入ってみようよ」

「そうか?アンがいいなら入ってみよう」

「行こう行こう」

 

 杏樹はウキウキしながら亮介の腕を引っ張ってお店に入れば、目をキラキラさせた。

 

「駄菓子屋さんだ!」

 そう言って店内を見回す杏樹の後ろで亮介は自分の古い記憶を少し呪った。

 

 それこそまだ圭吾の家でホームステイしていた頃の記憶で、ここが圭吾の娘が喜んで通っていたと聞いて杏樹を連れて来たが、よくよく考えてみたらその当時の圭吾の娘の蘭は小学生低学年ほどだった。

 

 そりゃ喜んで蘭も通うわ・・・・。

 そんなところに杏樹を連れてきてどうするんだと思ったが、彼女が思いのほか大喜びなのでまあ、よしとするかと納得した。

 

「私小さい頃にこう言うところでお菓子を買って食べてみたかったけど出来なかったから本当に嬉しい!」

 

 杏樹の言葉に、霞姫の環境を思えば確かにそうかもしれないと思うと眉が下がった。

 

「欲しいものがあったら買っていいぞ」

「本当!?ありがとう亮ちゃん!」

 

 店内にある小さなカゴを持って色々と物色している杏樹を横目に亮介はレジに近づいた。 

「店主」

 声をかけると奥から一人の老紳士が出てきた。


 白髪の腰の曲がったおじいさんだったが愛想よく笑いかけてきた。 

「おや、珍しい日本の方ですかな」


「ええ、知り合いに昔聞いていて寄らせてもらいました」

「そうでしたか。ありがたい話ですなぁ」

 

「実はその知り合いにここに話を通せば日本のどんな食材も取り寄せてもらえると聞いたのですが、今でも可能ですか?」

「はい、時間はかかる時もありますが、大概のものは取引させてもらいますよ」

 

「値段も良心的と聞いたのでお願いしたいのですが、日本のお米をお願いしたいのです。地方の銘柄米なんですが可能ですか?」

「地元のものですかな?」

 

「はい、食べ慣れたものなのでぜひ取り寄せていただきたい」

「では、この紙に産地と銘柄米の品種をお書きください」

 

「先払いでこれだけ置いていきます。後、申し訳ないのですが下記住所まで配達していただけますか?着払いで構いませんので」

 

 渡された紙に産地類を書き込みながら話を進める。

「よろしいですよ。しかし頂いたお金はもらい過ぎのように感じますからこの中から配達料はいただきますね」

 

「そうですか?では足りなかった場合は着払いということで調整してください」

「わかりました」

 

 よし、これでいいだろう。と老人に紙を渡し、頷かれたのでもう1度よろしくと言ってその場を離れた。

 

「アン、買うものは決めたか?」

 お店奥の棚をジッと見ている杏樹に話しかけると声で気がついたように振り返った。

「あ、亮ちゃん」

 

「何をそんなに真剣に見てるんだ?」

 あの棚には駄菓子とは違い、子供が遊ぶ道具が壁一面にぶら下がっていた。

 

 懐かしい縄跳びやボードゲームなども置いてあり会長とかが見たらタイムスリップしたみたいで喜びそうなものが色褪せた箱ごとずらりと並んでいた。

 

「へえ、こんなものも置いてあるのか」

「叔母さんとか来たら喜びそうな場所だねよ」

「それで見入ってたのか?」

 

「ううん、実はジェシカって日本の漫画の影響でこういうものにも興味を持ってるんだよね。今回お世話になったし何か買って行ったらいいかと思ったんだけど。どうかな?」

 

 ジェシカのお母さんは挨拶くらいでいいとは言われたが、確かに今後も杏樹のことで面倒をかけるし、そんな高額なものでもないから、1つ買って行くのもありだな。

 

「これなんてどうだ?」

 小学生の頃によく使った縄跳びを指させば杏樹にめちゃくちゃ慄(おのの)かれた。

 

「亮ちゃん!今の一果にこれ渡す!?」

 どういう意味だ?

「渡すわけないだろう。そもそも大人のあいつに渡したところで受け取らないぞ」

 

「そういうことじゃなくて、ジェシカは一果とスリーサイズがほぼ一緒なの」

「問題ないだろう。家でする分には」

 

 杏樹はそうじゃない!とズイッと顔を近づけてきた。

「あの子の日本のこだわりは変態的に重いの。日本のものを渡した日には嬉しくて学校にまで持っていって使用します」

 

 その言葉で即座に、それはまずいと判断した。

 なるほどと顔を手で覆って項垂れた。

 

 一果と同じ体型で飛び跳ねればSamは喜ぶだろうが、学校内でとなると逆にSamが気が気でなくだろう。

 

「それなら・・・・これがいいんじゃないか?」

 これならどこで使用しても誰の迷惑にはならないし、縄跳び同様持ち歩く分には邪魔にはなるまい。

 若干縄跳びの紐に比べれば重さはあるが最近は小さいものもあるを聞くし・・・・と見回すが一種類しか置かれていなかった。

 

「なんだ協会認定のものしかないのか」

「そんなものがあるの?」

 

「競技用のもので、協会が出した基準を満たしたものだ。最近はおもちゃの小型のものもあると聞いたことがあったが、ここのは正規品しか置いてないのか」

 

「でもジェシカは日本のものならどんなものでも喜ぶと思うなぁ」

「そうか、じゃあこれを1つ買って行こう。アンは欲しいものは全部見たか?」

 

「うん!いっぱいカゴに入れたけど1つ1つが小さいからこれだけで済んだ!」

 20㌢ほどの小さなカゴに色とりどりの駄菓子がいっぱい入っていたが溢れるほどではなく、杏樹にしては控えめに見えて笑った。

 

「これだけで足りるのか?」

「うん!いろんなのを少しずつ食べれるし、これだけあったら十分だよ」

 

「そうか。ならそろそろレジで精算してご飯食べに行こうか」

「うんそうしよう!」

 杏樹が持っているカゴを持ち、精算してくるとレジに向かえば先に外に出ようとする杏樹を止め、まだお店の中に見落としたものがないか見るように言って早々に精算を済ませた。

 

 ついでにサプライズで杏樹が買った駄菓子全ての種類を箱買いと言われる状態で、今度取り寄せで頼んだお米と一緒にそれらも配達してもらうように頼めば店主に笑顔で了承をもらった。

 渡した料金が足りなければ、またここに来て払うのありだな。

 

 カゴの中に入っていた駄菓子を黒いビニール袋に入れてもらい杏樹に渡せば、宝石を渡された人のように嬉しそうに袋の中を見ていた。

 

「ありがとね、亮ちゃん」

「どういたしまして。喜んでもらえてよかったよ」

 嬉しそうに鞄に入れる杏樹の頭を撫でるとはにかんだ笑顔が帰ってきた。

 

 そのまま店先を出て昼食を食べるために予約したお店に向かった。

「また行こうな」

 杏樹の鞄を持ちながら言えば、腕を絡めながら見上げてきた。

 

「また連れて行ってくれるの?」

「アンが望むならな」

「うん、また行きたい!」

 彼女は嬉しい時は嬉しいと、悲しい時は悲しいと、嫌な感情を持ったら怒ったりと素直に感情を表現する。

 

 その当たり前の感情を素直に表に出す人間がどれだけいるのか。

 亮介は素直に表現する杏樹と接すると心が暖かくなる。

 

 裏の顔を隠し取り繕う者が多い中、彼女との時間は自分を偽る必要がなく自然でいられる事がどれだけ聡いか彼女は気づいているだろうか?

 

 旋風が行き交う人の間を通り抜け亮介と杏樹の周りにも風が通り過ぎる。

 ブワッと舞う風を受け杏樹の髪の毛も宙に舞った。その時杏樹の顔にかかった髪の毛を指で払おうと掬(すく)うと、くすぐったそうに目を細める姿に頬が緩む気がした。

 

「予約したお店ってイタリアンのお店だったよね」

「そうだな。ちょっとしたコース料理も出してくれるお店のようだが、今日は買い出しもあるし時間がないから単品料理を注文しよう」

 

「残念。美味しかったら今度はコース料理食べたいねぇ」

「そうだな。その時は一果も一緒に行けたらいいな」 

「一果がピックアップしてたお店だもんね。先に頂いて申し訳ないな」


「黙ってれば分からないよ」

「こうやって隠し事が増えて行くのか」 

「不倫してるわけでないのに何が隠し事だ」


「でも一緒に住んでることをまだ報告してないから罪悪感がこう・・・なんか消化不良っていうかモヤモヤする」 

 ・・・・・・彼女は本当に隠し事が苦手なんだな。

 

「それなら俺たちの今の関係も周りの人たちを騙してるわけだが、それも心苦しいのか?」

 すると意外な言葉が返ってきて逆に亮介の頭が混乱した。

 

「うーん、それがそこに関してはそうでもなくて、逆にいいように利用して申し訳ないとは思うんだけど、損得で考えたら得の部分が多くて亮ちゃんが許してくれるなら寧ろもっと利用させてもらおうかと思うくらいで罪悪感はそこまでないんだよね。今のこの状況になってから物事が良い方に流れてる感じがして特に煩わしさがなくなって逆に生活しやすくなったって感じてるからそっちの方で戸惑うことはあるけど、自分が自分らしく自然でいられることで疲れることが減ったんだよね。心地良いっていうか」

 

 彼女も同じことを感じていた。そう思ったら何故か嬉しいと思う感情が芽生えた。

 

「私の問題が解決したらこの関係も終わりってわかってるけど、正直そのまま続けたい気持ちもあって。もちろん今後のことだから亮ちゃんの気持ちが第一なんだけど、もし望んでくれるならこの先もずっと、住み込みの家政婦兼仮婚約者のままがいいって思ってる」

 

 ふむ・・・・悪くない選択だ。

 

 昨日入浴時に自分も同じことを考えていたし、彼女も同じ気持ちなら問題ないのでは?と真剣に考え込んでしまった。

 

「いいんじゃないか。俺も同じようなことを考えていたし、偽装婚約がそのうち偽装結婚になっても俺たちはうまくやっていけそうだと思うけど、アンはどうだ?」

 

「亮ちゃんも同じように思ってくれるの?じゃあ、この先もずっと一緒にいていいの?」

「アンが望むならな」

 

 駄菓子屋に行くのとは訳が違ったが同じように言えば彼女は一瞬間が開いた後、えへへと安心したように笑った。

 

 ただそうなると現状維持のためには関門がいくつも立ちはだかることを知っているだけに気も遠くなるが、杏樹も望んでいるなら彼女もその関門を通る難問を一緒に立ち向かってもらおう。

 

 そう遠くない未来に1度、例の2人と腹を割って話す必要があるが、それはもう少し先の話だ。

 いずれ対峙することを念頭に入れて、まずは一果攻略だ。と亮介は覚悟を決めた。

 

 



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次回の作品UPは一週間後です。




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