11、アメリカのソウルメイト
今回短めのお話です。
「さっきの話を戻すけどさぁ」
おにぎりとお味噌汁を2人でほとんど平らげた時、教授が思い出したように口を開いた。
「今日のお昼にその婚約者が君を迎えに来て二人で買い出しに出る。で合ってる?」
3個目のおにぎりを食べ終わった杏樹は笑って応えた。
「はい!その時にここに寄ってから迎えに来てくれるらしいので」
?要約すれば確かにそうだが、なんで急にそんな話を蒸し返したのだ?
おかしいと感じた時、研究室の扉が勢いよく開き、そこに見慣れた先輩の姿と、その横に怒りのオーラを放った般若がいた。
それを見た杏樹は、サーッと血の気が引いた。
部屋に入らず呆然と立ち尽くした先輩は、ここのゼミでは一番年配の大学院生で大学時代の三田亮介を知る数少ないゼミ生のサミュエル・スミス(愛称サム)だ。
金髪碧眼の彼はジェシカの恋人だった。
そのサムの横にいる般若の形相になっているのは、交際後恒例になっていた同伴者の恋人だ。
黄金色の緩くうねる長い髪を下ろし、紫色の瞳は怒りで濃く見えているのはジェシカだった。
「ジェシカ・・・・」
まずい。異性関係では母親か!と言わんばかりに口うるさ、忠告してくるジェシカにいつもは冷静に対処できるのだが、教授の言葉で彼女は今にも爆発寸前になっている。
フェロモン美女が怒るとマジで怖い!
置かれた状況を説明したいが、サム先輩がいて迂闊に説明出来ないし!どうしようと困惑している間にサムを押し除けてズンズンと進んで杏樹の前まで来たジェシカは直立不動のまま口を開いた。
「キキマチガイよネ。イマ、コンヤクシャってイッタ?」
日本の漫画から日本に興味が湧いて日本語もこの2年でそこそこできるようになったジェシカは、ここでも日本語で聞いてきた。
アワアワと慌てていると奥に座っていた教授がさっきの意趣返しなのか肯定した。
「間違ってないよ。婚約者って言った」
この悪魔教授!火に油注いでどうするのよ!!
教授はこの二人が部屋に入ってきたことも気づいていたのか、ニヤリと笑った。
「ここで彼女を抑えられなければ、一果嬢にも敵わないよ」
わかっちゃいますが、簡単に言わないでくださいよ!!
「アンジュ!」
ヒエ!!
「アンタッテコハ!」
プンスコ怒っているジェシカにまず落ちつてくれと手を伸ばしたが、苦言は続いた。
「ドコのダレよ。ウチのコ、タブラカシタのは!」
その言葉に教授は呆れながら「もうお母さんじゃん」と突っ込んだ。
「NO!オカンよ!」
一緒やん。と思った杏樹と、結局母でいいんだと半眼になった教授を前に、ジェシカはヒートアップする。
「アンジュ!ソコヘナオレ!」
急に時代劇風な言葉に杏樹と教授は驚いたが、さては今ハマってる漫画が江戸時代近辺のものなのかとわかると顔を突き合わせた。
「あれ、付き合うべきです?」
「今の時代あんな話し方すると浮くんだけどね。でも彼女ハマるとなかなか抜けないし言っても聞きかないよね」
確かに。
「大奥とかにハマってんのかな?」
日本史大好きなジェシカならあり得ると思っていたらズイッとものすごい怖い顔を覗かれた。
怖いし近い!
手で顔の頬を押して遠ざけようとしたがその手首を掴まれた。
それがちょうど左手だったので、ジェスチャーで指輪を指差した。
「お相手はこの人」
そこで、虚をつかれ怪訝な表情になったジェシカに、杏樹の指が自身の後ろの人物を刺したのを見て察した。
振り返ればサムがぶつぶつと「コン・・・ヤクシャ?コンニャク?」と日本語アフタミーしている姿を見て、ジェシカは恋人に声をかけた。
「Sam,get out.」
指で外に出ていろと言われたサムはなんで!?と驚いたが、恋人に再度「Get out.」と強めに言われ、肩を落としてスゴスゴと出て行った。
可哀想に。彼がいると話ができなかったのは確かなのだが、言い方よ。
出る時サム先輩の耳と尻尾が駄々下り映像と重なった。
「ソレで、ナニがアッタの?」
インターン先に面接に行くことは昨日説明しておいたので、その後に起きたことを説明したら、彼女から思わぬ反応が返って来た。
目をキラキラさせて、喜んでいるように見えるのは気のせいか?
「コンヤクシャ、リョウスケでマチガイない?イチカのbrother(兄)!」
「ソウデス」
なぜか杏樹もカタコトになりながら答えれば「Awesome I did it!」とガッツポーズまでしながら言った。
は?今、すごい、やったーって言った?
「Jessica,your attitude is quite different from before,welcome it if it was him?」
(ジェシカ、さっきの態度と随分違うけど、相手が彼なら歓迎なの?)
日本語では正しく伝わっていない可能性もある。
そう思って英語で聞いたが、笑顔で親指を突き付けられ「of course!」もちろん!と返された。
どういうこと?
戸惑う杏樹の前で足を組んだ教授が、残りの味噌汁を口にしながら補足した。
「言ったでしょう。一果嬢がカモフラージュの相手として君と三田くん二人に焦点を当てたのは、将来君たちがそうなっても問題ないと判断したから色んな予防線を張っていた。そのうちの一つがジェシカ嬢だ。彼女はどこぞの虫に横から掻っ攫われたのかと焦ったが、本来想定していた彼が相手と聞いて、ほらこの通り」
紙コップを持っていない方の手の平を上にしてジェシカを刺せば、なぜか小踊り始めていた。
アメリカンサイズの胸元がボヨンボヨンと揺れていた。ずるい。
しかしこの浮かれようはどういうことだ?
「なぜそこまで喜べる?」
「ワタシ、イチカのbrotherアッタコトある。イチカとショッピングチュウにね。アンジュとカレ、オニアイね」
2人でショッピングをしたと聞いて杏樹は驚いた。
「え、私だけ仲間はずれ!」
二人で出かけたなんて聞いてない!と抗議すると、ジェシカは人差し指をチッチッチッチッと言いながら横に振った。
「NO!ソノヒ、アンジュはレイカとデカケタね。ソノアイダにワタシとイチカ、コレ、カイにイッタね」
そう言って指輪を指した。
1年前自分の誕生日少し前の週末に、一果も日本から駆けつけて来てくれた日があった。
午後から誕生日パーティーをしようと二手に分かれて買い出しをしたのを覚えている。
叔母の玲香と買い物に出掛けた時、2人はすでにこれを買うつもりだったのかと肩を落とした。
「これがペアリングだって知ってたなら教えてよね」
「オシエタラ・・・・アンジュ、ツケナイってイチカ、イッタ」
杏樹の性格をよく知っている一果は何枚も上手だった。
次は来週日曜日にUP予定です。
よろしくお願いします。




