今、『我の巫女』って認めてくれましたよね?
「何の用だ」
スルグ様と一緒に、レイヌ様と対面して。開口一番、レイヌ様は面倒そうにそう言った。
いかにも煩わしそうな顔をしているレイヌ様だけど、本気で嫌がってはいないというか、スルグ様とは思ったよりも険悪な雰囲気ではないみたいだ。殺気立っているわけではなく、心底鬱陶しそうな感じというか……結局仲が悪そうなのは変わんないんだけど。
とりあえず、早々に争いが始まらなくて良かった。
「用がなければ来てはいけないのかな?」
スルグ様が、穏やかに微笑みながら問いかける。すごい、軽口だ。レイヌ様に軽口を言った……!
「当たり前だ。失せろ」
「手厳しいね」
しかし、返ってきたのはレイヌ様のそっけない拒絶。でもそれすらも、スルグ様は笑顔で受け流す。なんというか、慣れた掛け合いのような安定感がある。腐っても、間違いなく旧知の仲、ということなんだろうか。
「用向きなら、あるにはあったんだけどね」
「どうせ我の人間との付き合い方に文句を言うつもりだろう。貴様はいつもそうだ」
いつも。つまりは、スルグ様は度々レイヌ様を訪ねてきてはそんなお説教みたいな話をするような関係性ってこと……!?
そう聞くと、レイヌ様の鬱陶しそうな態度も含めて、親子みたいに見えてくる。言ったら絶対怒りそうだけど。
「何を言われても我の方針は変わらぬ。むしろ貴様のやり方の方が問題だらけだ。人間どもに何も考えず与え続けるばかりで見返りも求めないなど……」
「何も考えず、という部分は訂正させてくれ。私は人々が自分の手で歩いていける力を養えるよう、適切に加護を与えているつもりだ」
「っ……! それではいずれ人間は貴様を不要と断じるだろう! また裏切られ搾り尽くされる……! 貴様は人間の奴隷にでもなりたいのか!?」
「私はそれでも構わない。それが人の選択ならば、受け入れるだけさ」
「貴様という奴は……!」
安心していたのも束の間、あっという間に口喧嘩になってしまった。だけどその内容は、断片的ではあるもののお二人の考えや立場を否応なく想像させるもので……また失礼だけど、レイヌ様も結構ちゃんと考えているんだ、と思ってしまった。
そしてレイヌ様の言葉は、スルグ様が人間に裏切られることを案じているようにも聞こえた。あたしも、スルグ様の考えは少し危ういと思う。結果的にレイヌ様の恐れが現実になっても受け入れるだけっていうのは、ちょっと普通じゃない。共感って観点なら、レイヌ様の言い分の方が分かる気がする。なんというか、両極端な二人だ。
「……レイヌ。今日はもうここまでにしようか」
「なんだと?」
言い争いにヒートアップしていたレイヌ様が、スルグ様の言葉に虚を突かれたような表情を浮かべる。
「何度話しても平行線なのは目に見えているし、なにより……どうやらキミに言葉を届けるのは、もう私の役目ではなくなっているようだから」
そう言って、スルグ様は後ろで控えていたあたしを見た。……え、いやあたし? ここで?
「彼女、ハルノの話が聞きたいな、レイヌ」
「え? ……はい?」
この方は急に何を言っているんだろうか。あ、レイヌ様も同じこと思ってる。絶対困惑してる……んだけど、だんだんと機嫌が悪そうな表情に変わっていく。
「そもそも、なぜおまえがスルグと共にいる」
レイヌ様の声が、一段と冷たくなった。その視線はあたしに向けられている。
「あーえっと、あたしがレイヌ様の巫女ってことになってるのが気になったみたいで……」
まぁ、スルグ様はレイヌ様の人柄をよく知っていたみたいだから、巫女ができたなんて知ったらそりゃ気になるだろう。それはレイヌ様にも分かるはずだし、そもそも村での出来事はお見通しなんだから納得してくれて良いはずなのに、レイヌ様はどんどんと苛立ちが募っているように見える。
「それで、レイヌ。キミが彼女をどう思っているのか詳しく聞かせてもらおうと……」
「ならぬ。貴様に話すことは何もない。それと、それ以上我の巫女と関わるな」
「……ん?」
今、レイヌ様あたしのこと巫女だって認めた?
「あ、えっと、レイヌ様……今、『我の巫女』って……」
あたしが思わず声に出すと、レイヌ様の顔が一瞬だけ硬直した。そして、すぐに不機嫌そうな表情に戻る。
「っ! 貴様に話すことは何もない!」
びっくりして固まっているうちに、レイヌ様は手を振りかざす。彼女の言葉の真意を聞く前に、あたしとスルグ様は次の瞬間には神殿の上層を追い出されてしまったのだった。




