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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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スルグ様、レイヌ様のこと分かりすぎじゃないですか?

「春乃さん、何かありました?」


 村長の家の一室……つまりはあたしが居着いているミナちゃんの部屋で天井を見上げながら考え事をしていると、心配してくれたミナちゃんがそんな声をかけてきてくれた。


「うーん、レイヌ様のことでちょっとね」


 何を考えていたのかと言えば、レイヌ様がどうして人間に加護を与えているのかってことなんだけど……いけないいけない。よく考えれば、ミナちゃんの前で悩ましい顔をしたら心配されてしまうことくらい分かったはずだ。ここで悩むようなことじゃなかった。


「レイヌ様に何か……」

「えっと……あー」


 見破られてしまったからには相談しても良いかな……と思ったんだけど、レイヌ様は自分の領域はすべて視ていると言っていた。つまりはここで相談すると地獄耳のレイヌ様に聞かれるかもしれないわけで、そうなったら多分へそを曲げるだろう。やっぱり誤魔化すことに決めて言葉を探していると、外から村中に響くような大声が聞こえてきた。


「スルグ様だ! スルグ様がいらっしゃった!」

「本当か!?」


 村中が一気に沸き立つような雰囲気が、部屋の中にいるというのに伝播してくるかのような感覚。

 ……っていうか今、スルグ様って言った!?



 噂をすれば、というか。

 既に村の広場には人だかりができていて、その中心には太陽のような笑みを浮かべる美少年、レイヌ様と双璧をなす光の男神スルグ様がこれまた原作そのままの姿で佇んでいた。


「スルグ様……」


 あたしの隣でミナちゃんが小さく呟く。そういえば、ミナちゃんもレイヌ様よりはスルグ様の方が信頼が置けるとかってぶっちゃけていたっけ。

 まぁ実際、今目の前の村人たちの反応を見ているだけでも、彼がどれだけ慕われているかが分かる。レイヌ様とはえらい違いだ。


「皆、変わりはないか? ここはレイヌの領域故、私にできることは限られているが、何か困ったことがあれば力になる」

「いえ! レイヌ様の加護のおかげで、健やかに過ごせております!」

「それはなによりだ。レイヌには私から礼を言っておくよ」


 スルグ様は村人一人一人に声をかけ、その名前を呼び、近況を尋ねている。その様子は神様、という感じではなく、民に愛される理想的な王子様のような振る舞いだ。何回も思ってしまうけど、そりゃあレイヌ様じゃ人気で勝てないね……いやそれにしても、見れば見るほど原作のスルグ様そのまんまだ。ゲームでは終始霊体の導き役だったけど、人柄も一緒。レイヌ様は原作とは大分別人だったから、改めて『コントラスト』の世界を感じられて感動する。


「む……そこにいるのは、ミナ君か?」


 スルグ様の視線がこちらに向いて、ミナちゃんの姿を認めると、スルグ様は心底驚いたような顔をしてこちらに向かってくる。


「ご無沙汰しております、スルグ様」

「まさか……もう一度キミに会えるとは思っていなかった。だが、なぜ……儀式の日はもう過ぎているはずだが……」


 どうやらスルグ様は当然ミナちゃんのこともその事情も知っていたらしくて、ミナちゃんが生きていたことに嬉しそうにしながらも疑問を口にする。


「全部……全部、春乃さんのおかげなんです」

「ハルノ?」


 スルグ様の疑問に答えるように、ミナちゃんは例のキラキラした目で隣にいるあたしの方を見る。そして、周囲にいた村人たちの視線も同様にあたしに集まった。


「キミは……」

「あ、その~」


 急に注目されて、どう名乗ればいいのか迷っていると、ミナちゃんが興奮気味に説明を始めた。


「その方は、私たちの巫女です! 春乃さんはレイヌ様を説得し、生け贄をなくして私の命を救ってくれたんです!」

「なんと……!」


 スルグ様の表情が変わった。驚愕、そして深い興味。彼の金色の瞳が、まっすぐにあたしを見つめる。

 スルグ様の興味が、一気にあたしに向くのが分かった。……というか、ミナちゃんはちょっとあたしのこと買い被りすぎじゃないかなー?



「――というわけで、今からレイヌを訪ねようと思っているんだ。是非、春乃君にも一緒に来てほしい」

「え、あ、はい……」


 話の流れで、なぜかあたしはスルグ様と二人でレイヌ様の神殿へ向かうことになってしまった。もしレイヌ様がスルグ様の顔を見た途端喧嘩が始まったりしたら命の危機なので気は進まなかったんだけど、断る口実も見つからないので着いてきてしまった。


「……キミはここの人間ではないね。かと言って私の領域の者でもない」


 不意に、スルグ様が口を開いた。


「……分かります?」

「私は人の顔を可能な限り覚えるようにしている。少なくとも生まれてから死んでしまうまでの時間くらいは」

「ぜ、全員……ですか?」

「キミのような例外を除けば、そのはずだ」


 えぇ〜、それはとんでもない記憶力だし、すごい律儀さだ。この世界の人口は地球に比べれば微々たるものだとは思うけど、それでもとんでもないことに思える。

 同時に、この方の人気の秘訣も垣間見える。加護をくれる神様が人間一人一人を認知してくれて、親しみ満載で接してくれるのだ。そりゃレイヌ様より……あーいや、レイヌ様だって、村人のことはちゃんと見ているし覚えている。そういう面が人々に伝わっていないし、伝えようとしていないだけで。

 なんというか、もったいないと思う。


「あぁ、どうか安心してほしい。キミの素性を詮索する気はないんだ。ただ……一つだけ聞かせてほしい」


 あたしの悩み顔が素性を暴かれたことによる不安に見えたのだろう、スルグ様はあたしを安心させる言葉を口にした後、その表情が真面目なものに変わる。


「本当に……本当にキミが彼女を説得したのかい? 一体どうやって……」


 説得。つまり、どうやってレイヌ様に生け贄制度をやめさせたのかという話だろう。スルグ様も生け贄について知っていたみたいだし、この人なら止めようとする……というか、実際止めようとしたことはあるんだろう。でもレイヌ様は聞き入れてくれなくて、それなのにぽっと出のあたしがあっさり説得に成功して……たしかに、スルグ様からすればあたしが気になるのも当然だ。

 実際のところ真実は、期待外れも良いところなんだけど。


「あはは、実は説得っていうのもちょっと違くて……」


 ここで誤魔化してもしょうがないので、あたしはレイヌ様に突きつけられた勝負について話した。人間が感謝を忘れて裏切る様をあたしに見せつけたいからそれまで方針を変えるなんていう、レイヌ様の思惑を。


「なるほど……」


 スルグ様は深く頷いた。その表情は複雑で、納得と困惑が混じっているように見える。


「村のみんなを騙してるみたいで、ちょっと気が引けるんですけど……あ、みんなに言ったりしませんよね!?」

「しないとも。それに、事実としてキミはミナ君の命を救ったんだ。間違いなく、キミは称賛されるべきだろう。しかし……」

「しかし?」

「疑うつもりはないのだが……それ以降も、キミは巫女としてレイヌと何度も関わっている、というのは……」

「あ、はい。と言っても、あたしが勝手に押しかけてるだけで……レイヌ様優しいから、つい連日通っちゃうんですよね」

「――」


 スルグ様は目を見開いて、あたしの顔を見つめる。驚愕、とかそんな感情だろうか。まるで信じられないものを見たような表情だ。


「あ、あの?」

「いや……なんでもないんだ」


 スルグ様はそう言って視線を逸らしたけど、その表情には明らかに動揺の色が浮かんでいた。ゲームでも、こんな表情差分はなかったんじゃないかってくらいの動揺ぶりだけど、今の話のどの辺りにそんな衝撃を受けたんだろうか。


 と、そんなやり取りをしているうちに、あたしとスルグ様はちょうど神殿の階段を登り切った。


「……ここまで来たのは良いですけど、レイヌ様、素直にスルグ様のこと招いてくれますかね?」

「それはまぁ、望み薄だね」

「やっぱり」


 いつもなら、あたしがここに来て呼びかけると、レイヌ様が招いてくれて彼女がいる神殿上層の空間に入れる。スルグ様の場合でもそんなスムーズに行くの? って思ってたけど、案の定ダメらしい。


「それじゃあどうやって……」

「なに、招かれずともこちらから出向くだけさ」


 そう言って、スルグ様は手を振りかざす。すると、レイヌ様とは真逆の輝ける力がその手から広がっていき、視界を包む。次の瞬間には、目の前にレイヌ様が鎮座する上層の空間にいたのだった。


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