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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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新生活です、レイヌ様!

「春乃! 早く起きないと遅刻するよ!」


 ひどく懐かしい、いつも通りの声。一体何年ぶりに聞くのか分からないけど、間違えるはずもない。お母さんの声だ。


 あたしが寝坊した日には、こうしてお母さんが部屋まで起こしに来てくれるんだ。


 レイヌ様によると、地球では時間の進みが違うらしいから、お母さんはあたしが何年もよその世界にいただなんて想像もしていないだろうし、一晩で行方不明になった女子高生はいなかったのである。


 それは良かったし、幸いだったんだけど、ちょっとだけマズいこともある。


 バタン、とドアが開かれる。


「春乃! いつまで寝て…………誰……?」


 部屋に入ってくるや否や、固まるお母さん。まぁ、無理もない。お母さんの目には、一年ほど成長した姿で人間を辞めさせられた娘と、娘を腕に抱く不審な絶世の美女が映っているのだから。


 一度は諦めたお母さんとの再会を、抱きついて噛みしめたい気持ちもあったけど、それ以上に気まずさが勝った。この状況を説明、もしくは誤魔化そうと頭が回転し始める。


「あ、えっとえっと……このひとはその、あたしのご主……旦……」


 や、やばい……! 上手く説明するどころか墓穴を掘るような言葉しか出てこない……! 落ち着くんだあたし! 今するべきなのはレイヌ様を紹介することではなく、あたしが美女を部屋に連れ込んでいる状況を説明する言葉なんだ……! なんて、言葉に詰まっているのが良くなかった。


 不敵な笑みを浮かべて、レイヌ様があたしの頬を撫でる。


「我はレイヌ。おまえの娘の永遠の伴侶だ。覚えておけ」

「ちょ……!」


 や、やっちゃったーーー! 親の前なのに!


「いや……え……? は……?」


 ぽかーんとしているお母さんを前に、あたしは頭が痛くなるのだった。



 とりあえず、あたしは元通り久々の高校生活を送ることにした。レイヌ様はなんとか説得してお留守番である。


「……春乃、なにしてんだよ?」


 懐かしい日常を噛みしめながら過ごしていると、声をかけられる。見れば、懐かしい友達の顔がそこにあった。ちょっと涙が出そうになるが、向こうにとっては昨日もあったばかり。おかしな対応をして変な空気にするわけにはいかない。


「うーん……さっきの授業の復習?」

「春乃お前……いつからそんな真面目に……? 裏切りか? 裏切ったのか?」

「いや、えっと……っていうか、別に不勉強同盟みたいなの結んでないし、裏切りもなにもないよ」


 言いつつ、あたしは罪悪感を覚える。あたしがこうして自主的に勉強だなんてらしくないことをしているのは、こうでもしないとすっかり忘れた知識を取り戻せないとか、一度勉強から離れたせいかちょっと面白く感じるとかもあるけれど、一番の理由は頭の変化だから。


 理由は心当たりしかないんだけど、改めて勉強してみて驚いた。今のあたしはものすごく記憶力が良い。それ以外も良い。前とは頭の出来が違うのだ。適当に考えた五桁の暗算が一瞬でできる自分が怖かった。


 そういうわけで、今勉強が楽しくなってしまっているのは完全にズルが原因なので、申し訳ない気持ちが結構強い。


 ……そして、オーバースペックになってしまったのは勉強だけではない。


「はっ……はっ……春乃ちゃん、なんで、息切れてないの……?」


 体育。今日はなんと、地獄のマラソンだった。そういえば異世界に飛ばされる前日も、マラソンが嫌だ嫌だと思っていたような気がする。あたしはそれくらいこのイベントが嫌いで……いや、好きな人なんていないと思うけど、キツいし疲れるしかなり嫌だった……はずなのに。


「えーっと、なんでだろうね……昨日よく寝たからですかね……」


 今のあたしは、常に一定の姿勢を保って走り続けてなお、全く疲れていなかった。完全に人間を卒業したおかげだ。勉強共々ズルも良いところなので、ちょっと申し訳ない気はするけれども……正直、楽しくなっている部分もある。


 だってこれ、見たことあるやつだし。ほぼ神のスペックで、無双の学園生活を過ごしたりなんかして? ある日突然頭角を現したりなんかして? はたまた真の力を隠し優越感に浸ったり? それでチヤホヤされるとか?


 考えるだけで、眠っていたオタクの血が騒ぐ。これ、妄想でやったところだ! なんて。


「ほんと、春乃どうしたん? よく見たらキレイになった気もするし」

「あ、それわたしも思った! 春乃ちゃん、なんか見違えたっていうか……」

「いやぁ~、そうかな~、勘違いだよ~」


 実際、友達もそういう反応をしてくれるものだから、あたしは完全に乗せられていた。だからその、バチが当たったんだと思う。


「おい、なんだあれ……」

「外国の、なに……? モデル……? セレブ……?」

「な、なんでそれがうちの学校の前にいるんだ……?」


 人だかりとざわめきが、校門を中心に渦巻いている。あたしは友達との話と妄想に夢中で、人だかりをなんか通りづらいなぁなんてよく考えず横切ろうとした。


 その瞬間、疾風が吹き荒び、身体がさらわれるような感覚に襲われた。そして気づけば、あたしは腕の中にいた。


「れ、レイヌ様!? なんで!? なんで来てるんですか!? っていうかその格好! どうしたんですか!?」


 こんなことするのはもちろん、レイヌ様しかいない。騒ぎになっている理由も、ようやく理解した。レイヌ様もさすがにいつもの神様衣装じゃないのは良いとしても、なぜかサングラスが似合うセレブの格好をしていた。服はいつものように創ったんだろうけど、どこから学習してきたんですかレイヌ様ーーっ!?


「時間があった故、この世界について調べたまでだ。春乃が頑なに共に学校には行けぬと主張した理由も、今では理解できる。が、こうしてこの世界の格好をしてきたのだ。迎えに来るくらいは問題ないだろう?」

「いや、この世界はこの世界でも世界が違うと言いますか、スケールが大きいと言いますか……」


 もうちょっと大人しい格好はできなかったのかと思いつつ、みんなの前でレイヌ様に抱きかかえられているという状況にドキドキしていると、レイヌ様は不意に表情を真面目なものに変えた。


「……仕方がないだろう? こういうものは早いほど良い。一刻も早くこうして春乃が我のものだと知らしめなくては、こんなにも魅力的なおまえは誰かに目を付けられてしまうかもしれない。この不安を、理解してはくれぬか?」

「き、気持ちは嬉しいですけど、恥ずかしいんですよ~!」


 どんどん顔が赤くなっていき、見られたくないあたしはレイヌ様の身体に顔を押しつける。たっぷり二人きりの世界で時間を過ごしたからか、なんだか今のレイヌ様は昔よりも余裕がある。こうやって人の眼を意識しながらあたしとの関係をアピールするなんて、昔のレイヌ様ならしなかったと思う。昔なら、問答無用であたしを攫ったりとかしそうだし、その、なんというか見えてきた新しいレイヌ様に、ドキドキする。


「あの、春乃……? 知り合い……?」

「春乃ちゃん、その人は……?」

「む」


 そこで、当然の疑問を声に出す友人二人。それに反応したのは、レイヌ様にしがみついたあたしではなく、レイヌ様の方で……あ、ダメだ。この流れはマズい!


「我はレイヌ。なに、ただ妻たる春乃を迎えに来ただけだ」

「れ、レイヌ様!?」

「へ……? つ、妻……?」

「春乃ちゃんが……?」


 ま、またやっちゃったぁ……!


 あたしの成り上がりものは、一瞬にして少女漫画展開に塗りつぶされるのであった。



「もう、目立ちすぎですよ、レイヌ様」


 下ろしてもらって、一緒に帰り道を歩く。家族にレイヌ様のことをどこまで説明しようか考えなきゃいけないのに、明日からの質問攻めにどう対応するかも考えなくちゃならない。


「……すまぬな。正直なところ、あれほどの騒ぎになるとは思っていなかったのだ。我は人前に姿を晒した経験がほとんどないものでな」

「あ、たしかに……逆に、なんで簡単に出てこれたんですか? 闇の領域の人たちには絶対顔見せしたくない! って感じだったじゃないですか」

「そうだな……ここの人間は、神の力とは縁もゆかりもない。無関係だからこそ、気も楽なのかもしれぬ」


 そういえば、光の領域の街では普通に姿を現してたっけ。普段面倒を見ている相手には顔を合わせづらい……ということなんだろうか。


「なるほど……良かったです! レイヌ様もこっちでしばらくやっていけそうで!」


 あたしとレイヌ様の生活は、これからもずっと続いていく。だけど、あたしがこうして一人の人間として日本で生活できるのは、今しかない。だから、あたしたちはしばらくこの世界で暮らしていくことに決めた。


 今日みたいなことは困ってしまうけど、レイヌ様が全然人前に出れないよりはずっといい。

「……あ、レイヌ様! 言っておきますけど、この世界ではお金創ったりしちゃダメですからね!」

「む、そうか……」

「そうですよ! バレますし! 法律は守ってください!」

「……まぁ、ここでの我は神ではない。それが道理だな。……法を破らなければ良いのだな?」

「……なんか不穏なんですけど!?」


 嫌な予感がすごい……けど、法律を守って以上の言葉が出てこないので牽制もできない……!


「それよりもだ、春乃。おまえの通う学校は全日制で、基本的には毎日通うものだと聞いたが……」

「え? そうですけど……」

「ほ、本気なのか……? 毎日我を置いて約八時間を過ごすつもりなのか……?」

「それは許してくださいよ~!」


 なんて話をしながら、あたしたちは帰路につく。


 ……なんとか学校に通うことは認めてもらったけど、この日からレイヌ様は毎日迎えに来るようになってしまったのだった。



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