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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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説明してください、レイヌ様!


「つまり……レイヌ様はあたしに死んでほしくなくて、神様の力を注ぎ込んだと……」


 あたしは、先ほど自分がレイヌ様に何をされたのか改めて説明してもらった。この羽根は、絶対にそれと関係があるからだ。


「その通りだ。本当は半分ほど注ぐ予定だったが、途中で春乃の目が覚め、三割ほどに留まることにはなってしまったが……」

「いやいや! レイヌ様の力の半分なんて畏れ多いですよ!」


 予定の通りなら、あたしとレイヌ様の力は同じになっていたってことで、それはさすがに……っていうか、今のあたしでも既に神様の三割分の力を持っているってこと……? き、気付いたら人間を卒業しちゃった……。


「あのー……それで、この翼は……?」


 意識を向けると、黒い羽根はぴょこぴょこと動く。これで飛べるような感じは全くしないけど、しっかりあたしの身体の一部だ。


「それは、いわば栓だ。心配せずとも消すことができる。深呼吸をして、翼を仕舞うようイメージしてみろ」

「栓……? わ、分かりました」


 言われたとおり、目を閉じて羽根を自分の中に戻すようなイメージをしてみる。すると、そこにあった羽根がパッと消えるような感覚があった。そして、代わりに。


「うわぁっ!?」


 何かが、背中から吹き出る感覚。感覚だけでは終わらず、辺りにはあたしの背中から出ているらしい黒い靄……そう、闇だ。それは、レイヌ様が何かを創り出したりする時に出てくる闇そのものだった。


 それが分かったところでどうして良いか分からず混乱していると、レイヌ様が軽くあたしの背中を叩いた。すると、あたしの身体から何かが出ていく感覚はすっかり収まった。


「今のって……」

「これは、我と同じ陰の神気。光の者どもの魔法と対を為す力の源泉だ」

「あ、そっか……魔法も元はスルグ様の力ですもんね……」


 力を注ぐっていうのは、よく考えたらスルグ様が光の領域の人たちにやっていたのと同じことだ。あたしも、あの人たちと同じ魔法使いになったようなものなのかもしれない。


「もっとも、春乃の力は奴らとは比べるべくもないが」

「あはは……」


 そりゃ、あたしにはレイヌ様が直接三割も力をくれたみたいだし……スルグ様の力を領域のみんなで分け合っている人たちよりは、当然力も上……ってことなんだろう。


「それで、春乃の身体の場合、背から神気を排出するようでな。神気が垂れ流しになったままにならないよう、無意識的に翼が形作られ孔を塞いでいたようだ」

「だから栓、ですか……」

「慣れれば我の助力がなくとも自由に孔を開き、閉じることができるだろうが……それには修練が必要だな」


 どうやら、さっきはその孔とやらをレイヌ様が閉じてくれたみたいだ。にしても良かった。ずっと羽根が生えたままだと、仰向けで寝れなさそうだし……。


「よし、春乃。早速だが、もう一度翼を出してみるが良い」

「えぇ!? や、やってみますけど……」


 背中に意識を向ける。羽を広げるようなイメージ。

 今度はさっきよりも大きい、立派な翼が生えた。


「お、おぉ~!」


 いざ受け入れてから見ると、すごく興奮してきた。黒い翼、かっこいい……!


「れ、レイヌ様! これって、あたし飛べるんですか!?」

「春乃が望むなら、できる。それが神の力だ。半端な魔法などとは違う」

「お、おぉ~!」


 レイヌ様はなんでもないように瞬間移動したり記憶から物質を再現したりしていた。それと同じ神の力ということは、ああいうことが、あたしにもできる……!?


 なんだかテンションが上がってきて、あたしはレイヌ様に教わりながら力の扱いを練習し始めた。どんどんと上達してきて、夢が広がっていき楽しくなってくる、そんな時だった。


「レイヌ!」


 聞き覚えのある声。やってきたのは、いつになく焦っている様子のスルグ様だった。けどそんなスルグ様の表情も、あたしの顔を見るなり明るくなる。


「! ハルノ! 良かった、無事に済んだんだね……」

「スルグ様こそ、無事だったんですね!」


 あたしの無事を安心してくれるスルグ様だけど、それはあたしも同じだ。あたしが飛び出しちゃったの、スルグ様が危なかったからだし。


「ふん。我が細心の注意を払ったのだ。春乃に万が一があるはずもないだろう」

「そういう問題じゃ……いや、もう終わったことか……レイヌ。ハルノの無事は喜ばしいが、それどころじゃないんだ」


 スルグ様は表情を深刻なものに変える。


「レイヌ! 土地に加護を戻すんだ!」

「断る」

「っ! このままでは世界が……!」

「へ? せ、世界……?」


 世界。その言葉に、スルグ様が持ってきた緊急事態のスケールの大きさを垣間見る。そしてそれがどうやら、レイヌ様にも関係しているらしい。


「どういうことですか? レイヌ様、加護を戻すって……?」

「……」


 つーん、とレイヌ様は子供みたいにそっぽを向いて答えてくれない。これは、なにかとてもへそを曲げている時のやつだ。答えないレイヌ様を見かねたのか、スルグ様が口を開く。


「外を見てくれ、ハルノ」

「はい……? えっ、明るい……!」


 窓から神殿の外を見ると、なんとそこは真昼だった。四六時中月夜が広がっているはずのこの場所で、陽が昇っている。


「ど、どういうことですか!?」

「レイヌがこの土地から加護を引き揚げたんだ。結果、今この世界はこの神殿を除いて私の加護で満たされつつある」

「それは……えっと、なにかダメなんですか?」


 世界の全部が光の領域みたいに延々昼間になる……というだけなら、まぁ問題ないというか、世界が滅ぶような話にはならないような気がする。地球なら夜がなくなるなんて非常事態も良いところだけど、光の領域ならそれが当たり前だったわけだし。


「一度でも私とレイヌの均衡が崩れてしまった、というのが良くないんだ。このままでは、際限なく私の影響が優勢になり……やがて人には耐えられないほど陽が強くなってしまうだろう」

「すごくダメですね!?」


 なるほど、それはたしかにダメだ。


「ふん、そうなったか」

「だからレイヌ! 土地に加護を戻すんだ!」

「必要性を感じぬ。この神殿の外がどうなろうと、我と春乃には関係がないだろう」

「い……いやいやいや! それはダメですよレイヌ様!」


 まるであたしとレイヌ様以外は心底どうでもいいと言わんばかりに切り捨てるレイヌ様。前までちょっとくらいはあったはずの村の人たちへの責任感みたいなものが、綺麗さっぱりなくなっているような。


「春乃……」


 あたしの抗議に、レイヌ様の瞳が揺れる。あたしだって、さすがにミナちゃんたちが生きていけなくなるのは看過できない。


 ……でも、今回の件でレイヌ様の人間嫌いの理由が実感できてしまったし……この様子だと、それがもっと酷くなっていてもおかしくない。


 なんとかレイヌ様に協力してもらうには、あたしのわがままで通すしかない、と思っていると。


「だが……春乃の望みなら、という気持ちもある。この前も、我が素直に春乃の望みを叶えていれば、あのようなことは起こらなかった」

「レイヌ様、じゃあ……!」


 この前のこと、っていうのはあたしが死にかけた時のこと……だと思う。もしレイヌ様が素直にあたしの頼みを聞いてスルグ様を助けていたら、たしかにあたしが無謀に飛び出すことはなかっただろう。けど、あれはあたしも悪かったから、あんまり気にしすぎないでほしいなぁ。なんて、すっかり丸く収まった気でいると。


「だが……スルグ。それではキリがないのではないか?」

「キリがない……?」


 飛び出してきた異論に、聞き返すスルグ様。


「貴様は人間の為にすべてを投げ出せるのだろうが、我は違う。我は春乃との未来を選ぶ。本当なら貴様がどうなろうと構わぬが、先日貴様は死にかけた。もし本当に貴様が滅んでいれば、今度は我の闇が世界を覆い、暴走していただろう。違うか?」

「それは……」

「あの調子では、貴様はいつ死んでもおかしくはない。いやむしろ、率先して人間共に命を捧げようとしている。そんな下らぬ自殺に我は付き合えぬ」


 たしかに……それは、あたしもずっと引っかかっていたことだ。スルグ様はレイヌ様も大事にしているけど、それは人間よりも優先度が結構低いというか。スルグ様の行動は、「人々のためだからレイヌも私と共に滅んでくれ」と言っているようなもの……っていうのは、悪い見方をしすぎているかもしれないけど。


「……レイヌ。先に結論を言ってくれないか。キミはどうするつもりなんだ?」

「決まっている。我と春乃は、こんな世界とは縁を切るのだ」


 レイヌ様が語る解決策は、あまりにも性急なものだった。


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