ただいまです、レイヌ様
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い──!
経験したことのないような痛みが全身を巡る。
まるで指を一本一本抜かれて、別のものに差し替えられているような。それが全身の骨に、筋肉に、皮膚すべてに行われているような。
なんでこんな目に遭っているんだろう。
それすら、思い出す余裕がない。
次に襲ってきたのは、背中が割れるような痛み。鈍器が無理矢理身体を突き破ろうとしているような、鈍い痛み。
痛くて痛くて、なんとか痛みを逃がそうと身体が藻掻く。のたうち回るように腕を動かそうとするけれど、それすら冷たい手に掴まれ止められた。
誰だろう。
思い出せない。
痛みは、あたまにすらひろがっていく。
ずつうなんて、なまやさしいものじゃない。
おもい、かんがえているあたしが、つぎつぎにぬりつぶされていく。
「ひ……あっ……ぁっ……」
さけびにすらならないおとが、のどからもれる。
あたしは、どうなるんだろう。
こわい。こわいよ。
わからない。なんにも。
いつまでつづくんだろう。
はやくらくになりたい。ぜんぶなげだして、らくになって、それで──
不意に、視界が澄んだ。
ずっと霞んでいた視界の真ん中には、誰かがいた。
誰かが、泣いていた。
無性に、嫌だと思った。
勝手に手が動いて、その涙を拭っていた。
「春乃……っ!」
そうしたら、拭ったはずの涙はむしろ溢れ出してきて、あたしは強く抱きしめられた。
「……れいぬさま……」
そうしてようやく、あたしは大好きな神様の名前を思い出した。
「すまぬ、春乃……! 我は、もう二度と! おまえにあのような……!」
その言葉で、なんとなく分かった。これは、あたしのせいなんだって。あたしへの罰だったんだって。
そう……あたしは、約束を破ったんだ。レイヌ様の手の届かないところへ行ってはならないという約束を。
「あたしの方こそ……ごめんなさい、レイヌ様。約束したのに、レイヌ様以外の手で死んじゃうところでした」
「春乃は間違ってなどおらぬ! すべて、我が至らぬせいなのだ……! 痛かっただろう、苦しかっただろう……どれほどの怒りを覚えても、それは正当なものだ。だが、それでも……それでも、お願いだから我を嫌いにならないでくれ、春乃……!」
「嫌いになんて、なりません」
あたしは、泣いているレイヌ様を抱きしめ返して、そうしてあたしたちはしばらく抱き合った。
実際、喉元過ぎればというか……それどころじゃなかったはずなのに、終わってみれば麻酔なしの歯医者さんくらいの痛みだったような気がしているのだ。……うーん、それでもやっぱりすごく痛かったけど……でも、あれがあたしのためだったっていうのは、伝わってくる。だから、嫌いになんてなるはずがない。
痛みが引いていき、より鮮明にレイヌ様の存在を感じられる……と同時に、ふと違和感を覚えた。
「……ん?」
見れば、視界の端にぴょこぴょこと、黒い何かが動いていた。しかもそれが動く度、あたしはあぁ動いてるな~と感覚で分かるというか。まるで身体の一部みたいな。
「んん?」
よく見ると、その黒いぴょこぴょこはあたしの背中に繋がっているような……?
「れ……れれ、レイヌ様! な、なんですかこれ!? せ、背中! なんか……背中!」
「む……? あぁ、それは春乃の翼だ」
「翼ぁ!?」
目が覚めると、あたしには黒い羽根が生えていたのだった。なんで?




