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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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お出かけの約束です!

 レイヌ様と暮らし始めて、一年が経った。


 穏やかな日々が続いた。朝──えっと、朝日が来たりはしないから正確には起きた時なんだけど──にレイヌ様に挨拶をして、一緒に朝食を食べる。本当ならレイヌ様が必要としない料理を、あたしの作ったものだからと楽しそうに味わってくれる時間。それから、お風呂に入ったり、レイヌ様に自分の世界の話をしたり……キス、されたりとか。五日に一度は村に出て、ミナちゃんや村人たちと触れ合って、おまけにレイヌ様の意向を伝える。そうして夜は、レイヌ様に抱きしめられながら眠りにつく。


 そんな生活は、不安になりそうなくらいには幸せすぎるくらいで、あたしは満足していた。

 だから、決して飽きが来たとかそういうわけではないんだけど、それでもその日、ふと思ったのだ。


「ねぇ、レイヌ様」

「なんだ、春乃」


 いつものように、ソファに座ってレイヌ様に寄りかかりながら、あたしは何気なく尋ねた。

「レイヌ様って、外には出たりしないんですか?」


 いわば、ただの思いつきだった。この一年、レイヌ様は一度も神殿の外に出ることはなかった。何か特別な理由があるのかなー、なんてふと思ったのだ。


「……必要がない」


 レイヌ様の眉間にしわが寄る。必要がないというのは、多分そのままの意味。神殿の外にわざわざ足を運ぶ価値のあるものなどないと、そういうことだと思う。だったら、言ってみる価値はある。


「うーん、でもたまにはレイヌ様とお出かけしてみたいです!」

「そ、そうか……」


 あたしが率直な想いを伝えると、レイヌ様の表情が緩む。こうして分かりやすく嬉しそうな反応をするレイヌ様がかわいくて、どんどん言葉をあげたくなる。レイヌ様はレイヌ様自身のことを褒めたとしてもあんまり動じないけれど、あたしの好きが伝わると、こうしてすごくかわいくなるから。


「だが、春乃。出かけると言ってもな、ここはおまえの故郷とは違う。わざわざ共に足を運ぶような場所はないぞ」

「えぇ〜? 村のみんなに挨拶! っていうのも有意義じゃないですか?」


 もしレイヌ様が外に出てくれるなら、せっかくだし信仰してくれる村の人たちに顔見せでもしてレイヌ様の人望獲得だ! ……って思ってたんだけど。


「……わざわざ騒ぎを起こすような真似はせぬ」


 どうやらレイヌ様は否定的みたいだ。騒ぎになるっていうのはその通りだろうし、レイヌ様がそう言うなら仕方がないか。でも一緒に外には行きたくて、あたしは別の案を考える。


 騒ぎにならないお出かけか……うーん、森でピクニックとか……? でも夜の森か……。


「……あ」


 そこで天啓が下った。そうだ。まだ行ったことがなくて、とても興味のある場所がまだあった。噂に聞くばかりで、一度も実物を見れていない。思いついたが最後、どんどん気になってくる。我慢ができなくて、あたしは勢いのままそれを口にした。


「そうだ! スルグ様の領域なんてどうですか?」

「……は?」


 あ。空気が一瞬でひりつく。レイヌ様の顔が、見る間に険しくなっていく。ま、またやっちゃった……! スルグ様関連のことは慎重になれよあたし!


「春乃。おまえもなのか? おまえだけは──」

「いやいや! 一緒に行ってみませんかって話ですよ! レイヌ様が側で守ってくれたら、慣れない場所でも安心だなって思ったので! レイヌ様と一緒だからこそ行ってみたいんです!」

「む……」


 一年間の経験を活かし、レイヌ様の思考が負のスパイラルに陥るよりも前に真摯に弁明すると、押し黙るレイヌ様。納得はしてくれたみたいだけど、まだちょっと不機嫌そうだ。


「あ、もしかして……なにかの事情でスルグ様の領域には立ち入れない、とかですか? だったら無理には……」

「そうではない」


 レイヌ様は、少しむくれたような顔であたしを見下ろす。


「スルグめにできることが我にできないはずがないだろう」

「あ、たしかに……」


 そういえばスルグ様はここに、闇の領域であるこの場所に割と気軽に立ち寄っていた。以前も、まだ殺風景だったこの場所にレイヌ様の許可なく現れていたし。スルグ様にそれが可能なら、たしかにレイヌ様にだって向こうへ行けるのが道理だ。できないわけじゃなくて、ただ行きたくないだけ、ということなんだろう。


 だったら、あたしのわがままを聞いてほしい。あたしはレイヌ様の手を取って、ペットらしく上目遣いでじっと見つめる。


「お願いします、レイヌ様。あたし、レイヌ様と一緒に色んな場所を見てみたいんです」

「…………」


 レイヌ様の紫の瞳が揺れる。あたしの視線から逃れるように目を逸らして、やがて小さくため息をついた。


「……わかった。春乃がそこまで言うのであれば、一度奴の領域へ行くのも良いだろう」

「本当ですか!?」


 あたしは嬉しくて、思わずレイヌ様に抱きつく。


「レイヌ様大好きです!」

「……わ、我も……大好きだぞ、春乃」


 ちょっと険悪になった反動からか、いつもよりレイヌ様の愛の言葉はぎこちなかった。それがまたかわいくて、あたしはレイヌ様をぎゅっと抱きしめる。


「それで、いつ行きます? 明日とか?」

「そう急がなくとも……」

「思い立ったが吉日、ですよ! ……あ、今日じゃないから……善は急げ?

「……ふん」


 レイヌ様は不満そうに鼻を鳴らすけど、あたしの頭を撫でてくれる。その手つきは優しくて、本当に嫌がっているわけじゃないんだなって分かる。


「分かった。ならば明日、共に奴の領域へ赴くとしよう。……だが春乃、あまり期待はするな。あそこは我の領域とは違う。おまえが気に入るとは限らぬ」

「大丈夫ですよ! レイヌ様が一緒なら、どこへ行っても楽しいですから」

「……そうか」


 そういうわけで、あたしたちは明日、初めての旅行をすることになったのだった。


 夜、ベッドの中でレイヌ様に抱きしめられながら、あたしは明日のことを考えてワクワクしていた。ミナちゃんや村の人たちによると、スルグ様の領域はこことは比べものにならないほど活気があるらしい。


「春乃、早く寝ろ」

「はーい」


 なんだか眠れないあたしを、レイヌ様が優しく諭す。その声に従って目を閉じると、レイヌ様の冷たい腕が、あたしをより強く抱きしめた。


「……明日は、あまり長居はせぬからな」


 小さく呟かれた言葉に、少し不満そうな響きが混じっている。


「レイヌ様、そんなに嫌なんですか?」

「嫌ではない。……我とて、春乃と外に足を運ぶこと自体は楽しみだ……が、やはりあの場所は好かぬ。スルグめそのものよりも、奴の領域の方が嫌いと言えるほどだ」

「そんなに、ですか?」

「……もちろん、今更取りやめる気もない。春乃が望みは、叶えたいと、そう思っている」


 レイヌ様はスルグ様の領域そのものを嫌っているみたいだ。けど、それでもあたしのために行ってくれるって言ってくれる。


「ありがとうございます、レイヌ様。あたしのために……」

「礼には及ばぬ。ただ……向こうで何があっても、我から離れるな。必ず我の側にいろ。良いな?」

「はい、約束します」


 その言葉に、レイヌ様はようやく満足したのか、あたしの額に軽くキスを落とした。


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