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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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20/24

久々(?)の外出です!

「それじゃあ、お願いします」

「……承知した」


 神殿の上層で、あたしはレイヌ様に見送られていた。実は今日は、約束した五日に一度の外出日。久しぶりに村へ行く日だ。あたしがこの階段も何もない神殿の上層から外に出るには、こうしてレイヌ様に出してもらう必要がある。


 ……何不自由ないし楽しいから良いんだけど、よく考えたらあたしは完全に監禁状態である。


「あ、ところでレイヌ様。一つだけお願いがあるんですけど……」

「なんだ?」


 送り出される間際に、あたしは話を切り出す。ちょっと危ない橋かもしれないけど、外に出るにあたってレイヌ様にお願いしておきたいことがあった。


「この前外に出たときは、レイヌ様あたしの頭の中に直接話しかけてきてましたよね? あれ、できればやめてほしいんですけど……」

「……なぜだ?」


 鋭い声色。レイヌ様が、明らかに不満そうな顔をする。


「その、メリハリって言うんでしょうか。話ができちゃったらレイヌ様が隣にいるのと同じようなものじゃないですか? 離れる時間があるからこそレイヌ様と本当に一緒にいる時間が輝くと思うんですよ!」

「そんなことをせずとも、春乃との時間はいつも輝かしいが」

「もっとですよ! もっと!」

「……むぅ」


 レイヌ様は微妙に納得しきれていない様子だったけど、昨日の件という弱みもあるんだろう、かなり揺らいでいるように見える。ダメ押しとばかりに、あたしは続ける。


「でも、戻ったらちゃんと埋め合わせはしますので!」

「……分かった。念話は控えることにしよう」

「ありがとうございます!」


 折れてくれたレイヌ様に気持ちを伝えるように、あたしは抱きつく。レイヌ様も、優しくあたしを抱き返してくれた。


「ただし、だ。春乃に何かあれば、我はすぐに駆けつけねばならぬ。その為にはおまえを視続ける必要がある。分かるな?」

「はい。もちろんですよ!」


 つまり、話しかけずとも常に神様の眼で視ているということ。監視ともとれるけど、万が一がないように見守られていると言った方が正確な気がする。つまりむしろありがたいくらいだ。


「それと……早く帰ってこい。我は春乃がいないと落ち着かぬ」

「はい! すぐに帰ってきますから」


 最後にもう一度抱きしめ合ってから、あたしはレイヌ様の力に包まれる。やがて視界が一変すると、そこは神殿の入り口だった。



 長い階段を降りて、村へと向かう。レイヌ様と暮らし始めてからそんなに時間は経っていないはずなのに、随分と久しぶりに感じる。やっぱり、たまには外の空気を吸うのも良いものだ。


 村に入ってみると、すぐに村人たちが気づいた。


「あっ、巫女様だ!」

「巫女様がいらっしゃった!」


 人が人を呼び、有名人が町中に現れたみたいに次々と人が集まってくる。ここまでは予想していたけれど、そうしてあたしに集中した視線が、なんだかいつもと違うような。


「巫女様……なんて、お美しい……」

「まるで女神様のような……」

「……へ!?」


 入り交じる話し声に、あたしを称賛する声が混ざっているように聞こえて、思わず耳を疑う。何事かと思っていると、一人の女性が恐る恐る声をかけてきた。


「あの、巫女様。その装束は……」

「あぁ、これですか?」


 問われて、改めてあたしは自分の服を見下ろす。レイヌ様と同じ、夜空を思わせる漆黒の装束。レイヌ様が贈ってくれたお気に入りである。


「実はレイヌ様が、お揃いにしてくださったんです」

「あの方と……お揃い……!」

「なんと神々しい……」


村人たちの間に、さらにどよめきが広がる。た、たしかにレイヌ様のくれた衣装は村の皆さんが着ているものと比べて明らかに質が良いけども。なんかそれだけじゃない気がする。


「あの、みなさん。そんなに畏まらなくても……」

「いえ、滅相もございません!」

「今の見違えた巫女様は、まさにレイヌ様に並び立つ存在……」

「み、見違えたって……あ」


 アレか……毎日お風呂に入ってるからか!? そりゃ、水浴びだけだった以前の生活と比べて見違えるのは当然だ。でも、それは日本のお風呂産業と化粧品業界の企業努力と、それを再現したレイヌ様が凄いのであって、あたしは何も凄くなっていない。というかレイヌ様に甘やかされてダメ人間が加速している。うぅ、身の丈に合わない尊敬が痛い!


 そもそも、レイヌ様に並び立つって……レイヌ様はあたしなんかとは比べものに……って、そういえばレイヌ様は村の人の前に姿を現さないんだった。じゃあ、あたしを過大評価するのもしょうがない……のかな?


 なんにせよ、以前にも増して壁を感じる対応に辟易していた、そんな時。


「春乃さーん!」

「ミナちゃん!」


 ただ一人、変わらない声が聞こえた。人混みをかき分けて、ミナちゃんが駆け寄ってくる。そして、躊躇なくあたしに抱きついてきた。


「やっと会えました……!」


 その変わらない態度が、とても嬉しい。あたしも、ミナちゃんを抱きしめ返す。というか、村であたしと親しかったと言える人はミナちゃんくらいなので、実質彼女に会いに来たと言っても良い。


「あはは、やっとって言うほど時間経ってないよ?」

「そう……かもしれませんけど」


 ミナちゃんが、あたしの服をぎゅっと掴む。


「部屋に春乃さんがいないのは、どうにも慣れなくて……寂しかったんです」

「……!」


 その言葉に、胸が痛む。思えば、ミナちゃんが村長さん以外の人と話しているところをあまり見たことがない。料理とか習っているみたいだから、全くないってことはないんだろうけど……自惚れじゃなければ、一番仲が良かったのはあたしのはずだ。それがいきなりいなくなったんだから……悪いことをしてしまった。


「ごめんね、ミナちゃん。でも、これからも五日に一回は来るから」

「……はい」


 ミナちゃんは、少し寂しそうに微笑んだ。それは、明らかに聞き分けの良い子供の、無理をしている顔で、少し辛くなる。


「春乃さんこそ、神殿での生活は……大丈夫ですか?」

「うん、楽しいよ」

「そう、ですか……」


 むしろあたしだけ良い思いしすぎてて村の人たちには申し訳ないくらいなんだけど、その辺を言及するのはおそらくレイヌ様の意思に反しているだろうから、言うわけにはいかない。

 などと思っていると、ミナちゃんの視線が一点に止まり、その表情が一変する。


「……?」


 あれ、あたし何かしちゃった? と、何がミナちゃんの気に障ったのか自分の言動から悪いところを探そうとしていると、ミナちゃんが震える声で言った。


「……その、首の……」

「へ? あ〜、これ?」


 首と言われて、合点がいく。ミナちゃんが血相を変えた原因は、あたしの首の跡。大分薄れているはずだけど、昨日レイヌ様につけられたそれが、近くに来たミナちゃんには認識できてしまったみたいだ。


「っ! 来てください!」

「わっ!? ちょ、ミナちゃん?」


 ミナちゃんは強引にあたしの手を取ると、人混みを振り切って人気のない場所へあたしを連れて行く。大勢の前では触れられない話題だと感じたんだろうし、それはいいんだけど。


「春乃さん……! どうしたんですか、なんで、そんな……!」

「えーっと、これは……あはは」


 問い詰められたあたしは、ちょっと困ってしまった。この首の跡、レイヌ様は見る度に自己嫌悪で気落ちしていたんだけど、どういうわけか治してはくれなかった。多分だけど、レイヌ様ならこれくらい綺麗に消せるのに。


 そのことを不思議に思うくらいで、あたしも特には気にしていなかったけれど、よく考えたら事情を知らないミナちゃんを心配させてしまうのは当たり前だ。これは、そこまで思い至らなかったあたしが悪いだろう。首のとこ、隠してくればよかったかなぁ。


「……レイヌ様ですね」


 あたしが黙っていたのがいけなかったのか、敵意に満ちた声が響く。見れば、ミナちゃんの瞳に見たことのない怒りが宿っていた。あたしは、慌てて事情を説明しようとする。


「いやいや! 別にレイヌ様のせい……ではあるんだけど、悪いのはあたしの方だから!」

「悪い、って……そんなの、春乃さんを傷つける方が悪いに決まってるじゃないですか……!」

「……た、たしかに……」


 ものすごい正論だ……! 勝てない……って、参ったな。あたしだって、ミナちゃんにこんな顔させたいわけじゃないのに。


「レイヌ様は……春乃さんに、他にも何か……」

「してないよ! むしろ、すごく優しくしてくれてるから!」


 全然嘘はついていないはずなのに、どうしてもミナちゃんの目にはあたしが無理をしているように映ってしまうのか、ミナちゃんの表情は晴れない。


「やっぱり、ダメですよ……春乃さんは、今まで通り私と……」

「それは……ごめん、ミナちゃん」

「っ!」


 あたしの言葉に、ミナちゃんの表情が歪む。もう決めてしまったから、そこを譲ることはできない。


「あたし、レイヌ様のところで暮らすって決めたから。ミナちゃんと一緒にいられる時間は減っちゃうけど……ミナちゃんのことは変わらず大切に思ってる。だからミナちゃんも、あたしの心配はしなくて良いんだよ」

「……」


 辛そうな顔で、ミナちゃんはあたしを見上げる。仕方のないこととはいえ、その表情を見ていると胸が締め付けられる。


「えっと……あの、本当に大丈夫だよ? レイヌ様、あたしにはすっごく優しいから」

「……そんな、わけ……」


 ミナちゃんは、首を横に振る。その瞳には、涙が浮かんでいた。


「春乃さんは、優しすぎるんです。だから、被害者なのにそうやってレイヌ様を庇って……」

「違うよ」


 あたしは、ミナちゃんの言葉を遮る。


「レイヌ様の本当の姿は、あたしが一番よく知ってる。たしかに、怖いところもある。でも、それ以上に優しくて、寂しがり屋で……あたしのことを、誰よりも大切にしてくれるんだ」

「……」

「ね。信じてほしいな。ミナちゃんはあたしの言葉、信じられない?」

「そんなこと! ……ない、です」


 少しズルい言い方をしたあたしに、ミナちゃんは引き下がるしかなくて、そして俯いてしまった。


 それからというもの、ミナちゃんはずっと思い詰めた表情をしていた。あたしは話題を変えようと色々と話しかけたけど、ミナちゃんの反応は上の空で。せっかくの機会なのに、空気が重かった。とりあえず、次からはミナちゃんに余計な心配はさせないようにしようと、あたしは反省するのだった。


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