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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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18/26

これが新しい日常です


 目が覚めても、この地では朝日が出迎えてくれることはない。


 変わらず漆黒の空に浮かぶ二つの月。この闇の領域では、永遠に夜が続く。もう大分慣れた空模様だけど、やっぱりちょっと不便も多い。何しろ空を見ても時間が分からない。


 ……でも逆に言えば、うまく寝付けなくて寝坊したことを責める昼の空もないというのは、ちょっといい。


 そんなことを、目覚めて上半身を起こしたあたしは、窓の先の空を見て思った。


 あ、でもでも、やっぱり日光は浴びておかないと体に悪いし、ずっと夜空で生活するっていうのも健康に悪いよね……ちょっと考え物かも……村の人たちは大丈夫なのかな……。


「春乃」


 そこで、すぐ隣にいたレイヌ様から声をかけられる。


「おはよう」

「おはようございます、レイヌ様」


 レイヌ様の紫の瞳が、優しくあたしを見つめている。……ああ、そうだ。


 空の色なんて、些細なことだ。こうしてレイヌ様が一緒にいる。それだけで、あたしは幸せなんだと、そんな実感に気づかせてくれる、そんな朝。


「よく眠れたか?」

「ま、まぁ……」


 結局なかなか寝付けなかったけど、特に寝不足な感じはしない。思えばここには起こしてくれる朝日もないし、今のあたしには仕事もない。夜更かししたらその分寝坊するなんていう、ダメダメ人間の生活リズムでも許されてしまうのだった。せめて堕落しないよう、心を強く持たなければ……。


「それは良かった。それで春乃は今日、何がしたい?」

「えっと……」


 そう聞かれて、答えはすぐに思い浮かんだ。


「まずは、ごはんを食べたいですね……」

「ふむ。ならば、好物を思い浮かべるが良い。我の力でそれを……」

「いやいやいや、さすがにそれは! 自分で作ります!」


 あたしは慌ててレイヌ様の提案を断る。さすがに、さすがにそれはマズい……! 人間として! せめて料理くらいは仕事をしていたい……!


「せ、せっかくキッチンもあるんですし、料理は自分でしたいです……!」

「……だが、結局必要な食材は我が出すことになるだろう? ならば、それは余計な手間なのではないか?」

「そ、それは……その手間が大事というか拠り所というか……なにより、その……あたしが頑張って作ったものを、レイヌ様に食べていただきたいので……」

「……!」


 あたしの言葉に、レイヌ様の目が見開かれる。次の瞬間、あたしは強く抱きしめられていた。


「そうか……! すまぬ、無粋なことを言ったな……春乃の料理、楽しみにしているぞ」

「は、はい……」


 その言葉に、必要ないけどそこまで言うなら食べてやろうみたいなレイヌ様はもういなくて、今では必要がなくても積極的に食べてくれるんだなぁなんて感慨深いことを思ったけど、それよりも前に。


「れ、レイヌ様、はなしてください~」


 苦しいので、一旦解放してほしいのだった。



「おぉ~!」


 いざキッチンへ向かうと、思わず声が出た。


 既に一度見たものだけど、改めて凄い。完璧な、最新式のキッチンが広がっている。いや、最新式というか、正確にはあたしのふわふわとした豪華なキッチンのイメージをレイヌ様が具現化してくれたものなんだけど。て──


「冷蔵庫も、オーブンも、全部ある……!」

「春乃が思い浮かべていたものを、できる限り再現したつもりだが」

「すごいです、レイヌ様! これなら、色んな料理が作れます!」


 あたしは興奮しながら、キッチンを見て回る。調味料も、調理器具も、全部揃っている。立つだけでモチベーションをかき立てる、夢のようなキッチンだ。


「それじゃ、早速何か作りましょうか!」


 勢いのまま、あたしは冷蔵庫を開ける。中には……何も入っていなかった。


「……あれ?」

「必要な食材は我に言ってくれ」

「あ、はい……」


 そりゃ、そうだよね。そういう話だもんね……あれ? それじゃあ冷蔵庫の意味が半分くらいなくなってしまうのでは……? うん、考えるのやめよう。


「じゃあ、そうですね……オムレツを作ってみるので、卵と牛乳とバターと塩を……」

「ふむ、思い浮かべてみろ」


 いつものようにレイヌ様に身を任せると、慣れ親しんだ食材がそこに現れる。早速フライパンを握ると、なんだか自信に満ちあふれてくる。村だと元の世界のノウハウが全く通用しなくて料理初心者みたいな感じになってたけど、ついにあたしの真の力が発揮できる……! それを見せたいミナちゃんはここにいないんだけど!


 慣れた手つきで卵を割って、牛乳と塩を加えて混ぜる。フライパンを温めて、バターを溶かして……。


「……」


 レイヌ様が、無言で後ろからじっと見ている。その視線を感じて、少し緊張してしまう。


「レ、レイヌ様……あんまり見られると、その、緊張しちゃうんですけど……」

「そうか? だが、我は春乃が頑張っているところを見るのが好きなのだ」

「すっ……!」


 危なっ! 突然の言葉に、手が滑りそうになる。まったくいきなりこの神様はそうやって……あたしの方がレイヌ様の愛情攻撃に慣れるしかないんだけど。


「もう……さらっとそういうこと言うんですから」

「我は感じたままに語っているにすぎぬ」

「それが恥ずかしいんですってば……」


 顔を真っ赤にしながら、あたしは料理を続ける。卵液をフライパンに流し込んで、手早く混ぜる。そして、形を整えて。


「はい、できました!」


 お皿に盛り付けたオムレツを、テーブルに置く。ふんわりとした黄色い色が、食欲をそそる。


「これが、オムレツか」

「はい。どうぞ、召し上がってください」


 レイヌ様がフォークを手に取り、オムレツを一口食べる。


「……」


 慣れない村の設備で作った料理とは違って、このオムレツは正真正銘あたしの本気。これで前の方が美味かったとか言われたら立ち直れないので、あたしは祈るようにレイヌ様の反応を待つ。


「……美味い」

「本当ですか!?」

「あぁ。ふわふわとしていて……不思議な食感だな」


 レイヌ様が、もう一口食べる。その表情が、どこか嬉しそうで。


「春乃は、料理が上手だな」

「そ、そんな……これくらい、誰でも作れますよ」

「そうなのか? だが……たとえそうなのだとしても、我の一番は春乃が作ってくれたものだ」

「レイヌ様……」


 その言葉に、胸が温かくなる。レイヌ様の微笑む顔を見ていると、あたしはもっともっと色んな料理を作ってあげたくなるのだった。


 あたしも自分の分を食べる。自分で言うのもなんだけど、上手にできたなと思っていると、そんなあたしを見ながらレイヌ様が声をかけてくる。


「春乃」

「なんですか?」

「これから、毎日こうして春乃の料理が食べられるのだな」

「はい。あたし、レイヌ様の笑顔を見るために毎日作りますね」

「……そうか」


 レイヌ様の表情が、柔らかくなる。まるで、何か大切なものを手に入れたような、そんな表情。多分だけど、あたしもそんな顔をしているんだと思う。



 食事を終えて、片付けも済ませた後。あたしは、改まってレイヌ様に向き直った。


「あの、レイヌ様。実は、ちゃんと話し合って決めておきたいことがあります」

「なんだ?」


 レイヌ様が、真剣な表情であたしを見つめる。大事なことだ。あたしとレイヌ様のこれからを決める、とても大事な取り決め。


「その……外出について、です」

「……外出?」


 レイヌ様の纏う雰囲気に、若干の剣呑さが入り交じる。


「はい。あたし、これからずっとここで暮らすわけですけど……やっぱりたまには、村に行ったりしたいなって。ほら、レイヌ様のご意向をみんなに伝えるのが巫女ですから」


 巫女の役目に関しては建前だけど、あたしだってたまには外に出たい。でも、それでレイヌ様を不安にさせたいわけじゃない。


「……春乃は、我の側にいるのが嫌なのか?」

「ち、違います! そうじゃなくて!」


 あたしは慌てて否定する。あたしがミナちゃんのところに挨拶に行っただけで不安定になってしまうのがレイヌ様だ。こういう早とちりをしてもおかしくはない。だからこそ、ちゃんと説明するんだ。


「あたしだって、レイヌ様と暮らせて幸せです。でも、それだけじゃ良くないと思うんです。たまには外に出て、適度な刺激を経験した方があたしたちの為になると思って……」

「……」

「でも、それでレイヌ様を不安にさせたいわけじゃないです。だから、レイヌ様が納得できるように、外出のルールを決めておきたいんです」

「春乃……」


 レイヌ様の表情を見て、あたしは確信する。あたしの想いは、きっと届いた。


「おまえがそこまで言うのであれば、我は止めたくない。だが……」

「だが?」

「あまり頻繁に外に出られるのは……正直なところ、我は辛い」


 レイヌ様の本音を聞いて、あたしは少し胸が痛くなると同時に、素直にそう言ってくれるレイヌ様がとてもかわいく見えた。いずれにせよ、それだけレイヌ様があたしを大切に思ってくれているということでもあって、胸がいっぱいになる。


「じゃあ、どれくらいの頻度なら、大丈夫ですか?」

「三……いや、五日に一度であれば、許す」

「! ありがとうございます!」


 認めてくれたことが嬉しくて、あたしはレイヌ様の手を握る。だけど、レイヌ様の表情にはまだ陰りがあった。


「……レイヌ様? やっぱり無理して……」

「いや違うのだ。本当ならもっと……すまぬ、我がたったの五日に一度しか我慢ができぬせいで……」

「もう、何言ってるんですかレイヌ様。残りの四日間は、ずっとレイヌ様と一緒にいられるんですよね? それって、すごく幸せなことだと思います」


 まぁ、一ヶ月に一回とか言われてたら、さすがに譲歩を求めてたかもしれないけど……五日に一回なら十分だ。


「春乃……」


 レイヌ様が、あたしの手を握り返す。その手の力が、レイヌ様の気持ちを物語っていた。


「ありがとう……我は、おまえが……おまえだけが……」

「はい。あたしもです」


 感極まったレイヌ様に、あたしは微笑みかける。


 ちなみに、約束とか以前にここは神殿の上層で、下に続く階段なんてない。必然的にレイヌ様の許可がないとあたしは外に出れないんだけど。それは言わないでおこう。


 ……レイヌ様は、誠実だと思う。こうして、あたしの意見を聞いて、話し合いで決めてくれる。あたしが言うと自意識過剰みたいになっちゃうけど、本当はもっと束縛したいだろうに。もっと、あたしを独占したいだろうに。


 それでも、あたしのことを考えて、譲歩してくれる。


 あたしも……ちゃんと、秘密を話した方がいいのかな。


 そう。ゲームの話を。原作の、未来の知識を。


 あたしは、この世界のことを知っている。五千年後、レイヌ様がどうなるのか。どんな存在になってしまうのか。


 それを……レイヌ様に伝えるべきなのだろうか。



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