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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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レイヌ様、上手すぎます……!

 沈黙が流れる。


 失言への焦り、そしてレイヌ様の照れた表情の破壊力によって思考が吹き飛んでしまったあたしと、かわいい顔をしたまま何も言ってくれないレイヌ様。浴室には、ただシャワーから流れるお湯の音だけが浴室に響く。


「春乃が……我を、そういう目で見ていたとは……」


 やがて、レイヌ様がぽつりと呟いた。その言葉の威力は凄まじく、あたしの気分は決定的な証拠を突きつけられた真犯人だ。


「いっ、いやその! 語弊と言いますか!? 不敬なのは承知しているんですけども!」


 って、これじゃ否定できてないじゃん! あたしは慌てて弁明するも、完全に墓穴を掘るような言葉しか出てこない。マズい……! 神様相手にえっちな目で見て、しかもそれが露見するとか、罰当たりもいいところだ。いくら優しいレイヌ様でも、お説教くらいは覚悟しなければいけない。でもでも、レイヌ様があまりに美しすぎて、しかも今こうして目の前に裸でいて、それで合法的に触れるなんて何も思わないなんて方が無理な話で……!


「……嬉しいぞ、春乃」

「えっ?」


 思ってもみなかった言葉が聞こえた気がして、あたしは思わず聞き返してしまった。俯いた顔を上げた先には、心底嬉しそうなレイヌ様がいた。


「……春乃は……我と共に居てくれると、そう約束をしてくれた。そうである限り、我は決しておまえを離すことはない。だが、しかし、それでも……」


 レイヌ様の表情が、ふっと遠くを見るようなものに変わる。届かないものに手をのばしているかのような……こう言ってはなんだけど、レイヌ様らしくない表情。


「こんなことを口にするのは本当に屈辱だが、我はスルグが羨ましくなった」

「スルグ様が、ですか?」


 急にスルグ様の名前が出てきて、あたしは首を傾げる。たしかにスルグ様には羨むようなものをたくさん持っているお方だけど、レイヌ様が羨ましいと言ったのはそういうことではないだろう。


「我も春乃も女だ。そうである限り、いくら愛を深めても至れない域があるんじゃないかと、そんな懸念がどこかにあった」

「あ……」


 女同士だから。レイヌ様がそれで悩んでたなんて、恥ずかしながら全く分からなかった。……ん? 待って、レイヌ様、異性だったら男女の仲になれたのにって言ってるよね? いや、ほとんど嫁入りじゃ~んって思ったことはあったけど、レイヌ様もう完全にそのつもりじゃん……!


「我とスルグが分たれる時、対をなすかのように初めて男と女になった。逆ならば、と考える瞬間もあったが……」


 そこで言葉を切って、レイヌ様は身体ごとあたしの方を向いた。そして、両手を広げる。


 正面から見るレイヌ様の裸体は、やっぱり背中以上に破壊力があった。脱衣所で見たときはただ純粋に綺麗だ、あたしは好きだとだけ思えたのに……今ではこう、ストレートに誘われているような感じがして、否応なしにあたしの見る目も変わってしまう。


「杞憂だったようだ。春乃、存分に我の身体を味わい、情欲を深めるが良い。我が許す」

「いっ……いやいやいや!」


 感じとかじゃなくて誘われてた! 何言ってるのこの神様!


「っていうか前! 前隠……すのは無理かもしれませんけど、もう一回あっち向いてください!」


 振る舞いやら雰囲気やらで、もう完全にあたしのすべてを受け入れようとしているのが分かるレイヌ様はもうすべてが隙だらけ。黄金比を思わせる美乳も、芸術的なくびれもその下も、まるで全部が春乃のものだぞと言わんばかりにご開帳されてしまっている。ご開帳って何だ。気持ち悪いなあたし!


「なぜだ? 春乃は我を望んでいるのだろう?」

「そっ……れはちょっと分からないというか曖昧にしておきたいんですけど、少なくとも今じゃないですよ!」

「……だが、洗ってくれるのだろう?」

「うっ……」


 流れからして、もう完全にあたしがレイヌ様の身体を隅々まで洗うことが既定路線になってしまっているのはその通りだった。いや、よく考えたらそういう約束はしてなかった気がする! だったら今からでもレイヌ様がご自分で洗っていただく方向に修正することだって……!


「いやいや、やっぱりレイヌ様がご自分で洗っていただければ……」

「いやだ。春乃にやってほしい」


 そんなわがままみたいなことを……! かわいすぎますけど……! それでも屈するわけにはいかない。今回はレイヌ様とただお風呂の楽しみを共有したかっただけで、そこにえっちなあれそれは含まれていない。


「わ、分かりました! 分かりましたけどレイヌ様! 良いですか、人に身体を洗ってもらうというのは、大抵の場合手の届きにくい背中を流すってことを意味するんです!」

「む、そうなのか……」

「だからその、お願いですから前向いてください!」


 あたしが必死に訴えると、レイヌ様は少し不満そうな顔をしながらも、ゆっくりと背中を向けてくれた。ふぅ……助かった。心臓が爆発するかと思った。


「では、春乃。早くやってくれ」

「は、はい……」


 譲歩はもうしてもらった。もう後には引けない。あたしは震える手でボディソープをつけたタオルを握り、レイヌ様の背中に触れた。まるで上質な絹のような滑らかさで、あたしは世紀の美術品の点検を任されているような気分になる。


「……春乃」

「は、はいっ!? な、何か不備が……弁償! 弁償は勘弁して欲しいんですけど……!」

「何を言っているのか分からぬが、その、わざわざ布を介する必要があるのか?」

「へ……?」


 レイヌ様の視線が、あたしの持つタオルに向けられる。レイヌ様の言う布とは、十中八九これのことだろう。


「いや、使った方がちゃんと洗えるといいますか……」

「そもそも我は汚れぬ。その効率は無意味だ。であるならば……どうせなら、我は春乃の手で触れて欲しい」

「なる、ほど……」


 確かに、レイヌ様にとってはちゃんと洗えるかどうかなんて意味がない話だ。だったら、望みの通りにあたしの素手で洗わせていただいても問題は……あるよ! あるでしょ! それを、身体を洗うって名目が意味のないことだと認めちゃったら……それはもう純然なスキンシップで、やっぱりえっちなことになっちゃうじゃん!


 なんとか、なんとかこの最後の防衛ラインであるタオルくんを守るための言い訳を……いや、待って……逆に、逆にだ。ここであたしが必死になって素手洗いを拒絶したら、それこそあたしがこの洗いっこでえっちな気分になっていることを認めているようなものなんじゃないか……? あれ、なんかもう自分で何を考えているのかよく分かんなくなってきちゃった。


「……春乃?」

「えっは、はい! 素手でやらせていただきます!」

「そうか、嬉しいぞ」


 ……あ、反射で答えちゃった。退路が塞がれてしまったー!


 も、もうやるしかない。あたしはタオルを置いて、ボディソープを手に馴染ませる。無心になって、その背中に触れる。冷たい、けれど心地よい感触。さっきとは触っている表面積が段違いで、あたしの全神経がレイヌ様で埋め尽くされるみたいな感覚。


 ほ、ほんとにすべすべだ……神様スキンってすごい……っていうかあたし、全然無心になれてない……でももう止まれないので、肩から背中、そして腰へと、丁寧に、優しく。レイヌ様の身体の線を自分に刻み込むように……じゃなくてただ無心になって洗っていく。


 途中、レイヌ様が小さく息を吐く音が聞こえた。それが心地良いからなのか、くすぐったいからなのか……レイヌ様の方も、背中を通してあたしを感じているからなのか、分からないけど。


「……お、終わりました」

「そうか。ありがとう、春乃」


 背中を洗い終えたあたしに、レイヌ様は振り返って微笑んだ。その表情は穏やかで、どこか満ち足りているように見えた。


「それでは、春乃。交代だ」

「……へ?」


 こうたい……? 後退……? 抗体……交代……交代!? つまり、今やってたことの立場を変えるってことで、それはつまり、レイヌ様があたしを洗う……? いやいやいや。


「それはつまりその、レイヌ様があたしの身体を洗う……?」

「それ以外にないだろう」

「え、えっと、そんな……レイヌ様の手を煩わせることは……」

「……嫌、か……?」

「嫌じゃないですぅ!」

「では問題なかろう」


 ず、ずるい……! そう聞かれたら嫌じゃないって言うしかないじゃん! 言質を取られてしまったあたしは、されるがままに位置を変える。背後に感じるレイヌ様の気配に、また違った緊張とドキドキが襲ってくる。


 レイヌ様の手が、あたしの髪に触れる。シャンプーを馴染ませる指の動きは、驚くほど丁寧で優しい。


「あ……」


 その感触はただただ気持ちが良くて、おかしな緊張があっという間にほぐれていく。


「レイヌ様、とっても上手です……」

「そうか? 我は春乃がしてくれたことを、そのまま真似ているだけだ」

「本当ですかぁ……?」


 レイヌ様の指には、何か魔法がかかっているのだろうか。優しく頭皮を揉まれる度に、頭の中がぽわぽわしてくる。


「……春乃を清潔にするだけなら、他にいくらでも簡単な方法があるのだが……こうして時間をかけ、清めると同時にこの手で蕩けさせるというのも……とても、良いな」

「ふぇ……?」


 夢見心地のまま、シャンプーにリンスと工程が終わっていく。終わる頃には、あたしの頭は幸せいっぱいになっていて、それが良くなかった。


「さて、次は身体だが……良いな?」

「ふぁい……」


 次の瞬間、寝ぼけたあたしの脳みそは甘い衝撃に叩き起こされた。


「ひゃぁっ……!?」


 やってきたのは、背中を包み込むようなふにょん、という柔らかい感触。こ、これ、お、おぱ、おぱぱぱぱぱ……!


「な、ななななにしてるんですか!?」

「こうした方が効率が良い。そう思ってな」


 レイヌ様はなんと、自分の身体を使ってあたしの背中を洗っている。ただでさえすべすべのお肌が、泡のぬるぬるを纏ってあたしを包み込んできて、それはもう夢のような……いや違くて! 効率が良いとか絶対嘘ですよねレイヌ様ーっ!


「では……このまま腕から順にやっていくぞ」

「へ? ……んぅ」


 密着したレイヌ様はあたしの後ろから腕を伸ばすと、そのままあたしの右手を捕まえた。そして、手の甲から二の腕をなぞられたかと思えば、磨くように、揉むように手をじっくりと清められる。


「う、うぅ……っ」


 いつだったか、レイヌ様にマッサージを提案したことがあったけど、今レイヌ様がやっているのは完全にその類いだった。少なくとも、ただ身体を洗われているという域のものでは断じてない。


「れ、レイヌ様……っ! こ、こんなのどこで……」

「ヒトの身体には多少知識がある。気分はどうだ?」

「そ、それは……気持ちいい、ですけども……!」

「良かった」


 そんな会話をしているうちに、気づけばレイヌ様は左の腕も洗い終わっていて、レイヌ様の魔の手はついにあたしの鎖骨まで伸びてくる。


「あ、あの! あのあのあの! もう十分堪能したっていうか、そこから下はちょっと……ひゃぁっ!?」


 レイヌ様は容赦なく、かつ丁寧にそこへ踏み込んだ。どんどんと、あたしの防衛ラインが懐柔されて、いつのまにかなくなっちゃっているみたいな感覚。


「春乃は胸が大きいな……」

「ちょ……レイヌ、さまぁ……っ!」


 徹底的に、全部を制圧されるみたいに。


「ゃ……ははっ……ちょ、レイヌ様! そこは……んっ」

「……春乃はお腹も弱いのだな……」


 畏れ多いだとか、まるでレイヌ様の身体を好きにできたみたいなあたいの思い上がりを咎めるかのように、立場を刻み込むかのような。


「……へ……? れっレイヌ様!? その下は……そこまで行っちゃうんですか!? た、タイム……! こっ、心の準備が……ぁっ」


 そんな手つきで、あたしは身体の隅々、足の裏までレイヌ様に染められてしまうのだった。



「むー……」

「春乃、そうむくれるな。すまぬ、我もおまえの愛らしさを前に自制心を失っていた」

「怒るに怒れない言い訳……!」


 洗いっこ……のようなやらしい何か……を終えて、シャワーで全身を流し終えたあたしたちは、ついに浴槽へと足を踏み入れた。踏み入れたのだけど、あたしの頭の中は久々のお風呂への感動ではなく先ほどの情事……じゃなくて、なんだ、出来事でいっぱいだった。


 まぁ、そりゃ気持ちよかったですけども……でもいきなりだったし、なによりすごくすごく恥ずかしかったし……でもでもあたしはレイヌ様の巫女(もの)なのでレイヌ様のなすことに文句を言う立場にないというのもあるし……みたいな思いをなんとなく不満げな顔で表現することしかできないあたしを、レイヌ様がなんとか宥めようとしているのが今だった。

「っていうかその、レイヌ様? 近くないですか? 怒ってないので離れてくださいよ」


 すごく今更だけど、レイヌ様はやっぱりあたしに密着していた。どれだけされても慣れないし、むしろどんどん意識してしまう。なにより折角の広い浴槽が宝の持ち腐れなのでもうちょっと離れてくれないかなー、なんて。


「断る」

「ですよねー……」


 知ってた。多分だけど、これも全部あたしがえっちな目でとかなんとか口走ったのが悪いのだ。レイヌ様は明らかにわざとあたしが意識するよう振る舞っている。ほら今も、肩が触れあって、お湯の中で太ももが重なって……あたしの心の平穏はいつ訪れるんだ!? 入浴はこんなにドキドキするものじゃなかったはず……!


「せっかく春乃と一緒に入っているのだ。我は少しも離れたくない」

「そ、そーですか……」


 レイヌ様の体温は、やっぱり少し冷たい。湯船の中でもそれは同じで、その差が心地良い。こう、ちょっとおかしな例だけど、子供の頃に雪をお風呂場に持ってきて、湯船の中で握った雪を溶かした時の感触みたいな……それはちょっと極端か……。


 浮かんできた思い出に縋るように、あたしは自然とレイヌ様を抱きしめる。


「! 春乃……」

「反撃、と言いますか……今日は、されるがまますぎたので」


 ヘンな昂りも落ち着いてきて、あたしはレイヌ様に精一杯の反撃をお見舞いするのだった。

「ところでその、明日は一人で入らせて欲しいと言いますか……」

「何故だ」

「あたしの身が持たないからですよ!」


 こんなドキドキを毎日というのは、さすがに勘弁してほしかった。



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