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冷徹な闇の女神様の孤独を癒したら、甘々束縛生活が始まったんですけど!?  作者: 鐘楼


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レイヌ様の巫女にしてください!

 明日、だなんて悠長なことを言うつもりはなかった。今すぐ、レイヌ様と話したい。そんなあたしの望みを、スルグ様は叶えてくれた。あたしだけを、スルグ様の力で神殿の上層へ送り返してくれたのだ。

 視界が切り替わるのと同時に、あたしは叫ぶ。


「レイヌ様!」


 けれど、変わらず玉座にいるレイヌ様はあたしの方を見てくれなかった。俯いたまま、低い声が返ってくる。


「……何用だ」

「レイヌ様と二人きりで話しに来ました!」


 もう分かった。レイヌ様相手に引き下がってはダメだ。ちょっとの拒絶で臆していては一生近づけない。


「もう……おまえと話すことなどない」

「いやいや! 今日はスルグ様とばっかり話しててあたしとは全然だったじゃないですか! ノーカンですノーカン!」

「……スルグ」


 スルグ様の名前に反応して、レイヌ様は恨みの籠もった声色でその名を呟いた。……おかしい。明らかに。ついさっきまでのレイヌ様も不機嫌だったけど、これほど激しく拒絶するほどではなかったはずなのに。


「あの、レイヌ様……?」

「おまえも結局は……皆スルグに惹かれていく……失せろ、人間」

「っ! ちょ、ちょっと! 聞いてください!」


 レイヌ様が、全然心当たりのないことでめちゃくちゃヘラっている。数分の間に何が……って、この数分であったことと言えば一つしかなかった。


「もしかして、あたしとスルグ様が聞かれないように話をしてたから拗ねてます!?」

「我に聞かれぬように奴と話をする。大方、助けでも求めていたのだろう? 奴ならば、異邦人であろうと人間を悪いようにはせぬ。道理で賢明な判断だ。勝負も賭けもなかったことにして、どこへでも好きに逃げれば──」

「レーイーヌーさーまー!」


 我慢できずに、無理矢理にでも近づいてレイヌ様の視界に入る。俯いた顔を上げるために触れた肩は、今にも壊れてしまいそうに思えた。


「あたしがスルグ様と話していたのは……その、聞いていたんです。お二人が、お二人になった経緯とか……」

「……っ!」


 ここで誤魔化すのは、ナシだろう。そう判断して、あたしはスルグ様に何を聞いたのかを打ち明ける。くっ、スルグ様の配慮が仇になるとは……いやでも、防音なしで聞いてたらそれはそれでレイヌ様の邪魔が入ってたかも。


「……そうか。ならば分かっただろう? 我は奴の絞りカスのような存在。おまえたちが我を忌み嫌い恐れ遠ざけるのは当然のことだ。もっとも、我とて奴のように人間に慕われ愛されるなど反吐が──」

「レイヌ様! あたし、柊春乃は何もできません!」

「…………は?」


 口にするほど段々と事実になってしまいそうな呪いの言葉を断ち切るように、あたしは叫ぶ。さすがに突拍子がなさすぎて、目を丸くするレイヌ様に、言いたいことを畳みかけてやる。


「いきなりこの世界に飛ばされて、わけも分からなくて……村の人に見つけてもらえてなかったらそこで死んでました。それからも、村の生活ではあたしが学んできたことが何にも活かせなくて、巫女って立場がなかったら早々に捨てられてたと思います!」

「……見れば分かる」


 つまり、何が言いたいのかと言えば。


「だからあたしは、レイヌ様がいないと生きていけません!」

「……誇るようなことか?」


 呆れるように、レイヌ様が少し笑った。これを好機と見て、あたしはレイヌ様の手を握った。


「だから、あたしをレイヌ様の本当の巫女にしてください。あたし、弱っちくて何にもできないので、レイヌ様に守ってほしいです!」


 身も蓋もない。だけど、これは客観的に見たあたしの境遇で、飾りや遠慮を全部取り除いたあたしの気持ちだ。醜いし、身勝手だし、レイヌ様の嫌う人間の姿そのものなのかもしれない。でも。


『怒りに焦がされても、猜疑に囚われても、人間を嫌悪しても。それでも彼女は、人に、誰かに必要とされたいんだ。』


 スルグ様が語った、レイヌ様の胸の内。それならば、必要なのはずっと変わらず自分を必要としてくれる存在だと思うから。


「……おまえは。差し出せるものもなく、我に何か貢献することもないというのに。ただ自分のために我に庇護を求めるのか」

「はいそうです!」

「……ふっ」


 棘のある言葉とは裏腹に、レイヌ様の声色は柔らかい。究極の開き直り精神で答えると、レイヌ様は笑った。


「だがそれこそ、スルグで良いだろう。庇護というなら、奴の方が確実だ」

「いえ! もしスルグ様が今のを聞いたら態度に苦言を言ってきそうだし、あたし一人のことを他の人より優先はしないだろうし、レイヌ様みたいにあたしが欲しいもの創って甘やかしてくれなさそうなので!」

「ふふっ……それは、確かにそうかもしれぬ」


 気まぐれなのかもしれないけど、レイヌ様はあたしが望む調味料を出してくれた。多分だけど、さっきの言い争いからしてスルグ様はそういう神の力に依存した手助けはしてくれないと思う。……そろそろ、自分がわりと最低なことを言っている自覚で苦しくなってきた。


「おまえが……少なくとも今、我を必要としていることは分かった。巫女として、寵愛を与えても良い」

「じゃあ……」

「だが、人の心は移ろう。そういうものだと心得ている。だからと言って我は……一度懐に入れたおまえが離れることを許せはしないだろう」


 とりあえず、今のあたしが本気だということはちゃんと伝わった。だけど、レイヌ様は未来の裏切りへの恐れを拭うことができないでいる。そんな懸念は、本来人同士の関係であればどうしたって払拭できないし、考えてもしょうがないことだ。だけど、レイヌ様にとっては……レイヌ様がレイヌ様になった時から抱えていたとても根深い感情。


「そのことを、どう考える。もしそうなった時、我が何をするのか分からぬ。それでも、おまえは我の巫女になるか?」

「……未来の保証なんてできないです。人間なので」


 これは、どう頑張っても覆せない事実だろう。それはレイヌ様もよく分かっているだろうし、ここで根拠のない綺麗事を言っても意味がない。


「だから……レイヌ様が安心できるくらいに、あたしを縛って良いですよ。レイヌ様はなんでもできるんだから、離れることも刃向かうこともできない状況にしちゃえば良いと思います!」

「それでは……おまえが……」

「その覚悟はありますよ! というか、その気概くらいしかレイヌ様にアピールできないので……」


 大丈夫。あたしはちゃんと本気だ。もう、とっくに成立しないだろう五千年後の物語も関係ない。レイヌ様には誰かが必要だから。その誰かに、あたしはなりたい。それに、なんだかんだレイヌ様は優しいし。もしもがない限り、そう酷いことはされないだろう。


「なぜ……なぜなのだ……? 一体何が、おまえをそこまで……」

「なぜ、うーん……」


 ここまでするのは、なぜなのか。この覚悟はどこから来ているのか。浮かんでくるのは、レイヌ様が根負けして、やれやれといった風にあたしのやりたいことに付き合ってくれた時の表情。


「それはまぁ、レイヌ様が好きなので! ちゃんと一緒にいたいです!」

「……──」

「そういうことなので……どうです? あたしをレイヌ様の巫女(もの)にしてくれます?」

「あぁ……春乃」


 春乃。声の響きが新鮮な気がして、思い当たる。そういえば、やっと初めて名前を呼んでくれたなぁ……なんて、ぼんやり思っていると。


 ぎゅ、と。レイヌ様はあたしに確かめるような抱擁をしてくれた。畏れ多いかなー、とか思ったけど絶対今更なので、あたしもレイヌ様の背中に手を回す。おぉ……なんか幸せだ。


「これから……他の者に心を開くことを許さぬ」

「はい」


 浮気禁止ってことだよね? まぁ、レイヌ様が他に巫女を作るとかなさそうだし、これって実質結婚だよね。それなら当たり前のことだ。


「我の手の届かぬ場所に赴くことを許さぬ。我の認めぬ者と関わることを許さぬ」

「はい」


 危ないから手を出せない場所とか行っちゃダメだし、よく分からない相手と関わるのもダメと。まぁ実際危ないし。あたしだって怖いから念を押されてもやらないと思う。


「故郷に帰ることも許さぬ」

「……はい」


 覚悟はしていた。簡単に未練がなくなるわけもないけど、どうせ帰れる見込みもない。もしかしたら、レイヌ様同伴で里帰りくらいならできるかもだしね。


「それから、今日からここで毎日我と過ごせ。必要なものはなんでも出す」

「あ、はい」


 ……しまったな。ミナちゃんになんにも言ってないや。でも、必要なものはなんでもかぁ。こうなったら全力で甘えてやるし、夢が広がるなぁ。


「壊れることを許さぬ。忘れることを許さぬ。背くことを許さぬ。拒むことを許さぬ」

「………………は、はい」


 あれ、なんか抽象的でよく分からなくなってきたし、雲行きが怪しくなってませんか?


「そして……死を望むことを許さぬ」

「………………………………………………」


 や、やばい。急に冷や汗が吹き出てきた。あれ、もしかしてあたし……。


「もう離さぬぞ、春乃」


 結構、やらかしちゃってる感じですか……?


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