第14話 信用
「うああああぁぁぁぁ!!!」
朝のホームルームで田部日和が事故にあったと聞いた時、新海清彦は周りの目なんか気にしていられなかった。そこに偶然さは感じなく、意図的なものとしか思えない理由があった。フランソワ・ヴィドックに言われたあの言葉のせいで、頭の中の処理速度は誰に求められなくなる。東条アリスが思わず新海を見て何か叫んでいたがそれさえも耳に入らない。
担任が新海をなだめる。東条も流石にそれに便乗して、彼をなだめてくれた。
担任もかなり驚いているが、何か言いたそうな顔をしていた。
「ま、まぁ、そう焦るな。別に死んだ訳では無いよ。重傷だがいきている。安心しろ」
「本当ですか! ……よかった…」
余りにも驚いたり泣いたり叫んだりで気が動転しすぎていた。東条も呆れている。相変わらず新海らを見るクラスの目は冷たい。
とりあえず、落ち着いてショートホームルームを終わらせる。そして、時間を飛ばしてお昼休み。
新海は東条の所へと来ていた。
「あぁ〜マジでよかった〜。生きてたぁ〜」
「あんた何をそんなに顔をぐちゃぐちゃにするくらいになってんのさ。意味わかんない。もしかして田部さんも本に関わってきたの?」
そうだ、彼女はまだ知らなかった。新海は田部日和が本に関わってきたことを伝えた。
「そうなんだよね。田部さんはすごく頭が良くて協力的なんだ。多分クラスメートとかが心配になると動かずにはいられないらしい」
「なるほど、正義感が強いんだね。んで、その田部さんがどうしたのさ」
「フランソワなんちゃらとか言うやつがさ、変なこと言うからさもうダメかと思ってて」
「誰よそれ」
「ん、あの茶髪ボブ男子。朝うちらになんか文句つけてたやつよ」
「あー、あいつの事ね。フランスなんちゃらっつうのか。あいつがなんか言ったの?」
「すっげー意味深なこと言い出したんだよね。『田部さん、残念だったね』ってさ」
「待って、あいつそんなことを言っていたの?」
「うん。まるで知ってたみたい……まさか!」
「恐らくそのまさかよ。あいつは田部さんの事故に絶対に関係してるわ。じゃなきゃそんなこと言うはずがないもの」
「あいつが殺そうとしたりして……」
「いや、でもどうしてそんなことをする必要があるの? あいつも本のことを知っているのかしら。田部さんがいると困る理由でもあるのかしら?」
フランソワ・ヴィドックはなぜ田部を殺そうとしたのか。
考えられるのは田部が本の事に触れてしまったから。奴が本に関係していて、本のことを知られたくなかったら関係する奴らを殺そうとするだろう。ということは新海らの命も狙われていることになる。
「恐らく俺たちの命も狙われている。だから奴には関わらない方が身の為かもしれない」
新海たちはフランソワ・ヴィドックについてやそれに関係してくる本の事などについて少しの間作戦会議を行っていた。すると噂をすればなんとやら、フランソワ・ヴィドックの方から接触してきた。
「やぁ、お二人さん」
「何か用?」
東条は早速ガンを飛ばしている。端から警戒心を剥き出しにして答える。
「僕は君たちに謝らなければならないことがある」
「へえ、それは田部さんを殺そうとしたことかしら?」
「とんでもない! そんなことをしたつもりは無いよ」
「嘘よ。そうじゃなきゃ、新海くんにあんな事を言うはずかない」
「あれには訳があってね……」
とフランソワ・ヴィドックは自分のことについて話し始めた。彼の様子を見ると彼からは敵対心がなさそうに見えるが……。
「実はね、親が探偵事務所を経営していて、僕達の方に情報がかなり飛び込んでくるのさ。新海くんに僕の事を信じてもらおうと思って最新の情報を渡したつもりだったんだけどタイミングが悪くてね。新海くんを怒らせるようなことをしてしまったから改めて謝りに来たんだ。」
「そういう事だったんだ。なら仕方ない。って簡単に信じると思う? あなたが犯人なら田部さんが怪我をしたって分かるし、探偵になんかならなくても分かることよ。もし、うちら達の事を協力したくて信用が欲しいなら見せてもらいたいものね。あんたがうちらの敵じゃないってことを」
東条アリスはまだ引かない。
「わかった。それなら、あの本のことについて言えばいいのかな?」
「……本? なんの事よ」
奴に悟られないようにと、知らないふりをするアリス。
「魔性ノ本とか言うんでしょ? あまり大きい声では言えないけど、異次元に行けたりするあの本だよ」
まるでフランソワ・ヴィドックは俺たちのことをなんでも知っているみたいだ。少し怪しい部分もあるけどかと言って敵意丸出しって言うわけでもない。沢山情報を持ってると言っているし、こいつは利用した方が良さそうだと俺は思った。
俺の席で立ったまま緊迫状態が続いてる二人に席から立って二人の間に入り俺は、
「まぁまぁアリス、少し落ち着いて。この人が協力してくれるって言うようだし、少しでも情報が多い方がいいと思うから協力してもらおうよ。」
「は、落ちついてるし。だって怪しいでしょ! 別に仲がいいわけでもないのに急に協力させてくれなんて普通は言わないよ」
お世辞にも冷静さを保っているようには見えない。
「本のことが絡んでる時点で普通じゃない。時には柔軟に行動するべき」
新海はなんとか東条を説得してフランソワ・ヴィドックにも協力してもらうことにした。
時は過ぎ放課後、担任の先生から田部が入院している病院の名前と場所を聞き、御見舞に行くことにした。
「田部日和さんはこちらの部屋になります」
看護師に案内され田部さんがいる部屋にたどり着いた。右手に持っているエーデルワイスの束の端は少し力んで形が崩れてしまっていた。
戸を軽く叩いて失礼しますと一言添えて中に入っていくと、ベッドで寝ている田部さんを発見した。
一定の間隔でなり続ける機械音。時が止まったような空気。田部さんの呼吸。味わったことのない静寂が部屋を包む。
窓の近くに置いてある瓶には何の花かわからない程に枯れている。その瓶に俺が持っていた花と交換し、田部さんの方に振り向いて一礼して部屋の戸に手を掛けた。
その時、
「……ど…………どうして……! 私がっ……! そこにいるの?!」
田部さんが謎の言葉を発していた。しかし寝たままで意識がないからもしかして変な夢でも見ているのだろうか。特に気にもせずに部屋をあとにした。