第4話:焼ける都
――応仁元年〜文明元年(一四六七〜六九年)、京。
京が、燃えた。
一度ではない。何度も、何度も、燃えた。東軍が火をかけ、西軍が火をかけ、足軽が火をかけた。風の強い日には、火は通りを越え、町を越え、一日で、何百軒を灰にした。
相国寺が、燃えた夜のことを、捨丸は、忘れなかった。
将軍の祖父・義満が建てたという、京で指折りの大寺である。天を圧する大きな建物が、堂や塔を連ねていた。その寺に、戦の火が燃え移った。柱が焼け、堂が崩れ、仏像が炎の中で黒く溶けていった。高い堂や塔が、夜空に、巨大な松明のように燃え上がった。
捨丸は、その火を、焼け跡の物陰から見ていた。
美しい、と思ってしまった。
いけないことだと、思った。寺が焼けるのを、美しいと思うなど。でも、その巨大な炎は、地の底で生きてきた捨丸が、生まれて初めて見る、壮大なものだった。武士たちが、何代もかけて建て、飾り、誇ってきたもの。それが、一夜で、天を焦がして崩れていく。捨丸の知らない、雲の上の世界が、燃えて落ちてくる。
逃げ惑う人々が、通りを走った。
武具を捨てた武者も、子を背負った女も、燃える家から這い出た老人も、同じ方へ流された。捨丸は、その流れの中に、奪うものを探した。倒れた者の懐を、捨てられた荷を。それが、捨丸の戦だった。
公家たちが、京を捨て始めた。
千年、この都に住み、雅を磨いてきた家々が、戦火に焼かれ、食うものもなくなり、地方の大名を頼って、下っていった。和歌の家が、朝廷の儀式や作法に通じた家が、書物と作法を抱えて、田舎へ逃れた。彼らが携えていったものが、やがて、地方の土に根を下ろし、思わぬところで花を咲かせる。捨丸には、知る由もないことだった。
ある日、捨丸は、東の高みに、御所の屋根を見た。
戦火を免れた一角に、将軍の御所は、まだ建っていた。
あそこに、将軍がいるという。
足軽たちが、噂していた。将軍は、戦を止めもせず、ただ、庭を造り、宴を張り、燃える都を高みから眺めているだけだ、と。あの御方は、何もしない。できない。武家の頂点にいながら、自分の都が焼けるのを、見ているだけだ、と。
捨丸は、その屋根を、見上げた。
雲の上の、何もしない影。地の底で、奪って生きる自分。同じ京に生きながら、二人のあいだには、天と地ほどの隔たりがあった。
でも、捨丸は、ふと、思った。
あの将軍も、おれと同じで、この戦を、どうすることもできずに、ただ見ているだけなのかもしれない。高みにいる者も、地の底にいる者も、誰も、この火を、止められない。武家の頂点から、足軽の最下層まで、誰一人として、自分の都が焼けるのを、止められない。
それは、奇妙な戦だった。
誰もが戦っていて、誰も、止め方を、知らなかった。




