第3話:骨皮道賢
――応仁元年〜二年(一四六七〜六八年)、京。
捨丸を束ねる男――骨皮道賢の掠奪には、ただの盗みにはない、奇妙な秩序が、あった。
焼け跡を漁るのは、どの足軽も同じだ。でも、道賢の下では、それが、ばらばらの押し込みでは、なかった。どこを、いつ襲うか。誰が見張り、誰が運び、誰が斬るか。すべてが、決められていた。掠奪が、戦の作戦のように、組み立てられていた。名乗りも作法もない代わりに、武士のどの軍勢よりも、よほど、統制が取れていた。
捨丸は、その道賢の下で、使える足軽に、なっていった。
震えていた手は、もう、震えない。どこに銭が隠されているか、どの蔵が破りやすいか、捨丸は、嗅ぎ分けるようになった。道賢に名を覚えられ、わずかながら、人の上に立つことも、覚えた。地の底で生まれた捨丸が、初めて、何者かになりかけていた。
道賢の、おもしろいところは、武士が、その道賢を、頼ったことだった。
名門の守護や、その家来が、名もなき盗賊あがりの道賢に、頭を下げて、放火や掠奪を頼んだ。表立っては手を汚せぬ武士の代わりに、道賢の足軽が、敵の陣に火をかけ、敵地を荒らした。道賢は、東軍に――管領・細川の側に、雇われていた。武士の戦の、汚れ仕事を、一手に引き受けていた。
つかのま、道賢は、京の闇の王だった。
武士が頭を下げ、足軽が従い、焼け跡の富が、道賢のもとに集まった。地の底から這い上がった男が、戦という裏返った世で、束の間、高みに立った。捨丸は、その道賢を、まぶしく、見ていた。盗賊あがりでも、あそこまで行ける。おれも、いつか――と。
でも、その王国は、長くは、続かなかった。
あるとき、道賢は、稲荷の山で、討たれた。雇い主に見限られたのか、敵方の急襲を防ぎきれなかったのか。とにかく、あれほど足軽を束ね、武士に頼られた男が、いざ討たれてみれば、誰にも、惜しまれなかった。雇っていた武士の誰一人、道賢のために、弔いの一つも、あげはしなかった。使い終えた道具を、捨てるように。
捨丸は、道賢の死を聞いて、ぞっとした。
足軽の王ですら、使い捨てだった。武士に雇われ、武士の汚れ仕事をして、用が済めば、虫のように捨てられる。道賢ほどの男で、それなら――自分のような一兵など、いつ消されても、誰も気づきはしない。武士は、足軽を、人とは思っていない。銭で雇い、使い、捨てる、ただの数だった。
それでも、と捨丸は、思った。
道賢は、死んだ。でも、道賢のような者は、また、湧く。京には、捨丸のような者が、何千といる。一人殺しても、十人、湧いてくる。武士は、足軽を、いくらでも使い捨てる。でも、その使い捨ての、数の知れない足軽が、武士の都を、焼き、崩していた。使い捨てられる側の、その数の重みが、使う側の世界を、地べたから、確かに、食い破っていた。




