第5話:灰の都
――文明五年〜九年(一四七三〜七七年)、京。
文明五年、義政は、将軍の座を、子の義尚に譲った。
義尚は、まだ幼い。実権は、母の富子が握った。義政は、政から、いよいよ遠ざかった。遠ざかって、東山に、新しい山荘を造ることを、考え始めていた。都が焼けている、その同じ京で。
文明九年、戦は、終わった。
勝者は、いなかった。
西軍の諸将が、もう面目も立たぬと、ぞろぞろと国へ引き上げ、それで、戦は、自然に立ち消えになった。和議が成ったわけでも、どちらかが屈したわけでもない。ただ、戦う者がいなくなって、終わった。十一年であった。
残ったのは、灰だった。
高みから見下ろせば、都は、焼けた区画と、辛うじて残った区画とが、まだらに継ぎ合わされた、見も知らぬ町になっていた。祖父・義満が飾った壮麗は、その継ぎ目のどこにも、見当たらなかった。
今はただ、京は、灰の都だった。
その年の秋、義政は、東山へ、馬を出した。
供は、少なかった。焼け残った町を抜け、鴨の川を渡り、東の山裾へ入る。道の両側には、焼けた家の柱が、まだ黒いまま立っていた。人が住んでいるのか、いないのか、分からない小屋が、ぽつぽつと建っていた。
義政は、それらを、見なかった。
馬の首を、山の方へ向けたまま、ただ、坂を登った。
やがて、寺の古い跡地に出た。かつて浄土寺という寺があった場所だという。乱の前から荒れていて、今は、礎石がいくつか、草の中に埋もれているだけだった。
義政は、馬を下りた。
斜面を、少し登った。振り返ると、京の町が、下に広がっていた。
焼けた区画が、黒い。残った区画が、灰色い。その二色が、まだらに、地面を覆っていた。祖父が金の楼を建てた北山は、右手の遠くに霞んでいた。
義政は、しばらく、それを見ていた。
それから、体の向きを変えた。
目の前には、何もなかった。草と、石と、木立と、斜面。人の手が入っていない、ただの山だった。
「……ここは、まだ、焼けておらぬ」
供の者は、その意味を、測りかねた。
義政は、足元の石を、一つ、拾い上げた。掌の中で、しばらく、重さを確かめた。
将軍として命じたことは、一つも、その通りにならなかった。和を命じても、嗤われた。都を守ろうとしても、焼けた。跡継ぎを決めようとして、十一年の乱になった。この二十年、義政の言葉に従ったものは、何一つ、なかった。
石だけが、置いた場所に、在る。
置けば、そこに在る。動かせと言わなければ、動かない。義政が生涯でただ一つ、思い通りにできたものが、それだった。
「ここに、庭を造る」
義政は、そう言って、石を、草の上に、置いた。
どこに何を置くかは、まだ何も決まっていなかった。ただ、その一つの石だけが、山の斜面に、置かれた。
灰の都の主は、こうして、京に背を向けた。




