ベンチの上で
この公園のベンチはいい。
広く見晴らしのいい空間で、風に揺れる草木を眺めながら、程よく日差しが暖かい。
騒がしい声も少ない、吾輩のお気に入りの場所だ。
今日はその場所に、先客がいた。
ここを選ぶとは、なかなかいい趣味だ。
特別に、吾輩と一緒に座ることを許そう。
……しかし、吾輩の隣に座った人間は、ずいぶんと動きが鈍い。
怪我でもしているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
ただ、重い何かを背負っているだけのようだ。
プシュ、と小さな破裂音がした。
隣の人間が金属の筒を開ける。
苦い匂いが風に乗ってくる。
薬か何かかと思ったが、あの顔を見る限り、あまり効いてはいないらしい。
もう一口、薬のようなものを喉を揺らして飲み込んだ後、人間は長く長く息を吐く。
怪我でもしたのかと思い、耳を向けてみるが、特に異常は見当たらない。
ただ、吐いた分だけ楽になっているようにも見えない。
無駄な動きだ。
吾輩は代わりに欠伸を一つする。
こちらの方がよほど効率がいい。
人間が足を組み替える。
少し遅れて、吾輩も体勢を変える。
理由はない。
ただ、日差しの当たり方が似ていたからだ。
……たぶん。
やがて人間は、缶を持ったまま静かに立ち上がった。
去るかと思ったが、数歩進んで、また戻ってくる。
人間はわずかに口元を緩め、すぐに視線を外した。
どうやら、吾輩を見ていたらしい。
理由はわからない。
吾輩は目を細める。
日差しはまだ悪くない。
理由はわからない。
だが、この距離は、嫌いではない。




