井戸端会議
人とは、なんとも不思議な生き物である。
吾輩が日の暖かさを堪能している時も、曙色の毛並みを整えている時も、小生意気な鳥を追い払っている時も――あの者たちは毎日飽きもせず、同じ場所、同じ時間に集まっては、縄張り争いを繰り広げている。
……どうやら、あれが彼らの日課らしい。
理解はできないが。
縄張り争いが始まるのは、決まって大きな箱の怪物に子を詰め込んで去った後。
はじまりの合図がある訳では無いが、箱が見えなくなった後に縄張りの主張が聴こえてくる――
縄張りの主張は、たいてい「苦労」という形をしている。
「うちは朝が早くて大変で」
と、一匹が鳴く。
するとすぐに、別の一匹が尾を高く掲げる。
「それはまだいい方よ。うちは夜も遅いの」
さらにその声を遮るように、別の一匹も鳴いた。
「うちなんて、早く寝かせたいのにお義母さんが――」
吾輩は欠伸を一つして、前足を伸ばした。
どうやら彼らの世界では、
より過酷な環境に身を置いている方が優位らしい。
理解はできない。
中には、子の出来を誇示する鳴き声も混じる。
「もう一人でできるのよ」
「うちは先生に褒められて」
「うちなんて、たまたま偉い先生の目に留まったみたいで」
未熟な子ほど守るのが自然だと思うのだが、
人はどうやら、早く手を離れた方が誇らしいらしい。
不思議な価値観だ。
よく鳴くし、よく群れるし、忙しそうだ。
正直、理解はできない。
だが、あの輪の中にいるときの顔は、悪くないと思う。
「それでね、この前――」
一匹がそう鳴くと、他の者たちはわずかに目を細める。
尾は緩やかに揺れ、声も先ほどより柔らかい。
先ほどまでの縄張り争いが嘘のようだ。
吾輩はまた欠伸を一つ。
人とは、なんとも不思議な生き物だ――




