8-2 アクセル記念②
ベレー様も、ユークスラメル号の実力じたいは随分と認めておられるようだ。
実際、エルダープサー号はソスラン金杯から中一週でバトラズ杯を飛んだが、ユークスラメル号も、バトラズ杯から中一週で騾馬ステークスに出翔し、見事に勝利を収めた。競争の格の違いはあれど、正確な調教を経て競争に臨んだことには違いない。
リスティス競竜場は、エレイン様の本拠地だ。ロンセスバージェス競竜場が、ザラエグ様を筆頭とするロラン家の本拠地なのと同様に、である。ゆえにエレイン様は、普段は真面目ではないというわけではないが、リスティス競竜場での競争 に関しては、十二の重賞に対するものに勝るとも劣らない、並々ならぬ想いを抱いているようではある。
ザトッグ家は古くから続く騎士家の一つであり、そこもロラン家と符合する点ではあるが、一つ、大きな相違点があり。
「来たなベレー! そしてエムリス!」
騾馬ステークスの、翌々日。
リスティス競竜場にて僕とベレー様は、そうエレイン様に歓迎された。
大きな相違点とは――ロンセスバージェス競竜場が、競争当日以外での開放がいちじるしく制限されるのに対し、
リスティス競竜場は、常に広く開放されている、という点である。
僕とベレー様、そしてテルビナは、エレイン様に招待され、今日はここで調教を行うこととなったのだった。
「お久し振りです、ベレー様」
エレイン様の後ろに控えていた男性が、一歩前に出てベレー様に頭を下げる。僕より目線が高い、すなわちエレイン様より上背があり、ぎらぎらとしたエレイン様とは打って変わってその瞳は穏やかだ。事前に話は聞いていたが、彼が、ユークスラメル号を担当する調教助手なのだろう。
「エルフィンだ。よろしく」
続けて彼――エルフィンさんは、僕にそう声をかけてくる。
「エムリスです。よろしくお願いします」
僕は頭を下げてそう返した。
「今日はベレーが併せ竜をしたいとのことだったので特別に、時間を作ってオレが乗ってやろうではないか!」
……どこまでが真実かは分からないが。
何はともあれ、そうして今日の調教は始まった。
「アヒューイルさんには、いつもアルザがお世話になってるよ」
練習場へとテルビナと、ユークスラメル号を曳いていく道すがら、エルフィンさんはそう話を振ってくる。
「アルザさんと――お知り合いですか」
「同期なんだ」彼は笑う。「どう。厳しいのかな、やっぱり」
「まあ結構……」自分が悪い時もままあるが。大抵は、彼女の調教への熱意がそうさせるわけで、納得はしている。
「変わっていなそうで安心したよ」彼は笑顔を崩さない。そんな物腰の柔らかさに、好印象を覚えた。「――それで今日は。うちのラメルと、ヤチルテルビナの併翔ということだけれど」
瞬間、エルフィンさんの眼がスッと細くなる。
「今日こそは、先着できるようがんばらせてもらうよ」
そのまま細くなり――瞼が完全に閉じられると、真ん中でかくっと折れて山型を作った。
なるほど。
彼の熱意もまた――本物というわけか。
ちなみに、併せ竜と併翔は同じ意味だ。
ベレー様とエレイン様の用意が終わり、併翔が始まった。




