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赤き竜のための協奏曲  作者: 烏合衆国
第七章 ヤチルヴァール 
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7-4 バトラズ杯


〖――翼を閃《ひらめ》かせ――入線《ゴール》! ライル記念一着はカナンレンクグ! カナンレンクグ、これにて二冠を得られました!〗




 萌芽月のライル記念。

 勝利したのは、アルガ様の騎乗された、カナンレンクグ号。


 アルガ様は、ゼイケデイス号の騎手でもあるということで、ミレイは嬉しそうではあったが、彼女の最推しは、僕と同じでベレー様であるため、一片の曇りなしとはいえない。


 そのベレー様が騎乗されたジェディキッス号は、今回は三着。

 ここまで、戦績は拮抗している。エルダーイザール号とカナンレンクグ号が二冠。一冠竜が、ジェディキッス号、カルフアップ号、カバルダーガイン号、ジルカモンガ号、メイルシオン号の五頭。十二の重賞の四分の三までが終了し、重賞勝利竜は七頭という状態だ。

 二世代前が七頭、一世代前が六頭であったため、この世代だけ多い、ということはないが、先月のダノワ記念の時点では二冠竜が一頭で一冠竜が六頭と、かなり分散していたため、カナンレンクグ号の勝利により、ようやく例年通りかというところなのである。




「二冠――というのは、二勝ということなのかしら」

 ヒルデガルトはそんな素朴な疑問を口にした。

「そうです」

「違うだろ」

 ミレイの返答に、僕はすぐに訂正を入れる。

「え?」

「二(・)冠(・)――『冠』っていうのは、十二の重賞の勝利数にしか使われない。たとえばカナンレンクグ号は、十二の重賞はアクセル記念とライル記念の二勝だけど、他に霜降ステークスを勝ってる。つまりカナンレンクグ号は、成績としては三勝。特に二冠を獲ってる、という言い方になる」

 そこまで言って、ヒルデガルトを見ると、その瞳は理解の色に潤んでいた。学ぶことが好きな者の目だ。

 一方のミレイは、僕を疎んでいる目だ。そこまで本気で細かく教える必要はないと思っているのだろう。しかし少女には、学ぶ意思がある。ならば、先達として教えるべきことを教えるべきだろう。


「そういえば、この間――大帝賞の後は、どうやって帰った?」

 競争《レース》が終わって、帰宅する段階で、僕はヒルデガルトにそう尋ねる。少女は、またもやミレイにぽしょぽしょと耳打ちをすると、

「あー、わたしが後は送るよ。送るっていうか、どうにかするよ」

 ミレイが言う。表現が曖昧で、不安ではあるが――観戦前、僕を引き留めたように、彼女はあまり自分の負担になり過ぎる、責任が大きくなり過ぎることを好まない。よって大丈夫というからには、少女に耳打ちされた内容が、簡単にこなせることだったのだろう。恐らくは、どこかにいる少女の両親なり召使なりを見つけて引き渡す、くらいのことを任されたのだと思われる。

「そっか。じゃあよろしく」

 僕は軽く手を振ってその場を立ち去る。


 競竜場はいい。競争《レース》への熱を定期的に思い出させてくれる。

 テルビナの次の重賞はまだ二ヵ月先だが、それまでにやることは山積みだ。

 ここまで二冠、いい調子である。これからも気を抜かずに調教を続けたい。


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