6−2 オリヴィエ記念②
季節は巡り、年末のタルギタオス記念の、観客投票が執り行われている。
今年の四歳竜世代、僕は当然ボンヴァルノン号に投票する。
グィーベは、成績的にはボンヴァルノン号とファンディルサーガ号が同率三冠のため、どちらかから選ぶだろうが、プサーにも騎乗して頂いている、ザラエグ様の乗られるファンディルサーガ号――というような贔屓目ではなく、ベレー様が今までタルギタオス記念を勝ったことがないから、より確率の高いファンディルサーガ号に投票する、という思考回路だろう。殴りたい。
グィーベはどうでもいいとして、シャーラやミレイがどの竜に投票するのかが気になった。二人も、グィーベと同じで自らの調教する竜の騎手にそこまで思い入れがあるわけではなく、自由に選ぶと思われるので、選んだ竜で性格や志向を捉えてみたいと考えたのだ。
「バーゲンレックスかな……」
シャーラに尋ねると、そんな答えが返ってきた。バーゲンレックス号は、昨年のアクセル記念を勝利した竜だ。主戦騎手はファジン・ラークティカ様。ここまでの十戦中、ボンヴァルノン号とファンディルサーガ号が三冠、アフカード号が二冠を獲っている中で、一勝を挙げた実力ある竜ではあるが、シャーラは竜券を買う人間であり、グィーベ含めそういった人は、好成績の竜ほど好むものだと思っていたが。
「アクセルが好きだから……」
彼は言う。アクセル――“英雄王”アクセル号。アクセル記念の名の由来である竜で、双子の弟のアクセルテグ号と共に、十二の重賞を六冠ずつ獲った、不世出の優龑だ。
成績が同じ二頭というだけあって、どちらを応援するかは、当時から現在まで、競竜好きたちの永遠の議題となっている。
必勝様式でねじ伏せる、絶対強者・“英雄王”アクセル号か。
変幻自在に追いすがる、虹色の翼・“俊英雄”アクセルテグ号か。
僕もかつては、実力で黙らせるアクセル号が好きではあったが、調教助手になってからは、様々な試行錯誤で勝利を狙うアクセルテグ号も好きになってきている。結局、答えを出せない問いというわけだ。
それはさておき、アクセル号が好きだからアクセル記念が好き、というのは――まあ分からなくはない。
「わたしは――ボンヴァルノン、かな」
ミレイはそう答える。
「え」僕は。「なんで」端的に尋ねる。
「あんたも同じでしょ」彼女は怒って応じる。「……ベレー様が好きだから」
まさかミレイと気が合う日が来るとは。確かに果実ステークスで、ベレー様と握手を交わしていた時、やけに緊張しているとは思っていたのだ。
「いや、見る目あるじゃん、やっぱりベレー様だよな、今年こそはタルギタオス記念も獲れるんじゃないかって思うんだよ、ボンヴァルノン号の逃げはこれまでの競竜の歴史の中でも特異なところがあって、異次元とでもいうべきか、魅せる逃げでさ、ボンヴァルノン号だからこそできる飛翔でもあるんだけど、ベレー様が見事に引き出しておられて、」
「うるさいっ」
僕はつい語り過ぎる。自分がベレー様のタルギタオス記念初勝利の手助けをしたい、自分が調教した竜で獲って頂きたいという願いがある一方で、今年にも初勝利を見たいという思いもあり、常に僕の中でせめぎ合っているのである。
ベレー様が好きなら、彼女も、調教するならテルビナがよかったのかなとは、少し思った。
「私はジェディリネーク号に投票したよ」
アルザさんは言った。
「……え?」
「ああ、えっと」
「あのジェディワールズ号の産竜で母竜はヴァルドマリー号の?」
「サタナ記念五着、ロドゥステッブ記念二着、ロドゥティラム記念七着、ひとつ飛ばしてバトラズ杯五着、ふたつ飛ばしてダノワ記念二着、ライル記念八着。勝利したのは雪原ステークスのみの?」
「えっと、ああ」
僕とグィーベの言葉に、アルザさんは頷く。「……ボンヴァルノン号も捨てがたいさ。だけど私にとっての競竜は、やっぱりジェディワールズ号だから」
ジェディワールズ号は、ベレー様の乗られている三歳竜ジェディキッス号の父竜でもあるが、現役成績も種竜成績も素晴らしい竜だ。アルザさんの原点には、ジェディワールズ号がいるらしく、それを大切にする姿勢は、まあ大事なものだ。
アルザさんと分かり合うつもりが、ミレイとは分かり合って(?)、アルザさんとは分かり合えなかった。人生とはそういうものだ。
竜が好きで競争が好きなシャーラ。
騎手が好きなミレイ。
竜が好きなアルザさん。
やはりそれぞれ、重きを置くところが違っていて興味深い聞き取りとなった。
グィーベは、予想していた通りの理由でファンディルサーガ号に投票していたので、殴っておいた。




