6−1 オリヴィエ記念①
剣賞にて勝利を収めたのは、サルダット様が騎乗されているザールカーフ号であった。
テルビナは二着。マカザルーガ号が三着で、ゼイケデイス号は四着だ。
第3コーナーでのテルビナの仕掛。妙手ではあったが、同時に既視感もあった。
サタナ記念だ。早めの仕掛をその時かけたのは、ザールカーフ号である。結果としては二着であったが、そもそも、最初の重賞で、分が悪い作戦を取るとは思えない。サルダット様は、その時点でのザールカーフ号にとってそれが最善だと考えたから、そんな策を講じられたはずだ。
あの時の競争、ザールカーフ号が先頭を飛んでいたのを、一時プサーが追い抜かし、そのまま差し切るかと思われたところへ、テルビナが来て勝利をもぎ取ったわけだが――プサーは三着。抜かしたプサーを抜かし返して、ザールカーフ号は二着に収まったのだ。それだけの実力を、その時から秘めていて、それが結果を伴うものとして遂に明らかになった。
これを見るに、シャーラもなかなかの調教をしていたことは窺えた。僕はテルビナを本気で調教したし、ベレー様も本気で騎乗されたことだろう。しかし、師匠の面目躍如というべきか、シャーラとザールカーフ号、そしてサルダット様に、一枚上手をいかれたのだ。
いい点もあった。ゼイケデイス号対策は結果としては成功したといえる。結局、僕の案はほとんど採用されなかったし、最後の最後、マカザルーガ号が潜っていたところから高度を上げていなければ、ザイケデイス号が差し切っていた可能性もあったが、結果論では作戦成功である。
テルビナはチャタモンガ号の外、ザールカーフ号の外、というふうに翔けたが、
ゼイケデイス号はチャタモンガ号の内、ザールカーフ号の内、というふうに翔けた。外をテルビナが封じていたので当然といえば当然だが、一見苦しくも思える内側を、ゼイケデイス号はやはり超加速で飛ばしてきた。公平に言うならば、テルビナにも、ゼイケデイス号にも、勝利の目はあった。
調子が悪かったのは、プサーである。最終直線で仕掛けたものの、結果は七着。十五頭立てであることを考えれば真ん中より上にはいるが、ゲートも嫌いで雨も嫌いとは、扱いにくそうな竜である。
その調教をしたグィーベは、一緒に競竜場までは来たはずだが、いつの間にか姿をくらましていて、今し方、ミレイが捜しにいった。
「は、外した……」
左隣のシャーラが呟く。その手の券を覗き見ると、買っていたのは――2-3-14、2-3-15、2-14-15の三連複。自分の調教したザールカーフ号を軸に買ったようであるが、着順は2>15>4であるため、少し惜しいが外している。
「グィーベに訊いたのに、プサーは入ってないのか」
僕は訊いた。シャーラが竜券を買いにいった時点では、グィーベはまだ近くにいたはずだ。シャーラはグィーベがいる時はグィーベに相談するため、今回もしたと思われるし、そしてグィーベが、自身の調教した竜に自信を持っていないわけがない。
「うん……グィーベくんは言ってたけど、下見所で、調子悪そうに見えたから……」
シャーラは言って、「二連単にすればよかった……」と続けて呟く。
彼の買い方が下手なのは置いておいて、彼はプサーの不調を下見所で見抜いていたという。まあ観客の目線からそういった判断をするために下見所はあるのだが、意外と鋭い観察眼を持っているようである。そしてザールカーフ号軸。ライル記念で、グィーベの言う通りアフカード軸で買《勝》ったのとはわけが違う。自らが育てた竜を軸にするということは、それだけ自信があったということだ。そして見事に、勝ってみせた。
「負けたよ、今回は」
僕が言うと、
「え、エムリスくんも買ってたの……?」
とシャーラが尋ねてくる。
「いや、そういう意味じゃなくて」もっと観念的な話をしたかったのだが――まあいい。
次の重賞は、来年になる。三ヵ月後の寒波月、オリヴィエ記念。
これまでの反省をしっかり生かしてまた調教に取り組む日々だ。
*
〖――ジルカモンガ一着! ロット記念、ジルカモンガが勝利を掴みました!〗
帝立第二競竜場。
華洛月に開催される三歳竜の重賞、ロット記念。
ロット家の威信を懸けた重賞で、今年は無事、ロット家現当主、アーラム・ロット様の騎乗されているジルカモンガ号が勝利した。去年のロット記念は、ベレー様が騎乗されたボンヴァルノン号が勝利してしまい、その後にはロット家の竜による、妨害工作といえば聞こえは悪いが、競争中の徹底注視という仕打ちを受けた。今世代は、そのような目に合う竜はいなそうであるが、それはそれで喜ばしいことでもない。
ジェディキッス号は、今回も六着と、甲賞での勝利以降、目立った活躍ができていない。
ここまでの成績は、エルダーイザール号が二冠、カナンレンクグ号、カルフアップ号、カバルダーガイン号、そしてキッスが一冠ずつとなっている。まあロット記念は、春の大帝賞に次ぐ距離15フェレンの長距離戦で、最大十六頭立て、半数近くがロット家の騎士様が乗られる竜と、厳しい戦いではあるのだが、これまでも、キッスはあまりいい飛翔ができていない。
勿論ベレー様といえど、毎年毎年、四冠も五冠も獲れるわけではなく、獲れるとしたら逆に不正を疑うべきですらあるが、かといってここまでパッとしない成績であるのも珍しい。甲賞での一着と、オリヴィエ記念での二着のみ連対で、他は掲示板《五着》に入らないことも多々あった。
ジェディキッス号は、ひと昔前の名竜、ジェディワールズ号の産竜だ。ジェディワールズ号は、ヤチルシーム号より前、ベレー様の初舞台より前の世代の竜で、春の三冠・麗三冠を含む四冠を獲り、産竜にも華々しい活躍をした竜がたくさんいる。
その系譜に連なるジェディキッス号、母竜も一冠竜で、期待されないはずがない。
もっとも、一冠を獲れている、それだけで充分に素晴らしいことである。重賞は十二しかない、つまり最大でも、一冠竜は十二頭までしか存在しない。百頭近くいる同世代竜の中で、十二頭の内の一頭になれたのである、その時点で、素晴らしい成績を残したというべきであろうが、
観客は求めてしまう。
最高を。
最強を。
何といっても、“貴竜”ジェディワールズ号の産竜に、稀代の天才、ベレー・ハイジン=ハストが乗っているのである。先走って期待しておいて、負けが込むと白い目で見始めるとは、観客は身勝手だ。
しかしそんな脱構築的な話はさておいても、ここ数年の成績と比較すれば、ベレー様としても不調なのは明らかである。ボンヴァルノン号も、そういえば一時期落ち込んでいた頃があったが、葡萄ステークスを経てのロット記念での勝利があったように、そろそろ対処なり成長なりをして、復活を果たしてもいい時機ではないか。
キッスの調教担当とは交流がないため、今後もいち観客として見守ることになりそうだが、キッスが活躍する結果以上に望むものはない。




