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赤き竜のための協奏曲  作者: 烏合衆国
第五章 ゼイケデイス
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31/41

5-6 剣賞③


〖――葡萄月の最終週、帝立第二競竜場。二歳竜三戦目の重賞、つるぎ賞。生憎の雨天ですが予定通り開催いたします。


〖二歳竜にとっては初となる雨天下での重賞競争(レース)。これまでとはまた違った展開が期待できるでしょう――〗




 雨だ。

 実況されている通り、テルビナたちにとっては、慣れていないものではあるが、この季節の雨は珍しくはない。豪雨とはいわないが、朝からしとしとと降り続いている。


 地面を駆ける競技ではないため、雨でも基本的に競争レースは開催されるが、翼は重くなるため、遅い展開にはなりそうだ。竜の生態としては雨を嫌がる個体は少ないし、牧場の池で水浴びさせることもあり、テルビナも、今朝飛んだ感じは平気そうに見えた。


 剣賞は、サタナ記念・かぶと賞から距離が伸びて10フェレンの競争レースで、やはり前回から入れ替えはある。次の重賞、オリヴィエ記念からは頭数が減るため、ここまでで結果を残せていない竜は、以降の重賞には出翔できにくくなる。




〖――ここまで、サタナ記念でヤチルテルビナが、甲賞でエルダープサーが勝利を収めています。次に栄冠を手にするのはどの竜か。出翔竜の紹介に移ります。重賞初出翔、1番スカサキャロル――〗




 雨の中、下見所パドックに竜たちと騎手たちが姿を現す。




〖――雨の中でもその輝きは失われない。2番ザールカーフ、サルダット・タルギサガス――〗




 サタナ記念二着、甲賞四着と、まずまずの記録でここまで来たザールカーフ号。調教を担当しているシャーラは、相変わらず竜券を買っているようだが、流石に調教のほうも、真面目に取り組んでいるとは思う。サルダット様はベレー様の師匠であるということで、飛行技術や作戦は興味深いが、どうもまだザールカーフ号のほうが、追いつけていないようにも見受けられる。


 続いてエルダープサー号は9番の位置。前回のような逃げは見られないだろうが、仕掛スパートには充分注意したい。


 そして、




〖――果実ステークスでの圧倒的末翼(すえはね)を重賞でも発揮できるか、14番ゼイケデイス、アルガ・オテュール様。


〖甲賞は惜しくも三着でした、その強靭さを示せるか一冠竜、15番ヤチルテルビナ、ベレー・ハイジン=ハスト様。以上十五頭、魔力提出完了までしばらくお待ち下さい――〗




 テルビナは大外の15番。追い込み策は結局一番後ろまで下げるため、枠順はそこまで関係ないが、ここまで外側だと、単純に距離的に不利ではある。

 そして、一枠内側、右回りなので右側にいるのはゼイケデイス号。

 ベレー様に追い込み策の話はしたが、この位置関係では話が変わってくる。ゼイケデイス号のすぐ外を取れるということは、その仕掛スパートの、翔路コース時機タイミングを制限できるということだ。ちょうど今月の、秋の大帝賞にて、エルダーフェス号がマーファハーブ号にしていたような想定イメージである。追い込み策にこだわらず、ベレー様に最終判断を委ねたので、この競争レースがどう動くかは僕もまだ知らない。




〖――魔力提出が完了いたしました。各竜のゲート入りが完了するまで今しばらくお待ち下さい――〗




 十五頭の魔力提出が終わり、1番のスカサキャロル号からゲート入りが始まる。雨は少し弱まってきているだろうか、風も強くなく、場は多少よくなってきた。ただ、よくなってきたというのはテルビナだけの話ではなくほぼ全ての竜にとってである。雨が弱まったことで、競争レース展開が激化することも考えられるため、いよいよ分からなくなってきた。


 プサーは流石に今回は上手くゲートに入れたようで、十五頭のゲート入りはすぐに完了した。




〖――つるぎは誰を選ぶのか、葡萄月の帝立第二競竜場、ロドゥティラム記念、10フェレン。――発翔スタートしました!


〖おっと6番落竜! カガル様が落竜されました、6番ノーアンガーです! さァ先頭は4番マカザルーガ、2番ザールカーフが後を追います!〗




 落竜だ。6番のノーアンガー号に乗っていたカガル様が、発翔スタートしてすぐに、竜の上から落ちられた。雨で滑り落ちてしまったのだろうか。規則ルール上、騎手が落竜しても、すぐに再騎乗すれば競争レース続行は認められる。当然厳しい戦いにはなるだろうが、カガル様も、すぐノーアンガー号の鞍上に戻り、再発翔された。




〖三番手には7番ユークスラメル、12番ディーブリスが並びます! その後ろ、11番タッカートレシルガ、13番カニカルタ、3番チャタモンガはこの位置! 1番スカサキャロル、後ろから甲賞勝利竜9番エルダープサーが睨みを利かせます、外には10番シャッターレックス! 十一番手に8番アクマルハン、並んで14番ゼイケデイス、サタナ記念勝利竜15番ヤチルテルビナはその外につけます! 後を追う5番バルサガ、離れてノーアンガーここから巻き返せるか!〗




 ゼイケデイス号は、存外後方での競争レース展開だ。果実ステークスでの加速を見て、その位置からでもまくれると考えたのだろうか、テルビナで当初思い描いていた追い込み策にも似ている。そのテルビナは、序盤からゼイケデイス号の外を取った。最初から、ゼイケデイス号の選択肢を制限する動きだ。




競争レースはコーナーに入って先頭変わらずマカザルーガ、後ろにザールカーフ、飛調ペースが速いか7番ユークスラメル、12番ディーブリスの前に出ます! 3番チャタモンガが間を詰めて五番手、11番タッカートレシルガ、1番スカサキャロル、13番カニカルタは潜り気味でしょうか! シャッターレックスが上がってきた、その外を、14番ゼイケデイスです、ヤチルテルビナが追いかける、内側のエルダープサーは抑えた飛行です! 8番アクマルハン、5番バルサガが追います、ノーアンガーここでコーナーに突入!〗




 ゼイケデイス号は、テルビナからの危険視マークを嫌ってか、すぐ飛行位置を前に上げた。テルビナも合わせて上がり、期せずしてゼイケデイス号とプサー、二頭を注視できる位置に就く。

 ゼイケデイス号も、今から体力を使う気はないと思われるため、これ以上前に出ることはないだろうが、もし出るとしたら、テルビナはここからは、プサーを注視マーク対象に切り替えるのもアリかも知れない。ゼイケデイス号は、まだ溜めておきたいため、飛距離が長くなる外より内を飛びたいだろう。内に寄っていけば他の竜が外を塞ぐかも知れないし、先頭集団も、税Kデイス号の超加速は警戒しているだろう。それよりは、ゼイケデイス号と一緒に前に出てプサーの動向が分からなくなるほうが怖い。今はまだ、プサーの外を取っておいて、ゼイケデイス号を追うかたちのほうが飛びやすくはある。




〖第2コーナー抜けて直線へ、先頭は順位変わらずマカザルーガ、ザールカーフ、ここでユークスラメルが追いつきます、潜った飛行だ! 雨が強くなってきたでしょうか、全体的に高度が下がっていく! 12番ディーブリス、その後ろにチャタモンガ、シャッターレックスがカニカルタを越えてその隣まで上がってくる! 11番タッカートレシルガ、1番スカサキャロル、ゼイケデイスはその上を取る、ヤチルテルビナはその後ろ、9番エルダープサーは速度が落ちているでしょうか! 8番アクマルハン、5番バルサガ、6番ノーアンガーここまで上がってきた!〗


〖第3コーナー入ってザールカーフ先頭! 2番ザールカーフが先頭ハナを取って綺麗な弧を描きます、高度を下げてマカザルーガ、7番ユークスラメル、12番ディーブリス、3番チャタモンガ、上を通ってシャッターレックス! チャタモンガの後ろには11番タッカートレシルガ、13番カニカルタ、その上にはゼイケデイス、ここでヤチルテルビナ仕掛けた! 十番手の位置、第4コーナーに入ったところでやや早めの仕掛スパートをかけましたヤチルテルビナ! シャッターレックスの外を通って六番手まで追い上げた、チャタモンガもここで仕掛けた、後ろからはゼイケデイス、内を通っては9番エルダープサーも来た! 先頭ザールカーフ逃げ切れるか!〗




 ここで仕掛けるのか。

 僕は笑みをこぼした。


 ふつうは、残りの体力的に、第4コーナーを抜けた辺りで仕掛けるのが定石セオリーとされているが、テルビナはそれより早く、第4コーナーに入ったところで加速した。

 他の誰よりも早い仕掛スパート。これはゼイケデイス号の超加速を封じるための作戦だろう。

 雨のために、翼が重く、多くの竜は高度を下げて飛んでいるが、中には高度を保って飛び続けている竜もいる。先頭のザールカーフ号、シャッターレックス号、そしてゼイケデイス号。ゼイケデイス号が先頭を取るには少なくとも前の二頭を抜かさなければならない下は他の竜が多く抜けられないとして、外を抜けるか、内を抜けるか。上を抜けるのは、自分が雨を浴びて下の竜に楽させることになるため避けるべきだ。外を抜けたいところに、テルビナが上がってきている。ベレー様は仕掛けたといっても、上手く速度を調節して、即座の超加速を躊躇させ、使う時機を《タイミング》を計らせることで――内から、プサーを()()()()()()。プサーは、雨であまり気が乗っていないようにも見えたが、テルビナが加速し、かつ、自分の前の内(ラチ)沿いが開いているのだから、加速しない手はない。


 10フェレンは直線が長い。ゼイケデイス号の抜け道を塞いだとはいえ、まだ残っている翔路コースは、




〖最後の直線、加速していくヤチルテルビナ、そしてその後ろからゼイケデイス号がついてきた!〗




 ヤチルテルビナ号の()()

 ゼイケデイス号の速力なら、喰らいつくことはできるだろう。しかし、




〖先頭ザールカーフ、続くマカザルーガ、まだ飛べる3番チャタモンガ! ヤチルテルビナは躱して三番手、ゼイケデイスはうわずったか!〗




 名門ロット家のチャタモンガ号が、ここで来ないわけがない。想定していたベレー様は上手く躱したが、ゼイケデイス号は躱し損ねて加速をロスする。

 外を通ってテルビナは順位を上げていき、




〖ザールカーフと並んだヤチルテルビナ、翼は衰えを知りません! この激突マッチアップを制するのは、ザールカーフか、ヤチルテルビナか――ここで内からゼイケデイス!? チャタモンガを躱して内から上がってきました! 魅せてくれます超加速、一着争いに参戦します!


〖ザールカーフか、ヤチルテルビナか、ゼイケデイスか――翼を閃かせ――入線ゴール! 接戦を制したのは――






 ――ザールカーフだ! 2番ザールカーフが剣を手に入れました!〗











(第五章 了)


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