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赤き竜のための協奏曲  作者: 烏合衆国
第四章 ジェディキッス
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4−4 甲賞④


 バトラズ杯は、十二の重賞の中で、一番最初に設立された競争レースである。


 人が竜を飼育し、軍事利用し始めていた頃、貴族のバトラズ伯爵は、いち早く()()()()に手を出された。より大柄な竜、より強靭な竜を求めての試行錯誤の日々は、しかし思わぬ転換を迎える。

 騎乗して戦闘することを考えれば、やや小柄で頼りない、しかしたぐい稀なる俊敏さを備えた竜が誕生したのだ。戦闘向きではないその小柄な竜に、バトラズ伯爵は興味を持たれた。不適格個体として処分するしかないはずだったその竜を、競技スポーツ転用することを思いつかれたのである。


 そうして、規則ルール整備を経て、“競竜”なる競技スポーツが作られた。これが国内で大流行し、やがて大帝の名の下で国が管理するほどの規模となり、他国へも広まった。各地で競争レースが開かれ、“重賞”として格上げされる競争レースも増えていった。


 そこでバトラズ伯爵はまた考えた。格調高い競争レースを、同世代の竜たちで数年に亘り競わせれば、更に盛り上がるのではないかと。

 その後、始まったのが、現在まで続く、十二の重賞を三年かけて戦う競争レース体系である。バトラズ杯は、その功績を称えられ、まだ十二競争(レース)のうち半分も決まっていない頃、最初に正式決定した競争レースにその名を残す栄誉を賜った。




 それがバトラズ杯。流水月の帝立第三競竜場、十二頭立て、距離12フェレン。十二の重賞の中では、タルギタオス記念に次いで距離が長い。


 三歳竜最初の重賞であり、二歳竜の四戦を翔け抜けてきた猛者揃いの激戦である。

 第三競竜場ということで、先月のサタナ記念と同じ場所での競争レースになるが、観戦面子(メンバー)は先月の半分しかいない。


「グィーベ居ないのに買うのか」

 僕はそう、右隣のシャーラに声をかける。

「うん……」

 彼はそう新聞に隠れてくぐもった声で応じた。ここのところ勝ち続きで、すっかり憑かれ(ハマっ)てしまったようである。言って控えさせたほうがいいかも知れないが、一度こっぴどい負けを見せ、賭博から距離を置かせる荒療治のほうが効く気もする。まあ中毒者ジャンキーなら賭博の負けは賭博で取り返そうとするから、危険との背中合わせでもあるが。

 僕がそんなどっちつかずな態度でいると、






〖――翼をひらめかせ――入線ゴール! バトラズ杯、一着はエルダーイザール! つるぎ賞に続く二冠目! そしてこれにて騎手ザラエグ様、史上初のバトラズ杯三連覇を達成!〗






 三歳竜世代最注目株のエルダーイザール号が二冠目を挙げた。このエルダーイザール号、既に二冠を獲っているだけでなく、ここまでの重賞五戦を全連対しているのである。


 そして更に、ザラエグ様のバトラズ杯三連覇。バトラズ杯の三連覇は、実況が言っていた通り、長い競竜の歴史、それも一番長く続く重賞であるバトラズ杯をして、初の快挙である。エルダーフェス号。ファンディルサーガ号。そしてエルダーイザール号。ベレー様が活躍される前から、ザラエグ様は騎乗し戦っていらっしゃったわけだが、ここに来て、競竜界にまばゆいばかりの存在感を表された。


 ベレー様の乗られたジェディキッス号は、惜しくも四着。かぶと賞での勝利以来、厳しい戦いが続いていて、鞍上のベレー様も、ヘルムの奥に苦しそうな表情を見せられる。


 さて、シャーラはというと、

「じ、じゃあこれで……」

 そそくさと、席を立って帰っていった。いや、あれは換金しにいったのだろう。どんな券を買ったかは知らないが、今の表情は喜んでいた表情だ、数年来の付き合いだから読める。長い前髪で、読み取りづらくはあるのだが。

 今日は、グィーベの助けなしに当てることができたらしい。いや、前にグィーベも言っていたことだが、出翔竜とその枠順は事前に告知されるから、ここに来る前に、グィーベに訊きに言っていたのかも知れない。何にせよ、まだしばらく、彼が賭博をやめることはなさそうである。


 というか、なぜグィーベは来ていないのか。これまでも、一緒に競竜場まで来ていたわけではないが、重賞競争(レース)の日は競竜場に足を運ぶようにとは、先生に言いつけられていることだ。そもそもグィーベは競竜は重賞に最も価値があると考えている性質タチなので、今日のバトラズ杯を見ずに他の競争レースを見にいっているとは考えにくく、必然的に、彼は今、調教をしているのではないかという結論に至る。


 それだけ、サタナ記念での敗北を引きずっているということなのだろうか。


 何にせよ、バトラズ杯三連覇の瞬間を見られなかったのは非常に勿体ない。グィーベは、基本的に竜を成績準拠で評価するため、こういった『史上初』という枕詞のつく成績には非常に弱いのだ。彼が調教したプサーで、四連覇を狙うことは当然考えるだろうから、そちらのほうが歴史的瞬間といえばそうなのだが。


 シャーラが帰ってしまったため、僕も席を立ち、独りで帰ることにする。シャーラとミレイは、重賞を観にいくよう言われているかどうか分からないのだが、今日はミレイはいなかった。まあこれまでも競竜場でそんなに会ってはいなかったので何でもいいが、彼女の調教している竜が気になっている。

 ゼイケデイス号。

 サタナ記念ではチャタモンガ号の追い上げにされつつも、掲示板《五着》に齧りつくという、粘り強い飛翔を見せた。騎手は最近話題のアルガ・オテュール様。ザラエグ様もかなりの強敵だが、アルガ様も、新たな刺客になり得ると予感している。


 勿論そういう意味では、シャーラの調教するザールカーフ号、その騎手のサルダット様も充分警戒すべき相手ではあるが、ベレー様の師ということで、対策についてはベレー様が自らなさるだろう。


 わざわざ競竜場に足を運ぶのは、様々な情報収集の意味も兼ねているのだと思う。何も騎手や、調教師でなくとも、その辺にいる観客から、思いもよらない話を聞くこともあるだろう。何が役に立つか分からない、いや、これまでの経験を全て動員して、竜とは向き合っていかなければならない。


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