3-6 サタナ記念⑥
僕たち四人の担当竜は皆、掲示板入りを果たせたわけだが、
当然、グィーベが結果に満足したはずがなく。
テルビナどころか、ザールカーフ号にも最後の最後で差し切られ、かなりの僅差ではあったが敗北してしまったことに、かなり衝撃を受けているようだった。ちなみにシャーラは、3-6-10の三連複が当たっていたため、ご満悦の様子である。
「チッ」
グィーベは、舌打ちをして独りで去っていく。「あ、グィーベ君――」ミレイも、彼の流石の剣幕に、ついていくのを躊躇したと思ったら、僕のほうを睨んできた。「……なんだよ」
「グィーベ君はがんばってたんだから! ああ見えて竜には優しいし、調教だって直前までロンセス――」
ミレイは途中まで言いかけて口を噤んだ。彼女がグィーベを擁護しようがしまいが、どうでもいいのだが、言い差した言葉が気になった。
直前まで。
ロンセス。
「――ロンセスバージェス競竜場?」
「おいてめー」
グィーベが戻ってきて、ミレイの頭を上から鷲掴みにしていた。
「言うなっつっただろ」
「あう……」
結構強い力で握られていそうだったが、痛そうでもなくむしろ恍惚とした表情を浮かべているようにも見えるミレイ。
いや、そんなことよりも。
ロンセスバージェス競竜場。
それは騎士ロラン家の仕える、ロンセスバージェス辺境伯の領地にある競竜場だ。熱波月の重賞、ロラン記念が開催される競竜場として有名であるが、基本的には、辺境伯様の所有されている竜の練習場として利用されていると聞いたことがある。
その情報で、競争の間、僕が抱いていた疑問が解消された。
エルダープサー号の飛翔。プサーがどうも、《《飛び慣れている》》ような気がしてならなかった。調教で飛行訓練をこなしたのだから、当然といえば当然ではあろうが――多頭環境に、あまりにも慣れているように見えたのだ。
それが、ロンセスバージェス競竜場で、調教を――恐らく、模擬競争を行ったのだとしたら、説明できる。
僕が調教したテルビナも、少しでも本番を想定しようと、ヤチルタヴィ号と、ヤチルティライン号と共に併翔をした。模擬競争の規模には至らなかったものの、かなりいい訓練になったと考えている。
しかし、併翔は所詮、併翔である。本番は、そんなに少ない頭数ではないし、あらかじめ互いに飛び方を共有することもできない。なればこそ、可能であれば模擬競争をやりたいわけではあるのだが、
エルダープサー号は。あるいはグィーベは。あるいはザラエグ様はできたのだろう。
ロンセスバージェス競竜場において。
ロラン家はロンセスバージェス辺境伯のお抱えということで、騎手として騎乗する竜も、当然、辺境伯様の所有竜であり、プサーもご多分に漏れずそうなっている。競竜場を持っているだけあって、辺境伯家の所有竜は大変多く、それこそ、模擬競争を開くことは容易いだろう。
つまり、プサーが多頭環境に慣れているように見えた理由は、実際に、プサーが多頭環境に慣れていたから、ということなのだろう。複数の竜と一緒にいるだけで充分に意味はあるし、競争形式となれば同時に実戦力をつけることもできる。新竜戦に勝っただけの竜に、最初からそこまで手厚い支援をするとは思えないが、恐らくグィーベのほうから、そうして頂きたいと、頼んでみたのだろう。
いや、とそこで僕は気づく。
新竜戦に勝っただけの竜に。
しかしそうだ、エルダープサー号の新竜戦は、随分と余裕そうな勝利だった。
彼の、調教に対する姿勢からすれば――プサーが新竜戦に出る以前から、ロンセスバージェス競竜場にて、訓練をしていたに違いない。
若いうちから過剰な負荷をかけることは、不慮の事故を引き起こしかねないが、そのぶん、成功した際に他の竜より屈強に育つことは間違いない。何よりプサーは、名竜エルダーカイサー号の産竜であり、重賞での活躍は確定しているようなものだ。本拠地ということで、もしもの時の備えも手厚く整えられているだろう。
「手を離せグィーベ。大体察したよ」
僕は言う。彼はフンと言ってミレイの頭から手を離し、
「次は負けねー」
言って、今度こそ競竜場を去った。
何はともあれ、最初の重賞、サタナ記念はそうして終了した。テルビナが十二の重賞を勝利で始められたことを嬉しく思うし、ベレー様の経歴に新たな勝利を刻むことができてひと安心である。
次なる重賞は二ヵ月後。
草原月の重賞、甲賞だ。
(第三章 了)




