3-1 サタナ記念①
*
翌月、華麗月。
とうとう今月は、二歳竜最初の重賞、サタナ記念が開催される、
その前に。
新竜戦が大詰めになる時期がまず来る。新竜戦は基本的にひとつの競争が六頭立てで行われるわけだが、その何倍もの竜が出翔登録をし、その中から抽選されており、競争での勝ち負けすら経験していない、選ばれなかった竜たちは、また次の競争に登録するしかない。
この時期になると、これまでの新竜戦で出翔じたいができなかった、言葉は悪いが余りものの竜たちが多くなる。春の大帝賞の翌週、テルビナが翔けた新竜戦の時のような熱量は感じられず、運よく出翔できたから、運よく勝利もできないか、などというような消極的な者が多い。そしてこの傾向は、最初の重賞がある今月末にかけて、どんどん強くなっていく。華麗月といっても第一週だったのは、流石にグィーベが自重したのか、ザラエグ様の判断か、あるいは竜主様側による英断か。何にせよ、僕が今、ここ、帝立第三競竜場(結局、テルビナと時期は違えど同じ競竜場だった)にいるのは、同門の誼とかそういうのは全くなく、
僕の左隣に座る女性。
ミレイに頼まれて、付き添いをしているのだ。
ミレイは、シャーラと同じく、競竜学校の元同級生で、今は別の師について、今年初舞台の二歳竜の担当をしている。そんな彼女が、なぜわざわざプサーの新竜戦など見にきたのかというと。
「グィーベ君いないよ! 探して探して! お弁当作ってきたのに」
彼女はグィーベに、首ったけなのである。
赤茶の髪は肩甲骨くらいまで緩く波打っていて、目は吊り気味だが眉が垂れ気味、睨まれてもあまり怖くはない。
ちなみに、彼女も(当然ながら)担当の新竜戦は終わっており、今日はプサーが勝ったところを見て、今年からグィーベと一緒に競えることを目で見て確かめたい、と言っていた。僕が誘われた理由は、僕がグィーベの友人だと思われているからである。非常に不本意にして不名誉極まりない。
「そこにいるけど」
「本当だ!」
グィーベは出翔位置の辺りで、翔路を眺めていた。彼が今、眺めたところで、騎乗されるのはザラエグ様なので意味はないのに。
「おーい! おーい!」
ミレイは大声を出して自己の存在を示そうとするが、グィーベには届かず僕の耳が壊れた。
今日出場される騎手には、やはりザラエグ様以外に、いわゆる名門といわれるような家の騎士様はいらっしゃらない。プサーはまず負けることはないだろうが、それがグィーベの作戦なのだろうか。自信家の彼らしからぬ、消極的な策というか、体面の悪くなりそうな策に見えるが、果たしてその真意はどこにあるのだろう。
競争結果は、やきもきする瞬間もなく、プサーの圧勝だった。プサーは、いい意味で随分と楽に、あるいは肩の力を抜いて、飛ぶことができていたように見受けられた。
「よし、グィーベ君探しにいくよ、エムリス!」
ミレイは勢いよく立ち上がると、僕に声をかけたにも関わらず独りで突っ走っていく。
「――はあ。なんであの人は、こんなノッポに気づかないんだか」
僕は呟く――席を一つ開けて、右方に座っているグィーベに聞こえるくらいの声量で。
「さてな。そんなことより俺も勝ったぜ」彼は言う。「これで文句ねーだろ」
「いやあるけど」ありはするが。「まあお前だけ脱落してても仕方ないしな」
「脱落するわけねーって」
「サタナ記念。あと三週」僕は言う。「絶対に負けないからな」
「おーそうかよ」グィーベは口角を上げる。「泣かせてやるぜ」
「エムリス――あ! グィーベ君いた!」
「おっと、バレたか」
僕がついてきていないことに気がついて戻ってきたミレイは、僕の隣にようやくグィーベを発見する。そしてミレイが戻ってきたことに気がついたグィーベは、足早に退散していった。
そのミレイも、サタナ記念では敵の陣営だ。グィーベに竜券の相談を持ちかけていた、シャーラもである。当日の競争結果は騎手次第だろうが、それまでの期間、調教するのは我々だ。ベレー様に勝利を掴んで頂くために、僕はテルビナを、ここから更に鍛えていかなければならない。




