2-5 新竜戦②
「知っているとは思うけれど、こちらはサルダット卿。サリーさん、こちらがテルビナの調教をしてくれている、エムリスくんだよ」
ベレー様は僕に隣の男性を、隣の男性に僕を紹介される。サルダット・タルギサガス様。大帝賞でベレー様と鎬を削っている、アウカタイデサー号の騎手を務められる騎士様だ。身長は、同じく騎士のザラエグ様と同じくらいだろうか。銀の混じった黒髪は短く、表情は穏やかだ。年齢はベレー様より十つほど年上に見える。
「はじめましてサルダット様。ご紹介に与りました、調教助手のエムリスと申します」
「うん。今日はよろしく」
僕の挨拶に、サルダット様はそう応じられる。しかしその返事は妙だった、
「『よろしく』――というのは」
僕は思わず訊き返す。
「ああ。今日は乗るために、ここまで来たからね」
サルダット様の返答はそうだった。依然、妙であることは変わらず、
「先週、ザールカーフ号に騎乗され、見事勝利されたと聞いておりましたが」
僕は続けて尋ねてしまう。
「おや。――ザールカーフの担当は新人だったかな。君の知人かい」
その返された質問に、僕は頷く。
「まあ。今日も、僕が乗ることになったから、よろしく、というわけだよ」
彼はそうまとめられた。恐らく、話の筋としてはこうだ。今年の二歳竜、サルダット様が騎乗されるのは基本的にはザールカーフ号。しかし、一人の騎手が一頭に乗り続けなければならないという規則はないし、一頭の竜は一人の騎手によって乗り続けられなければならないという規則もない。既に騎乗を決めている竜で勝利したのに、まだサルダット様が乗られるというのは、恐らく、今日の竜の竜主様のご意向で、その竜に、新竜戦に勝ったという実績を与えたいのだろう。新竜戦に一回勝ちさえすれば、重賞への出翔権は最後まで剥奪されることはないし、参加表明はいつでもできる。また重賞に出なくとも、種竜、繁殖竜になった際の価値は、新竜戦一勝だけで跳ね上がるのだ。そのために、ひとまず新竜戦の騎乗のみ、実績のあるサルダット様に依頼が入ったのだろう。
「そろそろだね。ではまた後で」
ベレー様はぴっと手を挙げると、独りでこの場を立ち去られた。お会いしてからずっと湛えられていた微笑は消えている、ここからは集中状態というわけか。サルダット様も、ひらと手を振ると、ベレー様とは別の方向へと去っていかれる。テルビナは既に、競竜場に敷設されている竜房に移されているので、僕は観客席のほうへ回った。
〖――990年萌芽月、帝立第三競竜場、第1回新竜戦。出翔竜を紹介いたします。
1番ダウエン、ハバル・フィダール様。
2番ガラン、サルダット・タルギサガス様。
3番ドゥルドゥルドゥル、ワット・タタラ様。
4番ヤチルテルビナ、ベレー・ハイジン=ハスト様。
5番バラック、エルヴァデ・ハロルバロル様。
6番ジラハルハブズ、ボード・アンナイム様。
魔力提出が完了するまでしばらくお待ち下さい――〗
重賞競争と比べたら、簡素な紹介で、この後の実況も行われない。しかし新竜戦といえど、帝立競竜場で行われるため、ゲートは魔法的ゲートを用いる。テルビナの調教は充分で、ゲート出翔にも自信がある。機械的でも、魔法的でもだ。
〖――出翔しました〗
無機質な声がそう告げ、テルビナの初舞台が始まった。




