表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き竜のための協奏曲  作者: 烏合衆国
第二章 ヤチルテルビナ
PR
11/41

2-4 新竜戦①


 牧場に戻る道すがら、観戦した春の大帝賞のことを考え続ける。


 最内さいうちに割り振られたマーファハーブ号。入線ゴールまで最短距離で飛べる反面、外側からの圧を最も受けやすい位置だ。大帝賞という大舞台でこの位置を引いたのは、幸運か不運か分からないが、どちらにせよ、今回はマーファハーブ号――というか、ベレー様にとって、やや不利な競争レースであった。


 昨年の華洛月の重賞、ロット記念。

 そこでベレー様の騎乗されたボンヴァルノン号が勝利したわけだが、これがよくなかった。

 いや、この説明は的確ではないかも知れない。たとえばザラエグ様の騎乗されるエルダーフェス号が勝利していたとしたら、また異なる展開になっていただろう。ベレー様が(、、、、、)ロット記念を(、、、、、、)勝ったこと(、、、、、)、これがいけなかった。


 ロラン家は古くから続く騎士の名家だが、我が国には他にも、長く続く名家がある。


 その一つがロット家だ。ロラン家と同様に、重賞に名を残すほどの由緒正しい名家である――ロット記念(、、、、、)。正に、華洛月の重賞、ロット記念こそが、英雄の家の名を冠した競争レースであり、ロット家の騎士様方が、年末の重賞、タルギタオス記念よりも、そしてある意味では大帝賞よりも重視されている重賞である。この競争レースでは、他家の騎士に負けないように、ロット家の騎士様方が多く騎手として参加される。新竜戦を勝った程度で、ほとんど記録を残せていなくとも、騎手がロット家の関係者というだけで忖度され、他の一般の竜と比べて、遥かに出翔の確率は高い。そうして仲間内で作戦を共有し、大きな包囲網を作る。絶対に、ロット家の誰かを勝利させるという強い意志の下、結託するのだ。




 しかし、ボンヴァルノン号は勝ってしまった。


 それまでに落ち目だった期間を挟んでいたせいで、速度感や対応力についての認識に齟齬があったのかも知れないし、そもそも最初から、警戒すべき相手と思われていなかったのかも知れない。警戒されていなければ、そりゃあ逃げ(、、)は強い。前方を塞がれる前に飛び出せれば、後はひたすら逃げて逃げて逃げればいい。そうしてボンヴァルノン号が勝利し――久し振りに、ロット家からロット記念勝利竜が出なかったのが、昨年の三歳竜世代の事件だ。この事情は、新聞などに載っているわけではないが、誰もが動向を見守っていた話題ニュースであった。




 その仇を、春の大帝賞、この舞台で討とうと考えたのであろう。

 大帝賞には、ロット家の現当主、アーラム・ロット様の騎乗されている、ロット記念勝利竜、ブルカモンガ号の他に、ゲッサモンガ号という、ブルカモンガ号の父竜の半弟の仔、いとこに当たる竜が出翔していた。


 発翔スタート直後、ゲッサモンガ号は飛び出して、一気に内側へ詰めていった。

 マーファハーブ号の前を塞ぐように。

 元々、マーファハーブ号は中盤まで控えてから差すことが多く、今回もそうではあったが、先頭竜の取った行動が、後続の竜たちに影響を与え、結果的に、皆が皆、少しずつ、マーファハーブ号に圧をかけながらの競争レースとなっていた。その作戦が見事にハマって、ハーブはあえなく五位、アウカタイデサー号にも再び負けてしまった。まあ全体としては、勝利したのはキャサーナ号だったわけだが。




 とにもかくにも、ロット家の騎士様方の行いは、畏れずにいえば、逆恨みである。ロット記念で勝ちたかったのなら、勝てばよかったのだ。ゲッサモンガ号は、最初の展開以降はどんどん速度を落とし、最終的には十一着、つまりは脱落基準(ライン)にまで落ち込んだ。最初から、勝利を狙った出翔でも作戦でもなかったことが窺える。しかし、そこまでしてやる価値のあることなのだろうか。ここでマーファハーブ号を勝たせないことに成功したからといって、昨年のロット記念の勝利竜が変わることはない。それを理解していてなお、あのようなことを行うというのは、果たしてあるべき騎士の姿なのだろうか。


 もっとも、ベレー様が何もおっしゃらないのだったら、僕から進んでは何も言うまい。ロット記念において、あれやこれやのしがらみを断ち切り、全力の騎乗をされたことを、僕が理解しているだけでいい。




   *




 新竜戦は、若い竜にとってあまり厳しい戦いにしないためにと、基本は六頭立てで行われる。何頭立てだとしても、勝ち上がり、つまり重賞に進めるのはその中の勝利竜一頭だけだからであり、抽選漏れする確率は高いのだが、テルビナは、竜主様の影響力でぶじ枠を獲得できた。と僕は考えている。


 翌週の帝立第三競竜場。

 ついにテルビナの初舞台デビューだ。

 テルビナと共に降り立った初めての、本番の競争(レース)場。観客は大していないが、出翔する各竜の竜主様方は大抵いらっしゃっている。そして勿論、騎手たちも。


「やあエムリスくん。ごくろうさま」

 競争レース前、競竜場の外でそう僕に声をかけられたのはベレー様だったが、僕は何よりも、その時ベレー様の隣に立たれていた騎士様に、意識を集中させられてしまう。

 そこにいらっしゃったのは、サルダット・タルギサガス様。

 アウカタイデサー号などの騎手を務められている騎士様だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ