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大公ロザリアの領地運営録  作者: 白瀬 いお
第1部:接収領地の大公

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4/20

第4話:王族教育は体力勝負

 王族教育、結構大変なんだけど!?

 座学の方は何とでもなるけど、アンナルデクス王国独自の礼儀作法とか、貴人らしい言い回しとか、立ち居振る舞いとか、そういう体で覚えるしかないタイプのやつ。

 なまじ前世の記憶がある分、つい日本で身についた動きをしてしまいそうになっちゃう。挨拶する時に頭を下げたくなるとか、食事の前と後に手を合わせて「いただきます」と「ご馳走様」を言ってしまいそうになるとか。


 あと、シンプルに体力と体幹がめちゃくちゃ必要!

 カーテシー、見た目は優雅だけど、実際にやるとなると結構疲れる。五歳児だからってことで、まだ採点は甘くして貰えてるから、今のうちに慣れておかないといけない。

 精神的にある程度落ち着いているはずのわたしでも、ひーひー言いながらやってるのに、正真正銘の子供がこれをやるの、相当大変じゃないかな。


 無事に五歳を迎えられたのは喜ばしい。

 でも、王族教育がスパルタすぎる! この世界にスパルタ国や類似した国があるのかは知らないけど!

 五歳って、日本だと未就学児だよ? 国が違えば常識も違う、時代ごとでも子供に対する扱いが異なるっていうことも分かっているけど、内心でくらい愚痴りたい。


 相変わらず外で動くのは難しいからってことで、室内でできる体力育成が日常生活に組み込まれたんだけど……これも、結構ハード。

 いや分かるよ、式典中はじっとしていなきゃいけないし、動きは優雅じゃなきゃいけないし、ダンスも必須技能だもんね。

 ただ、疲れている姿を見せるのははしたないっていう感覚は、ちょっと分からないけど。


「——殿下、お時間です」

「はい」


 座学の時間ね、はいはい、今行きまーす。

 勉強自体に好き嫌いはないし、新しいことを知れるのは楽しいから、座学の方が好きなんだよね。記憶力は結構良い方っていう、基本的にはプラスになる特技もあるし。

 でも、できることなら受験勉強はもうしたくないな。わたしはいつも通りなのに、周囲──世間の方がピリピリしているあの感覚が、すっごい苦手だった。


 それで、えーっと。今日の座学は、歴史と法律関係かあ。算数や数学に該当するものは、早々に合格貰ったから、忘れない程度に復習すればオーケー。

 これに関しては、前世の記憶があることに感謝しておこう。それ以外は、役立ったことあまりないけど。将来、役立ってくれたら良いんだけどな。

 さて、勉強、勉強。


 アンナルデクス王国は、約千八百年の歴史を持つ、長寿国であり経済的にも軍事的にも強い国らしい。

 そして、かなりの記録魔。国家レベルで。建国当時の文献が残っているって知った時、すっごいびっくりした。

 原本は厳重に管理しつつ、定期的に写本を作る──それ専門の仕事があって、しかもかなりの高給取りだとか。


「ロザリア殿下は、記憶力に優れておいでですね。ですが、時折覚え違いをなさる時があります。一つずつ、丁寧に確認してまいりましょう」

「はい、先生」


 教育係の先生は、言い回しは優しいけど、授業内容はかなり専門的。

 これ、本当に五歳児がやる内容なのかなって思うものもあるけど、わたしがそう感じるだけって可能性は捨てきれない。

 指摘を受けた、覚え間違いについてはねえ、前世で学んだこととごっちゃになっちゃう所為。完全に海端さくらだった時の記憶がある弊害。

 こればっかりは、誰かに相談できるものでもないし、気をつけるようにする他ない。


 歴史の授業も、法律関係の授業も、楽しんで学べている。時々、何だその法律……? みたいな、謎法が出てきたりするし。

 雨が降った日の翌日は、地面に足の裏以外をつけてはならない、とか。今は形骸化しているらしいけど。

 自国の歴史については、長い。ひたすら長い。ざっと歴史の流れを学んだあとに、時代を分けて細かくやるらしいんだけど、その〝ざっと〟が既に長いよ。


 それにしても、筆記用具が羽根ペンじゃなくて、つけペンで良かった。

 流石の記録魔国家と言うべきか、筆記用具や紙系がかなり発展している。タイプライターのようなものが、もう既に存在していて、広く使われているっていうのは驚いた。

 わたしが勉強中に使っているつけペンも、王族のものらしく品の良いものだけど、ちゃんと子供用。


「──本日の授業は、ここまでとなります。殿下、お疲れ様でした。休憩をお取りになったあとは、ダンスレッスンの予定となっております」

「はい。ご苦労様、下がって構いません」

「ありがとう存じます。それでは、失礼致します」


 ダンスレッスンかあ。前世ではアイドルやダンサー、それかダンス教室に通っている人からしか聞いたことない単語だった。

 それが、今のわたしは特にダンスが好きでもないのに、みっちりやらなきゃいけないんだよね。王族がダンス下手なんて、この国じゃあ許されない。


 さて、休憩時間に入ったから、机の上を整理しよう。

 とは言っても、勉強道具を片づけるのは、侍女さんたちの仕事。ダンスレッスン用のドレスを着る作業も、侍女さんたちの仕事。

 本当は自分でやりたいんだけど、人に任せるのも、王族の仕事のうちだからね。


 あー、紅茶が美味しい。甘いお菓子、最高。頭を使うと、甘いものが欲しくなるのは、転生しても変わらないみたい。

 でも、食べすぎたり飲みすぎたりすると、ダンスレッスン中に気持ち悪くなっちゃうから、程々にしておこう。一回やらかしちゃったし……でも、吐いてはいないから、セーフってことで。


 お兄様も、わたしと同じ教育受けてきたのかな? いや、王太子だと、もっと厳しいのかも。

 前世の記憶っていう、足枷なのか下駄なのかよく分からないものがあるわたしでも、楽勝とは言えないレベルの教育。

 でも、これくらいはできて当たり前なんだろう。だってお母様たちも、授業内容について何も言わないし。王族って、左団扇で優雅な生活じゃない。そりゃあそうだよね、国のトップだもん。


 さて、休憩もしたから、レッスン前に準備体操をしておこう。

 運動するなら、事前に体を解しておかないと、怪我をしてしまうかもしれないし。でも、足を大きく開いたりするのは、例え準備体操が目的だとしても、とってもはしたないことらしい。

 そんなわけで、足を開くのは程々に、それ以外のやり方でストレッチをしよう。不審がられないくらいの、簡単なやつ。変な子供って思われるのは、ちょっと嫌だしさ。


「ロザリア殿下、本日のレッスンを行います。ご機嫌麗しゅうございますか」

「はい、先生。本日もよろしくお願い致します」

「とんでもないことでございます。それでは、始めましょう」


 ダンスレッスンは、練習相手なしのソロで行うから、案外気楽なんだよね。

 だって、相手がいると足を踏んでしまわないか、そっちの方に気が取られちゃうし。まず、一通り動きを覚えてからじゃないと、誰かと踊るなんて無理。

 わたしのファーストダンスの相手も、適当に決めることはできないらしい。王族の生活は、公私共に政治が絡むっていうのが、少し息苦しくはある。


 ステップ、ターン。あ、腕の位置下がっちゃった。うーん、中々大変。この体も運動神経は普通だから、一発で踊れる、なんてことは起こらないんだよね。

 リズムは先生の手拍子頼り。音楽プレイヤーどころか蓄音機すらないから、音楽をかけたいなら、王宮専属楽団を呼ぶ必要がある。

 月に一度、王宮専属楽団の演奏に合わせてレッスンを行うけど、それ以外の授業では、手拍子に合わせて頭の中でメロディをなぞり、ステップを踏む。


 音感もリズム感覚も人並みくらいだから、座学よりダンスレッスンの方が、わたしにとっては難しい。

 大体、前世ではダンスなんて体育の授業でちょっとやったくらいだし、それだって真面目にやっていたわけじゃないのにさあ。

 盆踊りですら、あんまり覚えてなかったよ。だって踊らないもん。ソーラン節ならワンチャンあるかな、何でか覚えてる。


 それにしても、しんどい。疲れる! 激しい動きではないけど、優雅に美しく見えるように踊らないといけない。ステップミスなんて論外、スカートのひらめきすら計算しながら──やってられるかー!

 でも、やらなきゃいけないんだよね。ダンス下手な王族なんて、貴族から何を言われるか分かったものじゃない。

 直球で貶されることはないけど、王族相手でも遠回しな皮肉や嘲笑をしてくるのが、アンナルデクス王国貴族の嫌なところ。

 その分、王族として相応しいと認められれば、ちゃんと敬ってくれるらしい。


 それにしてもさあ、やっぱり五歳児にこの教育スケジュールはハードじゃない?

 一日の中で、座学、礼儀作法、ダンスレッスン、カリグラフィー、簡単な刺繍、乗馬──毎日全部の授業を行うわけではないけど、座学からカリグラフィーまでは必ずあるから、マジで大変。

 お兄様情報によると、七歳くらいから爵位持ちの名前と、各領地の地理やら特産品やら簡単な歴史やらの授業も増えるらしい。

 この国、子供に対しての期待値が高すぎじゃない? いやまあ、やれと言われればやるけどさあ。


 ダンスレッスンが終わる頃になると、毎回練習着の下は汗でじめっとする。

 そもそも練習着のドレスですら暑いのに、夏に正装で踊るってなったら、絶対に汗がいっぱい出るじゃん。やだなー、相手に汗臭いって思われそう。

 毎日お湯で体を洗っているし、まだ子供だから、体臭は大丈夫なはず。今のところは。


 体を拭いてもらって、またドレスを着替えて、ようやく自由時間! 待ってました!

 今日はどの本読もうかな、娯楽小説と、あー、法律関係の読んでおこう。来年度に改定が決まっているやつ、もうわたしが読んでも良いって、お母様たちも言っていたし。

 こっちの娯楽小説って、わたしの感覚だと硬派な古典小説なんだよね。娯楽っていうより、教養寄りに感じるっていうかさ。

 面白いけど、軽く読めるようなやつではない。時代ごとや作者ごとに言い回しが変わっていたり、比喩の使い方が異なっていたりする。


 法律関係のは、本っていうか書類の束だから、読む時はお母様かお父様と一緒の時が良いかな。

 専門的な単語とか、官僚的な言い回しについて、まだまだ分からないことだらけっていうのもあるけど……やっぱり、どういう経緯で法案の改定や新法が制定されるのかは、書面からだと十分に読み取るのは難しい。

 そういえば、お兄様も十五歳になったら国政に携わるようになるって言っていたっけ。

 十五歳って、日本だと中学生か高校生じゃん。一番遊びたい盛りだし、反抗期にも重なる頃じゃない? それとも、反抗期の概念がないのかな?


「お疲れ様、ロザリア。今日の授業はどうだった? 分からないところがあれば、僕も一緒に考えるよ」

「ありがとう存じます、お兄様。おおよそは理解したのですが、まだ少し覚えが甘いところがあると、指摘を受けてしまいました。あとで、お聞きしても良いですか?」

「ああ、勿論。頼ってくれて嬉しいよ」


 うっ、眩しい! いや、お兄様が光っているわけじゃないけど、その心底嬉しいっていう純粋な笑顔が、光よりも眩しい!

 お兄様の顔立ちと体つきは、中性的なものから男性的な美しさに変わってきているけど、美人であることに変わりはないんだよね。

 むしろ、年々輝きが増しているというか……正に白馬の王子様って感じがある。性格も頭も良いし、婚約者さんとの仲も良好みたいだし、我が国は安泰だな。


 晩餐は、家族揃ってというわけにはいかない。

 お母様とお父様にとって、晩餐も業務の一部だから、わたしとお兄様は別室で夕食をとる。でも、あと五年もすれば、お兄様とも一緒に食べることはできなくなるだろう。

 アンナルデクス王国において、成人は二十歳。でも、準成人──十五歳からは、大人に近い扱いを受けることになる。わたしも、あと十年で準成人かあ。


 夕食の席でも、気は抜けないんだよね。何せ、マナーレッスンも兼ねているから。

 ここがわたしにとっての一番の鬼門。無意識のうちに、前世で培った癖が出てしまうのは、食事に関わることが多いから。

 器を持ち上げて食べたくなるとか、ナイフとフォークより箸で食べたいとか、スープスパゲティ的なものが出てくると、麺を啜りたくなるとか。

 カトラリーの扱い方も、前世で覚えたものと、アンナルデクス王国のマナーでは、異なる点がいくつもある。


 今日の夕飯も何とか乗りきった! 偉いぞ、わたし!

 晩餐を終えた両親と合流して、談話室でようやく家族の時間を過ごせる──わたしが寝る前の、ほんの少しの間だけだけど。

 眠気が強くなる前に、わたしだけ先に談話室から出て、お風呂で体を洗い、ベッドで就寝。

 毎日頭を使って、体も動かしているから、横になったらすぐ睡魔が襲ってくるんだよね。

 あー、眠い。明日は休養日、授業もお休みだから、絶対ゆっくりしてやる。

 おやすみなさい!

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