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大公ロザリアの領地運営録  作者: 白瀬 いお
第1部:接収領地の大公

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10/20

第10話:為政者の言葉

 昼食は望んだ通りのアンナルデクス王国料理だった。料理人さん、ありがとう! とっても美味しかった!

 さて、食休みをしたら、領地入り後最初の会議に参加しなくちゃ。

 会議資料は、事前に配布して貰っている。他の参加者にも、会議前に資料を読み込んでおくように伝えているから、それに従ってくれているはず。

 わたしが領都入りした時点で、リオングランデ王国側の執務官は、ルシオ卿以外本国への帰還準備に移っている。

 だから、会議に参加するのは、ルシオ卿を除いてアンナルデクス王国の者たちだ。


「──定刻になりました。これより、領地運営に関わる統括会議を始めます。議長はわたくし、ロザリア・アルジェンティアが務めます。進行役はフィデホノール子爵、書記官は三名。手元に会議資料はありますね? ……よろしい。では、フィデホノール子爵、進行を」

「かしこまりました、殿下。本会議では、本国で決定した事項の確認、緊急措置法二種の追認、今後五年間で行う施策についての討論、税制および法整備に関わる施策についての討論を行います。一議題ごとに、質疑応答の時間を設けますので、私語は慎むように」


 上座になる席にわたしが座って、その向かい──つまり、正面の位置に半円形のテーブルがあり、他の参加者の大半がそちらへ座っている。

 うう、胃がキリキリしてきた。前世でも会議に参加してきたけど、あくまで補佐役としてだったから、議長なんてやったことないのに。

 王城で行われていた会議は、見学って形で二回しか参加しなかったし。会議に対する経験値が全然ない状況なのに、一発目でこれっていうのが、本当にやだ。


 嫌でもやらなきゃいけないのが、人の上に立つ者の役目だからね。

 気を取り直して、会議に集中しよう。まずは、本国──アンナルデクス王国の王国会議で決定した事項についての確認。

 これは、わたしの一存で却下はできない。王家のではなく、国の決定だから。参政権を持つ貴族たちの賛成多数と、国王陛下の承認により施行されたもの。


「王国会議にて、我がマレディウム大公領が王国へ納める税に関する措置が議題に上がりました。資料の二ページ目をご覧になって。……議論の結果、税に関しては、本年度と来年度は免除になります。本年度は、既に残り五ヶ月もないことを加味して、免除対象に入りました」


 アンナルデクス王国としては、マレディウム大公領の本格始動は来年度からということになる。

 これはわたしが王妹だから特例、というわけではなく、年度途中からアンナルデクス王国に組み込まれた領地に関しては、必ずこの措置が取られることが法律で決まっているだけ。

 前年度の税収を基にして翌年度の年間施策を作っているから、年度途中で領地が増えた場合、予算の見直しをしなくちゃいけなくなるのが面倒、というのが国の本音だけどね。


「来年度を一年目とし、再来年度──二年目から四年目までの三年間は減税措置、五年目からは通常納付となります。これは王国法により定められた措置となりますので、覆すことはできません。このことを念頭において、以降の討論を行ってください」

「では、次の議題に移ります。第二議題は、緊急措置法の追認について。既に殿下が発令された、治安維持緊急措置法と、衛生管理緊急措置法。この二つの法に関する説明と、発令経緯、これにより考えられる利点と問題点についての討論を行います」


 ポルトマリスに着いた日の夜、わたしが書類にサインしたことで、即日適用された緊急措置法二つ。

 犯罪抑制および取り締まり強化のための、治安維持緊急措置法。

 衛生環境維持と改善の足がかり兼疫病予防のための、衛生管理緊急措置法。

 前世……日本では当たり前だった防犯と疫病予防は、意図して行わなければ、なあなあで崩れてしまうものだと、わたしは思う。


 犯罪が増えたら、わたしが困る。疫病が蔓延しても、わたしが困る。

 何故なら、わたしが領主に就任したからこうなった、なんて思われてしまえば、それが不満となり、やがて反乱の芽へと成長し──自分の身が危険になるかもしれないから。

 保身のために、やれることは全てやろう。

 短期的には不満が出るかもしれない。でも、長期的に見た場合、それが悪法であっても人は慣れる。生活環境が改善されたとなれば、不満も減るはずだ。


「……。発言を、お許しいただけますか?」

「──殿下?」

「構いません。どうぞ、ルシオ卿。疑問点、改善点、その他気になることがあれば、挙手をしてからの発言を許可します。皆も、同じです。この場はわたくしの演説ではないのですから、有益な討論をするように。──お待たせしましたね、発言を」

「ありがとうございます。それでは……この、治安維持に特化した衛兵の常駐について、お窺いしたいことがございます。まず、治安維持に特化というのは、普通の衛兵とは異なる技能を持つ者たちである、という解釈でよろしいのでしょうか」


 最初の発言者がルシオ卿って、ちょっとびっくり。

 彼にとって、マレディウムは生まれ育った土地だけど、周囲にいるのはアンナルデクス王国の者たち──ホームなのにアウェーであり、人質でもあるから、発言には慎重になると思っていた。

 わたしは弱視だから、常に周囲が少しだけぼやけて見える。でも、ルシオ卿の真っ直ぐな目は、そんな視界の中でもよく見えた。


「治安維持に特化した衛兵──わたくしは治安維持兵と呼んでおりますが、彼らは対人特化の技能持ちです。争いごとの仲裁をしたり、落し物の保管をしたり、三交代制で常に街中の見回りをさせます。これにより、犯罪を犯しにくい状況を作り、住民と近い目線で関わることで、不審者を発見しやすい環境になるものと考えます」

「……では、治安維持兵ではない、これまで衛兵と呼ばれていた者たちの職務はどうなるのでしょう」

「衛兵たちは、主に犯罪が起こったあとの捜査に特化した者たちや、対獣に特化した者たちなど、専門的な技能習得に努めさせ、順次組織化していきます。暫くの間は、衛兵と治安維持兵の二体制ですが」


 日本の警察機構のパクリだけどね!

 治安維持兵は、交番のお巡りさんってこと。一気に警察組織みたいなものを作ることはできないから、このマレディウムに合うように試行錯誤しながら、組織編成を決めていくつもり。

 アンナルデクス王国では、領地の治安維持組織に関しては、どう運用するか、領主に委ねられている。

 領地ごとに地形も領民の気質も違うし、起こりやすい犯罪も異なるから、当たり前ではあるんだけど。


「殿下、私からもよろしいでしょうか」

「ええ、許可します。どうぞ」

「ありがとうございます。治安維持兵についてですが、現在は殿下直属の兵士が指揮を執り、衛兵の一部を使っていると資料には載っております。しかし、いつまでも直属の兵士をそちらに割くのは悪手かと愚考致します。来年度以降はどのようになさるのか、お窺いしたく、お願い致します」

「ええ、わたくしも、いつまでも直属の兵士を治安維持に使うつもりはないわ。今年度は実地で治安維持兵の第一期生を育てつつ、既存の衛兵たちの適性を確認します。来年度も実地教育を行うけれど、教師役の数を適正化する予定よ。訓練学校の設立も考えているけれど、それは追々になります」


 警察学校を作るのは、先に組織体制を固めてからの方が良いはず。

 受け入れ先を作る前に、学校だけ作ったところで、卒業後の進路を迷わせるだけだしね。

 治安維持緊急措置法については、犯罪抑制が主目的だというのは、資料にも記載してある。他に質問や提案はなさそうかな。

 あ、ルシオ卿が顔を上げた。わたしの回答を、資料のメモ欄に書き込んでたみたいだし、理解しようっていう姿勢が結構好印象。


「大公殿下、恐れながら、もう一点よろしいでしょうか」

「勿論、会議に前向きな姿勢を見せてくれて、わたくしも喜ばしくてよ。どうぞ、ルシオ卿」

「恐縮です。この、衛生管理緊急措置法についてなのですが……糞尿を川や海に流さない、というのは、当然のことかと思いますが」

「その当然を行わない者もいるのです──それに、マレディウムは、アンナルデクス王国の他領地に比べて、下水道設備が不十分であると検査員から報告がなされています。適切な処理をせず、下水道から排泄物をそのまま川や海へ流してしまう地域もあるようですから。それが続くと、川や海が汚染され、疫病が発生する原因となります」

「それは……」

「我が国では、衛生管理を蔑ろにした場合、どのようなことが起こるのかという記録もとっています。詳しくは別紙に載せていますから、そちらを読むように」


 アンナルデクス王国で起こった疫病は勿論、周辺地域の衛生環境や疫病についても、結構詳しい記録が残っているんだよね。

 領地運営に関わりそうな文献と記録は一通り読んできたけど、それを諳んじるなんてできないし、やる時間もない。

 だから、要点だけを纏めたものを執務官さんに作って貰い、わたしが最終チェックをして、皆へ配布している。


「──勿論、今すぐ全ての下水道設備を整えることは、不可能でしょう。ですが、努力はできます。糞尿は水のある場所へ流すのではなく、居住地から少し離れた場所へ集め、堆肥にすること。マレディウムの土地に適した堆肥作りを行うため、土壌研究に就いている者を招集してあります」

「……。牛や馬の糞尿を、肥料として使うということは、この地でも古くから行っております。しかし、人のものも、ですか」

「ええ、使えます。しかし、そのまま撒いて使用することはありません。発酵させることにより、糞尿に含まれる病の元や虫を殺し、安全な堆肥とするそうです。わたくしも専門的な知識を持ってはいませんから、詳しく知りたいのなら、土壌研究者に聞いてください」


 前世の日本では、江戸時代辺りだと、人の糞尿からできた堆肥も商品だったらしいってことくらいしか知らないし。

 堆肥について深く知ろうとか思ったことはなかったし、王族が糞尿について詳しく調べるのは、流石に外聞が悪い。

 それに、こういうのは専門家に任せた方が良いからね。素人が知ったかぶりして間違ったことを指示した結果、農作物が全滅した、なんてことになったら、笑い話じゃ済まない。


「かしこまりました、そのように致します。では、もう一点だけ、お窺い致します。この、三日に一度は必ず公衆浴場を利用すること、というのは、何故三日に一度なのですか?」

「わたくしが、不衛生なのが嫌なのです。できることならば、毎日でも体を洗って貰いたいところですが、すぐにというのは難しいでしょう。なので、せめて三日に一度は体を洗い、清潔を心がけさせます」

「……そう、ですか」

「勿論、衛生管理のためというのが、大きな理由ですが。長らく身を清めないと、感染症に罹る可能性が高まります。これについても、統計が取れていますから、気になるのなら資料の閲覧を許可しますよ」

「それでは、後ほど資料の閲覧申請をさせて頂きます。私からは、以上です」


 ルシオ卿、元敵国の貴族と執務官に囲まれているのに、自発的に質問してくれて嬉しい。

 こういう、ちゃんと施策を理解しようと努めてくれる人がいると、わたしもしっかり説明しようって気になるから、有難いな。

 彼に触発されたのか、他の参加者からも質問が出たり、参加者同士で討論していたりしている。

 それを、進行役のケイルム様が上手くコントロールしてくれているから、話の内容が大きくズレてしまう、ということもなかった。


 マレディウム大公領で最初の会議だったから、もっと静か──周りの出方を窺う人が多いかもしれないって思っていたけど、ルシオ卿のお陰で議論が活発になっている。

 時々、おっと思うようなことを言う人もいて、この会議がただ時間を浪費するだけのものじゃないっていうのに、凄くほっとした。

 会議は踊る、されど進まず、なんてことにならなくて良かったー!


 ただ、緊急措置法に関することで盛り上がってしまったから、今日の議題を全て終えることはできなかった。

 うーん、初回だからっていうのを加味しても、次回からは色々調整しないとダメだね。

 税制と法整備に関わる施策については、次回の会議に持ち越し。

 終業時間も近づいているし、無駄に残業させる必要もないから、今日はこれで終わり!

 そういう意味を込めて、ケイルム様にアイコンタクト──あ、頷いた。これで通じるの、楽だなー。


「皆の意見は、書記官が纏めて、議事録と共に観覧します。──本日の会議はここまで。皆、ご苦労様」

「我がマレディウム大公領のためと、皆が活発に意見を交わしてくれたこと、嬉しくてよ。解散後は、各々終業時間までに業務を終えるように。明日で良いものは、明日に片づけてください。それでは、ご苦労様でした」


 わたしは執務室に戻る! あー、疲れた。会議って神経使うし、肩凝っちゃう。

 休憩を挟んだら、残りの書類仕事を片づけて、読書をしようっと。

 ……背中にすっごい視線感じるんだけど、気の所為かな? 気の所為で良いよね?

 あっ、ルシオ卿の就業時間と業務量のチェックもしないと。うちの執務官さんの所為でやつれているなら、すぐにでも是正しないといけないからね!

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