約束する、ファイター
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第5章ep.91 水の加護 までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
風属性選抜チーム主催の音楽会から一夜明け、山岳地帯(夜)での合成素材集めをする日の朝。
珍しく何の予定もないんだけど、早く目が覚めたもんだから、アタシはイベントエリア「花畑」に向かうことにした。
ここって、朝の散歩にはもってこいだもんね!
入った瞬間、花の香りに包まれる。
ウパぺんたちが調整を続けてるから、最近は少し、自然の香りに近いものが増えてきた気がするわ。
香りを楽しみつつ、ゆっくりと花畑の中を歩いてたら……芝生エリアに人影があるのに気づいた。
「んん? あれって……(≧▽≦)さんよね?」
意外にも1人で、空手の演武っぽいことをやってた。しかもかなり、サマになってるじゃん!
でも気になったのは実はそこじゃなくて……その近くの木陰に身を隠して、(≧▽≦)さんの方を伺ってるクリフくんが、丸見えってことなんだけどね。
実は2人が同じ学校に通ってるって判明してからクリフくん、(≧▽≦)さんのことがすごく気になるみたいなんだけど……。
ど、どうしよこれ……気づかないふりしてあげた方がいいのかな……? めっちゃ「好きな人を目で追っちゃう乙女」みたいなことになってんだけど。
「お、ペンタスさんチーっス!」
そんな風に迷ってるうちに、(≧▽≦)さんに見つかって声を掛けられる。
さすがに無視するわけにもいかないから、アタシはクリフくんに気づかない風を装って、(≧▽≦)さんに近づいた。
「おはよ! 随分早起きね」
「実は照輝さんが毎朝トレーニングしてるって聞いて、真似することにしたっス! ただ俺がやりたいトレーニングは、狭い場所ではやりにくくて……それでこっちに来たっス!」
確かにあの演武を、適性者ギルドでやるのは危ないかも。
「やっぱり精神を鍛えたくて?」
「それだけじゃなくて、えっと……何て言ったらいいんスかね」
そう言って(≧▽≦)さんは考えてたけど、おもむろにポンと手を叩き、説明してくれた。
「例えば足を滑らせたら、転ぶっスよね?」
「そうね?」
「でもその時、バランス感覚いい人なら立て直せるし、反応速度が速い人なら何かを掴めるし、受け身の取り方を知ってる人なら怪我せず上手に転べるっス!
そういうのってみんな、考えてやってるわけじゃないっスよね?」
ってことは……
「つまり、咄嗟にうまく反応できるようになりたい、ってこと?」
「それっス!」
ははあ、なるほどね。
「言われてみればそれ、結構大事かも……。このゲームは1回武器使ったら、次に使えるのが4秒後だから、それまでに何をするのか即、決めなきゃいけないもんね」
「あ、ゲーム内もそうなんスけど……リアルに戻った時のこと考えてたっス」
「えっ、リアル?」
言いながら(≧▽≦)さんはちらっと、クリフくんがいる方に視線を向ける。するとクリフくんは目が合う前に、サッと姿を隠した。
……もしかして、クリフくんがそこにいるの、最初から気づいてたのかしら?
「俺、リアル世界では高校1年って話したっスよね?」
「ああ、そうだったわね!」
「実はすぐ後ろの席の女の子、すげー可愛いのに、いっつも暗い顔してて、休み時間になるたびに、すぐどっか行っちゃうんスよ。何かに怯えてるみたいで」
あ~それは(≧▽≦)さんの性格的に、ほっとけなさそう。
「だからちょっと話かけてみようと思ってたんスけど、上手くいかないままゲーム世界に来たから……チャンス来たら即、動けるようにしたいなって思ってたっス! それで……」
すると(≧▽≦)さんはふいに声をひそめて、アタシに予想外のことを言い出した。
「折角だから、ちょっと手伝ってくれないっスか?」
「えっ、手伝う?」
そしてそっと、クリフくんが隠れた木の方を指さす。
……待って? それってつまり……そういうこと!?
「クリフくんがその、クラスメイトの女の子なの!?」
「まだ確認できてないし、アバターも使用ボイスも性別1っスけど……色々考えた結果、十中八九当たってると思うっス。だから確かめようと思うっス!」
そう言われて今までのことを振り返ると、確かにクリフくんが(≧▽≦)さんのこと気にして、あんな乙女チックな覗き見する理由も納得だわ……。
多分クリフくんも、(≧▽≦)さんがクラスメイトって勘づいてるのね。
「そうね、そう言うことなら……アタシとしても、今のうちにクリフくんの絶対的な味方になってほしいかな。勿論、リアル世界に戻った後も」
「ペンタスさんはクリフくんのこと、何か知ってそうっスね?」
「言えないけど、ちょっとね。そこは本人から聞いてよ」
「OKっス!」
というわけで、こそこそ作戦会議をすることに。
ふんふん、なるほどね!
また(≧▽≦)さんがクリフくんがいる方向に視線を向けようとした途端、クリフくんが木陰に隠れたので、アタシたちはこの瞬間、作戦を決行した。
次に木陰から顔を出したクリフくんは、まっすぐクリフくんに近寄るアタシの姿は見えど、(≧▽≦)さんの姿が見えないことにビックリしてるはず……。
「おはよ!」
「お、おはよう……。あの、さっきまでそこに、(≧▽≦)さんがいませんでした……?」
「ああ、うん、それはね?」
次の瞬間、アタシのすぐ後ろに身を隠して距離を詰めてた(≧▽≦)さんは、死角から素早い動きで回り込み、
「やっと捕まえたっス!」
クリフくんの手を掴むと、心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「うわぁあぁ! (≧▽≦)さん!?」
「顔が見えないと反応が分かりにくいから、直接言いたかったのに、なかなか捕まらなくて困ってたっス。やっとチャンス到来っスね!」
言いながら、素早く個人チャットに切り替え、何かを言う(≧▽≦)さん。クリフくんの表情が、驚きのそれに変わった。
「どどど、どうして私の本名を!?」
クリフくん、驚きすぎてチャット切り替えてないわね。一人称も私になってるし。
まあでもこれで、確定でしょ。
次に(≧▽≦)さんが、自分のことを指さして何か言う。多分今、本名名乗ったんだろうなって分かった。
クリフくんはもう、驚きすぎて声も出ないみたいね。
「ちょっと待ってよ……こんなことってある!?」
「そういうわけで俺、リアル世界に戻っても絶対、クリフくんの味方になるから、改めてよろしくっス!」
うわぁ、過去一いい笑顔きたわ。
迷いのない瞳でそんなこと言われたクリフくんは、
「よ、よろしく……」
わずかに頬を染めて、そう答えるのがやっとだった。




