茶を嗜む、ファイター
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第5章ep.81 地の加護 までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
ラガマフィンさんとジュースの調合で盛り上がった後、ふとアタシは野点エリアの方に目を向け……珍しく鷹影さんがいるのに気づいた。
もしかして、鷹影さんが自分でお茶を点てるのかしら?
気になったからそっちに向かうと、先に鷹影さんがアタシに声をかけてきた。
「こんばんわ。よろしければ一服いかがでしょうか?」
「いいの? じゃあ是非!」
言いながら靴を脱いで、赤い毛氈に正座すると、アタシの前にもお盆が出される。
乗ってたのは、蓋付きの茶碗と、練り切り。そして何故かお箸と……これは酢醤油?
蓋を開けてみたら、中には茶葉がそのまま、ティースプーン山盛り1杯分くらい入ってた。
……えっ、茶葉のまんま!?
「今回は、玉露を楽しもうと思います」
「えっと……これはどうすればいいの? 急須がないみたいだけど?」
「失礼、作り方や飲み方を説明いたしますね」
そう言って鷹影さんは、あらかじめ器に注がれていた、いかにもぬるそうなお湯を見せた。
「まずはこの茶碗に、45度程度に冷ましたお湯を、茶葉の周りから静かに20mlほど注ぎまして……」
言いながら、アタシと自分の茶碗に、そのお湯を注ぐ鷹影さん。
よく考えたら、今時は緑茶もペットボトルか粉茶で買うばっかりで、急須を使うことがないから、こんな風に茶葉を使うのって久々だわ。
「蓋をして、2分ほどお待ちください」
「2分……結構ゆっくり待つのね」
「茶の湯は俗世の煩わしさから逃れ、自然に帰って心を安らかにするものですので、この待つ時間も私は大切にしたいと思っています」
「あ~確かに、今は何かと急ぐこと多いもんね」
待つ間、静かに流れる水の音や、風の音を楽しむのも、結構いいかも。
「そろそろ2分ですね。飲む時は蓋を少しだけずらして、隙間からこぼれるしずくを、すするように飲んでください」
「そっか、大きく開けたら茶葉が出て来ちゃうもんね」
言われた通り、ほんの少しだけ蓋をずらして飲んでみると……予想外に濃厚な旨味と苦み、香りが口いっぱいに広がってびっくりした。
「ええっ、何これ。こんなの初めてよ! すごく美味しいわ!」
「ふふふ……玉露の真価はここからですよ。
続いて2煎目、約60度のお湯を同量注ぎますので、また蓋をして20秒程度お待ちください。飲み方は1煎目と同じです」
待ってる間に練り切りを1口。うん、こっちも控えめな甘さがマッチしてて、いいわね!
「もうそろそろ時間よね? ……あ、1煎目よりコクを感じるわ! 全然味が違うのね、同じ茶葉なのに」
「ええ、この変化を楽しむ趣向です。3煎目も同じようにお湯を注ぎますね」
ってことは、また違う味になるのかしら? 何だかワクワクしてきたわ!
「もういいかな? ……お、今度は甘みが強くなってきたわ。渋みが減ったからかしら?」
「では4煎目。80度のお湯をたっぷり注ぎますので、15秒ほどお待ちください」
この間にまた、練り切りを1口。苦いものと甘いものを交互に楽しむのが、またいいのよね~。
「あ、時間よね? どれどれ……うん、良く知ってる玉露の味だわ。こんなに何回も楽しめるものだったなんて、知らなかったわ」
「おっと、まだ楽しみが残っていますよ?」
「えっ、楽しみ?」
そう言えばこのお箸と酢醤油、まだ使ってないわ。
「最後に、その茶葉に酢醤油をかけて、お召し上がりください」
「お召し上がりくださいって……えっ、茶葉を!? 普通は捨てるところよね?」
「はい。ビタミン、ミネラルなどが豊富ですので、残すなんて勿体ないですよ?」
「えええ……?」
半信半疑だけど、アタシは言われた通り酢醤油をかけ回して……恐る恐る口に運ぶ。
「わ、茶葉が柔らかい! 葉物野菜のおひたしみたいな食感だわ! 全然苦くなくて、甘みがあって、美味しい!!」
「狙い通りです」
初めての体験に、アタシは感動した。玉露にこんな楽しみ方があったなんて……。
抹茶とはまた違って、奥深いのねぇ。
「アタシ、今まですごく勿体ないことしてたのねぇ。お茶を点てるの難しそうだなって思ってたけど、これなら真似できそう!」
「楽しんでいただけたようで何よりです。煎茶でも同じことができますので是非、ご自身でもどうぞ」
「うん、やってみたいわ!」
と、最後の練り切りを口に入れたところで、ふと思いつく。
「あ……もしかして、紅茶とか烏龍茶の茶葉も、同じように食べられるのかしら?」
「ふむ、確かに……元は同じ茶葉ですね。とはいえ紅茶はその製法上、茶葉が硬そうですが……。
今度調べて、試してみるのも良いかもしれません」
鷹影さんは、こういうの調べるの好きそうだもんね。
「もし美味しかったら、また教えてね!」
「ええ、お任せください」
だからアタシは、そう言って待つことにした。きっとまた、最高のお茶を教えてくれると信じて。




