調合する、マジシャン
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第5章ep.81 地の加護 までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
「うう……今回も合成素材集めハードねぇ……」
森林地帯(夜)での1日目の合成素材集めが終わり、疲れ果てたアタシは、その足でイベントエリア「花畑」に向かう。
こういう時は何かこう、花を愛でつつ、ゆっくりしたい気分よね!
というわけで早速、花の香りを楽しみつつ洋菓子とドリンクのコーナーに移動すると……珍しく真剣な表情で、ラガマフィンさんがドリンク注文用アイコンとにらめっこしてた。
「お疲れ! 何をそんなに悩んでるの? ラガマフィンさんはどれを押したら何が出るか、全部把握してるんでしょ?」
声を掛けたら一瞬ビクッとしてたけど、声の主がアタシと分かるや否や、彼女はすぐに警戒を解いて答えてくれた。
大分人に慣れたと思ってたけど、いきなりだとまだ、そんな感じなんだ……。
「お疲れ様だぞ~。勿論把握してるけど、私は今、新しい調合を考えてたんだぞ~」
ん、調合?
「調合ってもしかして……ここにあるドリンクを?」
「そうだぞ~」
あー、そう言えばいるわよね。ドリンクバーで色んなドリンクを混ぜて楽しむ人。
子供が面白半分にすることが多いけど、大人にもガチ勢がいるとか何とか……。
「アタシはそういうのやったことないんだけど、あれって本当に美味しいの?」
正直、ハズレの方が多いんじゃないかって思うのよね、あれ。
するとラガマフィンさんは、目を見開いて言った。
「やったことないのか!? 勿体ない……絶対人生損してるぞ、それ」
めっちゃ驚かれたんだけど!
「え、そこまで!?」
「じゃあ私がオススメをいくつか作るから、飲んでみたらいいぞ~」
そう言って早速ラガマフィンさんは、作ってくれる係のウパぺんにアイコンを指さしつつ、指示を出す。程なくして提供されたのは……オレンジ色から黄色へのグラデーションになった液体が注がれたグラスだった。
「わ、綺麗! 見た目から美味しそう!」
「お、気に入ったー? まずはそのまま飲んで」
ワクワクといった感じで勧めてくるラガマフィンさんから、グラスを受け取る。
ストローが刺さっていたので、まずは下層の黄色いところを少し飲んでみた。
「これは……オレンジジュース? ちょっと苦みと酸味が強いけど」
「お、分かる?」
続いて上層のオレンジ色のところを少し。こっちは……
「あ、もしかして野菜ジュース? ニンジン多めの」
「そうそう。じゃあ混ぜてみて~」
言われるがままストローで混ぜて飲んでみると、いい具合に味がまろやかになって、飲みやすかった。
「トロピカル野菜ジュース! 確かにこれ、いいわね!」
「お、なんか気に入った? じゃあ次、これね~」
続いて渡されたのは、薄い茶色で炭酸の泡が見えるドリンク。すでに混ぜてあったので、そのまま飲んでみると……爽やかなショウガ風味と甘みの後に、意外な風味が口に広がった。
「え、もしかしてこれ、1つは烏龍茶!?」
「おお、すごいな~。それはジンジャーエール+烏龍茶だぞ~」
「えええっ!?」
でも意外なことに喧嘩することなく、両方の味が調和してて美味しくなってる。しかも、ちょっと高級感あるしっ!
「よくこんな組み合わせを思いつくわね……普通やんないでしょ、これは」
「最後はこれな~」
そう言って渡されたのは、見た目は普通のアイスコーヒー。ちょっと色が薄いかも?
「あ、やっぱり苦みはコーヒー……と思ったら香りが紅茶!?」
「そうだぞ~、コーヒー+紅茶だぞ~。なんちゃって鴛鴦茶だな。香港ではメジャーな味だぞ~」
へええ、実際に香港で飲まれてる組み合わせなんだ……。うん、これは食後の1杯にかなり合いそうっ!
「どれも美味しかったわ、あんがとねー!」
アタシは素直に感想を伝えただけなんだけど、
「べ、別に、私が飲ませたかっただけだしっ」
何ともツンデレな対応をされた。
「確かにこういう美味しい組み合わせを知ってると、ちょっと新しく作るのもワクワクするわねっ! アタシも1つくらい作ってみようかな……」
「お、やってみる?」
とはいえ、どのボタンで何が出るのかを、アタシは全部把握してるわけじゃないからなぁ……。
「ちなみに当たり前だけど、失敗しても全部飲むのがマナーな」
「だよねぇ……。そうなると、うーん……」
これはちょっと覚悟がいるわ……。
「ねぇ、せめて初心者向けのアドバイスはない?」
「そうだな……似た系統のものとか、味の想像ができるものを混ぜると、外れにくいぞ~」
「そっか、いきなりチャレンジは怖いもんね」
というわけでアタシは、リンゴジュースと思われるアイコンと、ソーダと思われるアイコンを指さしてウパぺんにオーダーしてみる。
できあがったものは予想通りの、アップルソーダだった。
「ん~美味しいけど、若干甘すぎたかな? 割合を変えたら、もっと美味しくできたわね。
あ、ソーダじゃなくて炭酸水でも良かったかも!」
「そうやって調合するものを見極めたり、割合を見つけるのも楽しみの1つだぞ~」
ちょっとだけ調合の楽しさ、面白さを知ったアタシは、ちゃんと全部飲み切ってコップを係のウパぺんに返した。
ちなみにアタシたちの様子を見ていた人が多数いたので、これ以降、ジュースの調合ブームが訪れたとか何とか。
まあ一番良かったのは、その調合の相談をラガマフィンさんにする人が増えて、彼女が人に慣れてきたところかなっ!




