仕返しする、プリースト
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第5章ep.72 風の加護 までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
「いいぜくろん、仲直りしようぜ」
ジャスティアさんのその黒い笑みを見て、アタシは顔が引きつるのを自覚した。
いや、それはアタシだけでなく、くろんさん以外の全員か。
絶対、何か企んでる。それは予想なんかじゃなく、確信だった。
でもそれが何なのか分からないので、周りの人たちも遠巻きにこちらを窺ってる。
「2人で仲良く食べればいいんだろ? 今度は俺が食わせてやるよ」
そう言って彼が手に取ったのは、太さ1㎝弱・長さ20cm強はありそうな、細長いプレッツェルが3本入ったコップ。
元々は結構な量が入ってたんだけど、人気でみんながどんどん食べたから、残りはもうそれだけになってたやつだわ。
「あ、それ……私の持ち寄り品……?」
「これなら味は保証されてるだろ? 俺もさっき食ったし」
「ええ……確かに味見もしておいたわ。普通の塩味よ」
くろんさんは気付いてないのか、信頼しているのか……特に警戒する様子がない。
ジャスティアさんはその中の1本を、真ん中部分を持って引き抜いた。
「決まりだ。1回口付けたら、食べきるまで口から離すのナシな? ほれ、口開けろ」
「え? ええ……いいわよ?」
頭に疑問符をいっぱい浮かべつつも、素直に口を開けるくろんさん。
ジャスティアさんは意外にも、優しくプレッツェルの端を2cmほど差し込み……くろんさんが口を閉じ、見ていた全員が安心しきったところで、すかさず反対側の端を自分の口に入れた。
そしてコップを指ではじく。チンッという澄んだ音が、ゴング代わりに響いた。
「まあ! ジャスティアさん、勝負をかけましたね!?」
「やりやがったな、このドSプリ!」
「なんつー騙しうちwww」
一気に沸き立つギャラリーたち。
こ、ここ、これはまさか……2人で仲良く食べるって、そういうこと!?
「……ん、んんんんんんんっ!?!?!?」
思いがけず開始された16cmほどのプレッツェルゲームに、真っ赤になりながら、声にならない悲鳴を上げるくろんさん。
口を閉じてるんだから当然か。
すかさずチョコケーキさんは見えやすい位置に移動し、動画撮影を開始した。
「きゃああああ! どうしよう、尊すぎて死んじゃいそう~!!」
「ここ、これってどうするべき~っ?」
「あっはははははは! 恋人同士、やるなぁ!」
卒倒しかけてるMiyabiさんを、°˖✧はぴ✧˖°さんが慌てて支える。照輝さんは「仲がいいなぁ」くらいしか思ってなさそうだった。
とりあえずギャラリーの中に真珠さんがいるのに気づき、アタシは話を聞くために彼女を引っ張ってくる。
「ねえ真珠さん、ジャスティアさんが勝負をかけたってどういうこと!?」
「先ほどジャスティアさんは、『1回口を付けたら、食べきるまで口から離すのはナシ』って言いましたよね? つまりこれは、一種のチキンレースです!!」
「な、なるほど……つまり、くろんさんはそれにOKしちゃったから、先にお菓子から口を離した方が負けってことね!?」
アタシたちの会話で状況を理解したくろんさんは、んーんー言いながら胸のあたりで両手を振ってる。
多分、早くも無理無理無理って言ってるわね!
それを意に介さず、ジャスティアさんは見せつけるようにゆっくり1口食べた。
「ジャスティアさんの2㎝前進を確認」
って向日葵先輩、笑いをこらえつつも冷静に観察始めてるしっ! そんなことされたら、アタシも実況しないとってなるじゃん!?
アタシは元々あるマイク型の魔導具を、素早く取り出した。
「くろん選手、かなり怯んでます!
それにしてもジャスティア選手のこの表情……何を意味しているのでしょう。解説の真珠さん?」
「自分の勝ちを確信してますね。くろんさんがすぐ、ギブアップすると思ってます!」
マイク型魔導具向けただけで、即対応してくれる真珠さん、さすが!
まあでも……そうね。アタシでもそう思うわ。
「おい、どっちに賭ける?」
「ドSプリだろ、さすがに。つか賭けになるのか、これ?」
「あら、みんなくろんさんが負けると思ってるの? じゃあ私は、くろんさんに賭けようかしら?」
なのにいつの間にか、賭けが始まってるし! ZEROさん実際に賭けてるし!
「勝ちを確信してる」と聞き、くろんさんは思うことがあったのか……突如動いた。
「くろんさんの2㎝前進を確認」
「っ!?」
今度はジャスティアさんが驚くことに。
「何とくろん選手、食べ進めました! ジャスティア選手、ちょっと怯んでます!」
「全く予想してなかったんでしょうねぇ」
とはいえここで終わるような奴じゃないから、大きめに1口いった。
「ジャスティアさんの3㎝前進を確認」
「あらぁ、強気にいきましたね」
「これで残りは9cmほど。お互いすぐそこに、相手の顔がある状況です!」
誰かが呼んだのか、ギャラリーもかなり増えて、もはやお祭り騒ぎに。
「くろんさんの3㎝前進を確認」
「ああっと、ここでお返しとばかりに、くろんさん前進! ですがジャスティア選手も諦めてません!」
「ジャスティアさんの3㎝前進を確認」
これで残り3cmほど……なんだけど、ふと疑問が浮かぶ。
「ところでこれ、終わりはどこなの?」
「あ……さあ? 私がダーリンとプレッツェルゲームする時は、最後に残った部分を、お互い舌で口に押し込み合いますけど……?」
真珠さんのこの解説を聞いた2人はぎくっとし、お互い動きが止まった。
「この反応は……もしかしてこの2人、普通のキスもまだなんじゃ……?」
「恐らくジャスティアさんも、そこまで考えてませんでしたね!」
とはいえ、この勝負を仕掛けたのがジャスティアさんなので、恐らくここで終わる気はない。
その意思を示すように、ジャスティアさんはくろんさんの両肩に手をかけた。
「おおっとジャスティア選手、腹をくくりました! くろん選手は……口からお菓子を離しません! 逃げないようです!」
全員が固唾を呑んで見守る中、ジャスティアさんは食べ進め……ようとしたのだが。
その瞬間、お互い力が入りすぎたのか、プレッツェルが真ん中でポキッと折れた。
「あ」
「え?」
「あああああーーーっ!!」
様々なギャラリーの反応が入り乱れる中、真っ赤になった2人は互いに、残った部分をそそくさと自分の口に入れる。
「何と、まさかの引き分けです! 惜しい! 本当に惜しい勝負でした!」
「え、1回勝負だったんですか? あと2本残ってますよね?」
真珠さんの解説を聞いたジャスティアさんとくろんさんは、慌てて1本ずつプレッツェルを手に取り、打ち合わせてもないのに、互いの口に同時に突っ込む。
互いに同時に食べさせ合うというこの、あまりに息ぴったりの2人に、みんなどっと笑った。
ま、確かに仲直りにはなったかしらね!




