表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

弱気で泣き虫な、ナイト

本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第2章ep.15 人知れず までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。


未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。

菖蒲先輩と一緒に適性者ギルドに来てみたら、がらんとしてて何だか、別の場所みたいな感じになってた。人がいないだけで、こんなに寂しく感じるものなのね。


でも……人がいないんじゃ、「人の心を豊かにする活動」なんてできないわよね? 職業訓練所の方から声がするから、そっちに行くのかしら?


そんなことを考えてたら、菖蒲先輩は逆に、人気がない方へと足を向けて歩き出したからびっくり。


「え、どこに行くんです!?」

「ここに来てまだ日が浅いし……救護室か、使われてない空き部屋が怪しいんちゃうかな? いなけりゃそれで、かまへんのやけど」


言いながら救護室をそっと覗く先輩に続いて、アタシも覗いてみる。夜遅い時間なだけあって、誰もいないわね。


続けて空き部屋を1つ1つ確認する菖蒲先輩に、首をかしげながら付いてくと、最後の空き部屋の近くに来たところで、ふいに足を止める。そのまま静かにするようにとジェスチャーしつつ、菖蒲先輩はアタシを制した。すぐにその理由に気づく。


これって……誰かが泣いてる?


2人でそっと部屋の中を覗いてみると、隅の方でうずくまっている人影が見えた。


「出番やね。ペンタスちゃん、急いでアバター変えて。いかにも優しそうな感じに」


小声で言うが早いか、菖蒲先輩は一瞬で白いローブに身を包んだ、今までとは全く違うアバターのプリーストに変わった。多分、事前にアバターセット登録してあったんだわ。

アタシは少しだけ考えてから、お揃いの白いローブに合うアバターに変えた。念のためボイスも、そういう系にしておこ……。


「まいりますわ。無理に話さなくても良いので、見て学んでくださいね?」


予想通り、ボイスも口調も優しげなものに変えてあった。「相手に合わせて寄り添う」って言ってたのは、このことか……。

アタシは無言で頷くと、菖蒲先輩に続いてゆっくり部屋に入った。


「……ひっ! 謝るからぶたないでお願い」


泣いていたのは、性別1アバターのナイトだった。着ているのはいかにもな鎧だけど、弱気なせいか、「鎧に着られている」感がすごいわね。

というか、近づいただけでそんなに怯えなくてもいいのに、どうして……?


「驚かせてしまい、申し訳ございません。お声が聞こえたので、来てしまいました。

どうなさいましたか? わたくしでお役に立てますか?」


怯えは消えたけど、ナイトくんは無言のまま、アタシたち2人をゆっくり交互に見つめてる。迷ってるんだろうな、きっと。


「近しい方には話せなくても、見知らぬ他人になら話せることもあるでしょう? 勿論、悪いようにはいたしませんので、ご安心ください」


下手なこと言わないように、アタシも無言で頷く。辛抱強く待ってると、ようやくナイトくんがうつむいたまま口を開いた。


「あの……僕はその……こんなこと言っちゃダメだって、分かってるんだけど……。ほ、本当に、ここから出たいのか、分からなくて……」


驚きのあまり声が出そうになったのを、アタシは必至でこらえた。まさか、そんなこと考えてる人がいたなんて。


「……続けてください」

「………………僕、いじめられっ子で……ここから出ても、またいじめられるだけだろうなって思うと、その……戻っても、誰も助けてくれないし……。

でも、こっちの世界に僕がいても仕方ないよね……? どうせ僕なんか……役に立たないし……はあ~……」


ああ、この子はこっちの世界に来る前に、誰かに自信を根こそぎ奪われたんだわ。でも……。


アタシも戦闘不能になった時、もう駄目かと思ったけど、寄り添ってくれる人がいたから大丈夫だった。ならアタシも、この人に同じことができるかな? ううん、やりたいんだ……!


「仕方ないなんて、役に立たないなんて、言わないでよ」


思わずアタシは、そう言って彼の手を握ってた。


「アタシも役に立てるか不安だけど、それでも、できることをやろうって思ってる。少なくともアタシは、あなたの力がいらないなんて思ってない。

だから……だから! 一緒に……頑張ろうよ……?」


ボイスは優しいものに変えてたけど、口調までは変えきれなくて、いつものままになっちゃった。でも、これがアタシの本心だから、そのまま彼に届けたい。


「わたくしも、そんなに卑下されなくて良いと思います。

それに、『戻っても誰も助けてくれない』ということはありません。少なくとも、わたくしはあなたの味方になりますし、ここで知り合う方々もきっと、あなたの味方になってくれますよ?」

「はい、アタシもなりますっ! だから……1人で泣かないで」


ナイトくんとアタシは、2人してボロボロ泣いた。ナイトくんの不安の一部が、アタシと同じだったから、すごく共感できちゃって。


「僕、ナイト初めてだけど……役に立てるかな?」

「アタシもプリのこと、よく分かってないから、これから頑張れば大丈夫だよ!」

「みんなに迷惑かからないかな?」

「初心者ならそんなの当たり前だし、そんなことで怒るナイトの先輩なんて、きっといないよ!」

「でもハッピーエンドを目指せなんて、無理だよ逃げようよ」

「逃げるところもないから、一緒に頑張ろうよ! 頑張ってここから出て、その後はいじめっ子もみんなで倒そうよ!」


しばらくすると、ナイトくんは手でぐしぐし涙を拭いて、深呼吸した。そして……


「ごめんなさい……なさい……。もう、大丈夫……。あ、ありがとう……」


ようやく顔をあげてくれたから、アタシも涙を拭いて笑い返しつつ、頭上のプレイヤー名を確認する。


「僕……まずはナイトグループ部屋に行って、ナイトの先輩たちから、基礎をしっかり教わろうと思います……。元々、ナイトに憧れてガチャ引いたんだし……」

「うん、アタシも先輩たちに頼る。すごく素敵な人たちだからっ」

「それで、その……ちゃんと誰かを守れるようになったら……自信持ってもいい、かな?」

「勿論よ、クリフくんっ! ナイトをしてくれてありがとう! ナイトは貴重だから、本当にそれを頑張ろうとするだけでも凄いよっ!」


アタシがそう言うと、彼はびっくりし、恥ずかしそうに指で頬を掻く。


「あの……本当に、助けてくれてありがとう。もう行きますね?」

「うん、いってらっしゃい。辛くなったら、また一緒に泣こう?」


ようやく少しだけ笑顔を取り戻したクリフ君は、そのままワープ移動した。


「……ペンタスちゃん」


いつの間にか元の姿と声に戻ってる菖蒲先輩に声をかけられて……アタシはようやく、研修中だったことを思い出した。


「あっ! ご、ごめんなさい菖蒲先輩。アタシったら、黙って見てるつもりが……!」

「いや、良かったで。初めてと思えんくらい。ウチらがやる活動は、まさに今みたいなことやから」

「えっ、ホントに? アタシ夢中で、何も考えてなかったけど」

「でもちゃんと、ペンタスちゃんは相手の気持ちに寄りそえてたし、相手が欲しい言葉をかけられてたで。次からは1人でもできるんちゃう?」


そんなに褒められると思ってなかったから、顔が赤くなるのを自覚した。


「が、頑張ります……」


クリフくんと約束した手前、そうとしか答えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ