弱気で泣き虫な、ナイト
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第2章ep.15 人知れず までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
菖蒲先輩と一緒に適性者ギルドに来てみたら、がらんとしてて何だか、別の場所みたいな感じになってた。人がいないだけで、こんなに寂しく感じるものなのね。
でも……人がいないんじゃ、「人の心を豊かにする活動」なんてできないわよね? 職業訓練所の方から声がするから、そっちに行くのかしら?
そんなことを考えてたら、菖蒲先輩は逆に、人気がない方へと足を向けて歩き出したからびっくり。
「え、どこに行くんです!?」
「ここに来てまだ日が浅いし……救護室か、使われてない空き部屋が怪しいんちゃうかな? いなけりゃそれで、かまへんのやけど」
言いながら救護室をそっと覗く先輩に続いて、アタシも覗いてみる。夜遅い時間なだけあって、誰もいないわね。
続けて空き部屋を1つ1つ確認する菖蒲先輩に、首をかしげながら付いてくと、最後の空き部屋の近くに来たところで、ふいに足を止める。そのまま静かにするようにとジェスチャーしつつ、菖蒲先輩はアタシを制した。すぐにその理由に気づく。
これって……誰かが泣いてる?
2人でそっと部屋の中を覗いてみると、隅の方でうずくまっている人影が見えた。
「出番やね。ペンタスちゃん、急いでアバター変えて。いかにも優しそうな感じに」
小声で言うが早いか、菖蒲先輩は一瞬で白いローブに身を包んだ、今までとは全く違うアバターのプリーストに変わった。多分、事前にアバターセット登録してあったんだわ。
アタシは少しだけ考えてから、お揃いの白いローブに合うアバターに変えた。念のためボイスも、そういう系にしておこ……。
「まいりますわ。無理に話さなくても良いので、見て学んでくださいね?」
予想通り、ボイスも口調も優しげなものに変えてあった。「相手に合わせて寄り添う」って言ってたのは、このことか……。
アタシは無言で頷くと、菖蒲先輩に続いてゆっくり部屋に入った。
「……ひっ! 謝るからぶたないでお願い」
泣いていたのは、性別1アバターのナイトだった。着ているのはいかにもな鎧だけど、弱気なせいか、「鎧に着られている」感がすごいわね。
というか、近づいただけでそんなに怯えなくてもいいのに、どうして……?
「驚かせてしまい、申し訳ございません。お声が聞こえたので、来てしまいました。
どうなさいましたか? わたくしでお役に立てますか?」
怯えは消えたけど、ナイトくんは無言のまま、アタシたち2人をゆっくり交互に見つめてる。迷ってるんだろうな、きっと。
「近しい方には話せなくても、見知らぬ他人になら話せることもあるでしょう? 勿論、悪いようにはいたしませんので、ご安心ください」
下手なこと言わないように、アタシも無言で頷く。辛抱強く待ってると、ようやくナイトくんがうつむいたまま口を開いた。
「あの……僕はその……こんなこと言っちゃダメだって、分かってるんだけど……。ほ、本当に、ここから出たいのか、分からなくて……」
驚きのあまり声が出そうになったのを、アタシは必至でこらえた。まさか、そんなこと考えてる人がいたなんて。
「……続けてください」
「………………僕、いじめられっ子で……ここから出ても、またいじめられるだけだろうなって思うと、その……戻っても、誰も助けてくれないし……。
でも、こっちの世界に僕がいても仕方ないよね……? どうせ僕なんか……役に立たないし……はあ~……」
ああ、この子はこっちの世界に来る前に、誰かに自信を根こそぎ奪われたんだわ。でも……。
アタシも戦闘不能になった時、もう駄目かと思ったけど、寄り添ってくれる人がいたから大丈夫だった。ならアタシも、この人に同じことができるかな? ううん、やりたいんだ……!
「仕方ないなんて、役に立たないなんて、言わないでよ」
思わずアタシは、そう言って彼の手を握ってた。
「アタシも役に立てるか不安だけど、それでも、できることをやろうって思ってる。少なくともアタシは、あなたの力がいらないなんて思ってない。
だから……だから! 一緒に……頑張ろうよ……?」
ボイスは優しいものに変えてたけど、口調までは変えきれなくて、いつものままになっちゃった。でも、これがアタシの本心だから、そのまま彼に届けたい。
「わたくしも、そんなに卑下されなくて良いと思います。
それに、『戻っても誰も助けてくれない』ということはありません。少なくとも、わたくしはあなたの味方になりますし、ここで知り合う方々もきっと、あなたの味方になってくれますよ?」
「はい、アタシもなりますっ! だから……1人で泣かないで」
ナイトくんとアタシは、2人してボロボロ泣いた。ナイトくんの不安の一部が、アタシと同じだったから、すごく共感できちゃって。
「僕、ナイト初めてだけど……役に立てるかな?」
「アタシもプリのこと、よく分かってないから、これから頑張れば大丈夫だよ!」
「みんなに迷惑かからないかな?」
「初心者ならそんなの当たり前だし、そんなことで怒るナイトの先輩なんて、きっといないよ!」
「でもハッピーエンドを目指せなんて、無理だよ逃げようよ」
「逃げるところもないから、一緒に頑張ろうよ! 頑張ってここから出て、その後はいじめっ子もみんなで倒そうよ!」
しばらくすると、ナイトくんは手でぐしぐし涙を拭いて、深呼吸した。そして……
「ごめんなさい……なさい……。もう、大丈夫……。あ、ありがとう……」
ようやく顔をあげてくれたから、アタシも涙を拭いて笑い返しつつ、頭上のプレイヤー名を確認する。
「僕……まずはナイトグループ部屋に行って、ナイトの先輩たちから、基礎をしっかり教わろうと思います……。元々、ナイトに憧れてガチャ引いたんだし……」
「うん、アタシも先輩たちに頼る。すごく素敵な人たちだからっ」
「それで、その……ちゃんと誰かを守れるようになったら……自信持ってもいい、かな?」
「勿論よ、クリフくんっ! ナイトをしてくれてありがとう! ナイトは貴重だから、本当にそれを頑張ろうとするだけでも凄いよっ!」
アタシがそう言うと、彼はびっくりし、恥ずかしそうに指で頬を掻く。
「あの……本当に、助けてくれてありがとう。もう行きますね?」
「うん、いってらっしゃい。辛くなったら、また一緒に泣こう?」
ようやく少しだけ笑顔を取り戻したクリフ君は、そのままワープ移動した。
「……ペンタスちゃん」
いつの間にか元の姿と声に戻ってる菖蒲先輩に声をかけられて……アタシはようやく、研修中だったことを思い出した。
「あっ! ご、ごめんなさい菖蒲先輩。アタシったら、黙って見てるつもりが……!」
「いや、良かったで。初めてと思えんくらい。ウチらがやる活動は、まさに今みたいなことやから」
「えっ、ホントに? アタシ夢中で、何も考えてなかったけど」
「でもちゃんと、ペンタスちゃんは相手の気持ちに寄りそえてたし、相手が欲しい言葉をかけられてたで。次からは1人でもできるんちゃう?」
そんなに褒められると思ってなかったから、顔が赤くなるのを自覚した。
「が、頑張ります……」
クリフくんと約束した手前、そうとしか答えられなかった。




