包容力のある、ナイト
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第3章ep.43 銀等級昇格 までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
ラーヴァゴーレムとの戦いが終わった途端、水属性選抜チーム4人が倒れたのを見て心配になったアタシは、ウパぺんが出したパーティ募集に乗って移動した4人を追いかけ、湖沼地帯(昼)を彷徨ってた。
ここって結構、色んな所で水に浸かれるから、どこに行ったんだが……。
あ、いたいた、やっと見つけたわ!
「ジャスティアさんはまず間違いなく、初対面の人に弱みを見せるのが嫌で、攻撃的に出たり、虚勢を張ったりしてしまうタイプなんですよ。自分にあまり自信がないんだと思います」
「はあ!? だからあの『俺の犬になるか』発言ってこと!?」
「しかも口下手というか、説明を面倒くさがるので、誤解されやすいんですよね。『この人は敵じゃない』って認識したほんの一部の人にだけ、素を見せるんです」
丁度聞こえてきた会話が、それだった。
へぇ……真珠さんってあいつのこと、やたら理解してるのねぇ……。
つかあいつ、この人たちに「俺の犬になるか」とか言ったの? 馬鹿じゃないの? ……後で先輩に詳しく聞こ。
「えー? 全然分からなかったうー!」
「まあ……よく気づきましたね?」
「それはそうですよ、ふふっ。私にとっては、慣れたものなんです。夫とよく似たタイプなので」
これを聞いた全員が納得してた。
にしても、この世にあの男と似た人がいて、しかも既婚者だとは……。
「ちょ、ちょっとタンマ! それ、もっと詳しく聞きたいんだけど!」
みんなの会話を聞いてるうちに、心配は不要だと分かったので、アタシは自分の興味を優先させることにした。
「詳しく……私の夫のことをですか?」
「そう! 滅茶苦茶気になるんだもん。みんなもそうでしょ?」
聞いてみると、他の水属性選抜メンバーたちもやっぱり興味あったみたいで、
「つまりあいつの場合、目に映るものが真実じゃないんでしょ? 今後の参考になりそうだから、聞きたいわ!」
「うー!」
「よろしいでしょうか?」
次々と同意してくれた。
ただユウさんだけは興味ないのか、どこかにワープしていく。
「あらあら。いいですけど、みんなどんなことを聞きたいのかしら?」
色々聞きたいことはあるんだけど、まあ一番はこれかしらね?
「その旦那さんって、どんな人なの?」
「うーん……見た目の話でしたら、身長はここで言うところの、性別1の中身長くらいですねぇ。かなり痩せてますけど、肉体労働だから力は強いですよ。
いつも厳しい顔して、あまり笑わなくて、口数も少なくて……闇のオーラを纏っているというか……」
「闇のオーラ!」
あ、よー子さんが食いついた。
「でも私のことだけは、優しい目で見てくれるんですよねぇ」
そう語る真珠さんは幸せそうだけど、闇のオーラを纏ってる人って、全然誉め言葉じゃないわね……。
「じゃあ性格は?」
「学歴コンプレックスがあるからだと思うんですけど……尊敬できる人にはちゃんと接するんですが、自分と対等な人や初対面の人にはマウント取りに行きますね。
自分より何か劣っていると判断した人には、かなり攻撃的らしいですけど、主に職場でのことらしくて、私は見たことないです」
あ、性格はマジであいつに近いところあるんだ。
「マウント取りに行くって、何するんだうー?」
「職場でどうしているかは知りませんけど……2人で外に出ると、すぐ手を繋ぎたがりますね。買い物にはほぼ付いてきて、スーパーだと率先してショッピングカート押してます。
他人に私と仲が良いところを見せつけて、優越感得たいそうです」
あ、そういうことか。ならマシ……なのかしら?
いや、真珠さんに見せられないほど攻撃的な時もあるなら、微妙?
「あら……ではご自宅では……?」
「愛情足りずに育ってるからか、かなり溺愛系ですね。といっても『好き』とか『愛してる』とか、『可愛い』とかは恥ずかしいらしくて、一切言ってくれませんけど」
「う~……それでどうやって、愛情表現してるうー?」
「主にスキンシップです! ハグ・ちゅー・なでなで、ですね♪」
なるほど、口より手が出るタイプかぁ。
身内とそれ以外とで、全然印象違う人なんだろうなぁ……。
「もう色々甘えて来るから、5歳児育ててる感覚ですよ。年齢的に50歳児ですが……」
え゛……全然想像できない……。
「影の精霊が具体的に知りたがってるわ」
「例えば料理作ってる時に、『この動画見て~』とか言ってきますね。あと姿が見えないと、家の中でも探しに来ます。さすがに大人なので、トイレやお風呂の扉を開けるほどではないですが」
あ~うん、それは本当に5歳児ね。
「あと、心が満たされない時は料理中でもお構いなく、背中から抱きついて、私の匂い嗅いでますね」
「は、破廉恥です!」
「えっ、それリアル!? ドラマや映画の中だけのシチュエーションじゃないの!?」
「我が家ではリアルですねぇ。結婚する前からずっと、『行ってらっしゃい』と『お帰りなさい』がチューとハグなので、ちょっと普通が分からないんですが」
これは凄いわ。想像以上だったわ。
「だとしますと、真珠さんはどちらかと言うと春の陽だまりのような方ですので……何だか今流行りの女性向け小説のカップルみたいな組み合わせなんですねぇ……素敵です」
「まあ! 言われてみれば確かに、うちの夫に権力とお金と見た目まで揃ったら、今やってる女性向け映画の、どこぞの鬼みたいになりそうです!」
「すごいうー!」
春水さんもしかして、そういう話好きなのかしら? 色々その手の小説読んでたりして。
「結構……いや、かなり愛が重そうね……」
「本人もその自覚があるので、最初の頃は『どの程度までなら私が許容するか』を、確認しつつ色々してましたよ? まあ私が全く嫌がらないから、どんどんエスカレートしましたけど。
もう結婚して12年以上経ちましたが、今でも寝る時は私、夫の抱き枕になってます」
人間を抱き枕に……。
「途中でトイレに行きたくなったりしたら、どうすんのよそれ?」
「そうならないように、事前にトイレと水分補給を済ませるんですよ!
最初の頃は力加減できず、窒息しかけたことが2回ほどありましたけど、睡眠学習させた甲斐があって、今じゃちゃんと腕の力緩めてくれますけどね」
いやいやいや、それでも毎日それって、かなりだから……。
「真珠さんはそれで、大変じゃないうー?」
「私も愛情に飢えてた頃に出会ったからか、辛いと思ったことはないです」
これってよく考えたら、真珠さんの包容力が凄いから、旦那さんがそんな人でも簡単に受け入れられてるんじゃ……。さすがナイトたちの母ね。
「ちなみにプロポーズはどっちから?」
「夫ですよ。と言っても、言葉はくれませんでしたけど」
「何それ。影の精霊が意味が分からないと言っているわ」
アタシにも全然分かんないわ……。
でもアタシは、その先の話を聞く機会を失った。丁度その時、くろんさんが血相を変えて、アタシたちの方に走ってきたから。
よほど走り回ったのか、彼女は少し呼吸を整えてから、ようやく口を開いた。
「あの……ごめんなさい。ティアを、見なかった……?」




